事変の序曲(5)(脚本)
〇古い競技場
根室「・・・ほう」
根室「御堂組の資材置き場を利用しているのか」
ダリア「正しくは劇場予定地だったものを巻き上げたんだけどね」
根室「本末転倒だな。片腹痛い」
ダリア「はい。彼が書いた台本」
根室「まだ『彼』と呼ぶのかい?」
ダリア「・・・」
ダリア「朝までに返さないとだから早く目を通して」
根室「あいつの書いた薄い本など五分で読める」
根室「・・・」
根室「美少女戦士が歌の力で鬼退治。何番煎じのアイディアだ?」
根室「目をつけた女優を振りむかせる下衆作家の常套手段だね」
ダリア「早く読んで!」
根室「・・・ふむ。鬼退治は使えるな」
根室「ならば、鬼弾圧に書き直そうじゃないか」
ダリア「鬼弾圧?」
根室「鬼とは本来貴族が目を背けるものの全て。熊襲蝦夷につらなる者。卑賤に属する者。或いは紅毛異人のたぐい」
根室「つまりは『虐げられるただの人間』」
根室「・・・繋がった」
根室「これで燕の催すお遊戯会が、革命の狼煙と変わる」
根室「そして鬼の王は人柱・・・いや鬼柱となる」
根室「ククククク・・・」
〇古い競技場
根室「ククククク・・・」
?「我らは鬼。踏みつけられた者」
?「我らは鬼。抑圧された者」
?「我らは鬼。利用された者」
?「誰に?」
?「何に?」
?「都に」
?「国家に」
?「権力者どもに」
?「さあ鬼の王よ。我が盟主よ」
?「皆を導いてくれ」
?「貧困にあまんじ、怠惰に蝕まれ、荒廃した都で希望なき我らのために!」
?「いや、我らだけではない」
『我らの愛する子らのため!』
『我らの愛しい未来のため!』
?「さあ、しばし考えよ」
?「しばし語り合え」
?「都の未来を」
?「君達の未来を」
義孝「貴様ら・・・何者だ?」
?「我らはあなた様の配下」
?「新時代を作るべく鬼となる者」
?「王権にこびる犬を討て。支配者にへつらう猿を討て。国と家を堕落させる歌を、踊りを討て」
「今、新たなる時代は鬼により作られる!」
燕「何だこれは・・・何が起こってるんだ」
燕「やめろ!僕の舞台を汚すな!」
臣民「うるせえ!黙って観ろ!」
臣民「今、いいところじゃない!」
燕「・・・」
義孝「どうするヒナ・・・」
ヒナ「幕を降ろさせちゃいけねえ。成立させんだ」
ヒナ「・・・ったく、こんな物騒な台詞いいたかないけどさ」
ヒナ「みんな、剣を取れ!都の貴族をやっつけるぞ!」
未来子「・・・そういう事か」
義孝「なに?」
未来子「さすが私の愛した男ね」
根室「ああ、君なら必ず分かってくれる。君を輝かせられるのは僕だけだ」
根室「戻っておいで。彩ちゃん」
未来子「私が間違ってたわ」
ケン「え?」
ゴザエモン(完全形態!)「どういうこと?」
未来子「私の歌は弱き者に希望を与える歌。勇気と力を与える歌」
未来子「こんな戯れ事の為の歌じゃない」
未来子「フィクションはここまで。これから本当の物語を客席のみんなが作るのよ」
未来子「この私の歌と一緒に!」
燕「未来子さん」
根室「彩ちゃん」
〇雑踏
狂ってるのはワタシ?
だったら壊れてあげる
狂ってるのはセカイ?
だったら壊してあげる
全部全部アナタのため
全部全部ワタシのため
全部全部未来のため
全部全部アナタと一緒
全部全部ワタシと一緒
ぶっこわせ!ぶっこわせ!ぶっこわせ!
笑顔もいらない
涙もいらない
持っているのは怒りだけ
求めてるのは炎だけ
ぶっこわせ!ぶっこわせ!ぶっこわせ!
まっさらなセカイを、まっさらなミライを
アナタにあげる
ワタシにあげる
〇祭祀場
天粕「そうか・・・」
天粕「始まったか。蓬莱事変が」
天粕「まずは鬼の首魁、を捕らえる」
戒厳警備兵「閣下。そのことですが」
天粕「何か」
戒厳警備兵「やはり最上少尉をあの者に接近させるは、些か危険かと」
天粕「問題ない」
戒厳警備兵「どういう意味です?」
天粕「最上の浅知恵など既に見抜いている」
戒厳警備兵「ご無礼いたしました」
天粕「・・・愚かな奴だ。鉄面皮程度でこの私を出し抜けるとでも思ったか」
大泉「失礼する。天粕少将」
天粕「天粕で構いませんよ」
天粕「今の所は」
大泉「・・・」
〇古い競技場
『全部全部ぶっこわせ!』
『全部全部作り変えろ!』
最上(あと一歩だ)
最上(私が守りきります)
最上(だから閣下・・・もう一度、表舞台に!)
?「号令を。バロン『義孝』」
義孝「トラか?」
?「僕達と一緒に立ち上がって」
義孝「デンキ・・・」
?「この貧民窟でお前は何を見たんだ」
?「その日暮らしの享楽に身を委ねるしかない空しい世界。夢を追い求め幻に朽ち果てる悲しい人々」
?「ほんの少しでもいい。僕達だって帝都の光を浴びたいんだよ」
マネ玄人「努力しても認められなかった」
クラムぼんぼん「頑張っても報われなかった」
?「尽くしても愛されなかった」
義孝「ダリア」
?「傷をなめ合うのはもう沢山」
?「今度は俺達が傷を与える番だ」
?「ぶっ壊せ」
?「ぶっ壊せ」
?「ぶっ壊して未来を作れ!」
「鬼の王よ!魔王よ!」
義孝「・・・」
義孝「ヒナ・・・未来が欲しいか?」
ヒナ「え?」
義孝「もう二度と涙を流すことのない未来が」
ヒナ「・・・」
義孝「ならば、お前の為に叫ぼう」
義孝「若者よ!今を壊せ!未来を作り変えろ!」
最上「騒乱罪!暴動教唆適応!」
最上「舞台を包囲!その男を捕縛せよ!」
戒厳警備兵「動くな!戒厳警備兵である!」
戒厳警備兵「演劇を中止せよ!誰一人動くな!」
最上「お迎えに上がりました。閣下」
義孝「最上・・・」
つづく