エピソード6(脚本)
〇謁見の間
――結論から言うと、勇者は指輪を嵌めなかった。
例え、王女にどう言いくるめられようが、それだけはしなかった。
指輪なんてものを、王女からしかもシスリーの前で嵌めることなど、勇者は絶対にしたくなかった。
勇者(・・・ちくしょう)
指輪を投げ捨てたい衝動にかられたが、何とかこらえてポケットにしまい込んだ。
そして、
目線を合わせないシスリーに近づき、
勇者「元気になったら迎えに来る。いつでも呼んでくれ。・・・・・・それまで俺は魔物討伐に行く」
強い口調で言い放ち、城を後にした。
王女はというと
王女「いつでもお待ちしておりますよ。勇者様。フフ」
〇寂れた村
シスリーと再び一緒にいる日を夢見て、勇者は魔物討伐を再開した。
だが、半年もの間、討伐を行わなかったため、魔物は雑草の如く各地に繁殖し、国民はその被害に苦しんでいた。
各地から要請を受けて、一つ一つ処理に当たっていたが、ブランクもあり、以前より腕はさらに数段落ちていた。
傷は毎日のように身体のどこかに負い、血を流さない日はない。
勇者(・・・せめてシスリーがいれば・・・)
おまけに、傷を癒してくれるシスリーも居ない。
だが、勇者に弱音を吐くことは出来なかった。
国民が、魔物に苦しむ民が、勇者に救いを求めていた。
勇者には休暇など無かった。
――弱きを助け、強きを挫く。
彼の信念は、確実に彼を壊していた。
〇集落の入口
勇者の力が衰える一途を辿る一方で、魔物は繁栄を遂げようとしていた。
進化を遂げ、魔物から魔族へと昇華した種族もいるとかいない、とか。
それらを抑止する力などとうの昔に失せており、国民は魔物に蹂躙され、国土は荒れに荒れていた。
それでも勇者は諦めなかった。
村を巡って、村人に護身術を教え、抵抗する術を伝授するなどをして、策を講じた。
が、まるでそこに狙いを打ったかのように、村は魔物に破壊された。
しかもタイミングはいつも同じで、勇者が村を去った数刻後
急いで村に引き返した時には、既に遅し。
燃え盛る炎に包まれた村を前にして、勇者は涙を流して、村を当てもなく彷徨った。
生存者を求めて。
――見つけた。
瓦礫の下敷きになり、気絶しているがまだ生きている15に届くか届かないかの少女。
勇者はすぐに瓦礫をどかして、子供を救助した。
勇者(この子の他に生存者は・・・・・・・・・?)
急いで探索したが、少女以外にはいなかった。
勇者は諦め、少女をおぶって、近隣の診療所まで運んだ。
〇地下室
その少女の名ははカレン。
色白でどこか人間離れした容姿をしていて、将来はとてつもなく美女になるであろう事は想像に難くない。
カレンは、診療所のベッドの上で意識を取り戻した。
勇者「君、大丈夫かい?」
村人「・・・え」
カレンは目をパチリパチリとさせるだけで、状況を飲み込めていない様子だったが、しばらくして、両親の死を直感的に悟ったのか
ワンワン泣き出して、勇者を責めた。
村人「なんで・・・なんで私だけ生き残ったのよ・・・なんで」
勇者「・・・」
勇者は甘んじてカレンの言葉を黙って聞いていた。
そう。
『詐欺師』と言われるまでは。