最後のメリークリスマス

矢島好喜

読切(脚本)

最後のメリークリスマス

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〇クリスマスツリーのある広場
  12月24日 19:00
ユウ「遅えなぁ。何やってんだ」
  星の海に舞い込んだような
  イルミネーションの中、
  俺は繁華街のど真ん中に設置された
  バカでかいツリーの前で
  ポツンと一人立っていた。
  約束の時間は18:30。
  わざわざバイトを切り上げて来たのに、
  30分経っても
  マキは一向にやってくる気配がない。
ユウ「いい加減寒すぎるな。 どっかカフェにでも避難す・・・」
ユウ「ん?」
  そう言いかけたところで、
  視界の端に待っていた恋人を見つけた。
  どうやら待っている場所が
  微妙にズレていただけらしい。
ユウ「おーい!! マ・・・」
マキ「あっ」
キヨ「ごめんごめん、会社出る前に メール飛んできちゃって」
マキ「大丈夫。忙しいもんね、キーくん」
  恋人のそばに駆け寄ろうとしたところ、
  俺とマキの大学時代からの親友である
  キヨがマキの前に現れた。
マキ「マネージャーさんだし。 お仕事大変でしょう? ・・・付き合ってくれて、ありがとう」
キヨ「いやいや、大丈夫だよ」
  その手には、
  恐らく目の前の恋人に贈るであろう
  5本のバラの花束が握られている。
マキ「・・・キレイな花」
キヨ「・・・この日くらいは、ね」
マキ「ありがとう、嬉しい」
  マキが花束を受け取ると、
  二人は並んで歩き出す。
キヨ「・・・大丈夫かな、俺なんかがいて」
マキ「・・・キーくんに、いてほしいんだよ」
  血の気がスーッと引いて、
  身体の感覚がなくなっていくのがわかる。
  走って呼び止めれば、
  二人と話せたのかもしれない。
  何かの誤解があったのかもしれない。
  けど、今の俺はただ
  そこに立ち尽くすことしか出来なかった。

〇一人部屋
  12月23日 8:00
マキ「今日も遅くなる?」
ユウ「ああ、最終までシフト入れられてるから。 先に寝てていいよ」
マキ「来年から社会人なんだし、 今そんなにバイトしなくても・・・」
ユウ「ん、まぁそうだけどさ」
ユウ「お義父さんも言ってたように、 社会勉強はしておいた方がいいって」
ユウ「社長さんの言葉だから重みがあるよ」
マキ「いつの間にかわたしより 仲良くなってるんだもんなぁ」
ユウ「男同士だからな。 っと、じゃ、遅れるから、出るよ」
マキ「はーい、いってらっしゃい。 あ、でも・・・」
ユウ「ん?」
マキ「明日は、ダメだからね?」
ユウ「・・・わかってるよ」

〇渋谷のスクランブル交差点
  12月24日 23:00
  歩いて、歩いて。
  一体何時間経ったのかわからない。
  自分が今どこにいるのかも、
  これからどこに向かえばいいのかも
  わからない。
  祝福に聞こえていた街の歌が、
  今は耳障りでしょうがない。
  俺の何がいけなかったんだろう。
  どうしてマキは・・・。
娘「ママ、いつになったら お兄ちゃんに会えるの?」
  そう思った時、
  小さな娘を連れた母親が、
  何やら交差点で熱心に両手を合わせて
  目を閉じているところに出くわした。
母親「・・・サヨがいい子にしてたらね。 お兄ちゃんもきっと忙しいから」
娘「そっかー・・・」
ユウ「俺は何となくそのやり取りが気になって、 声がはっきり聞こえるところまで 近づいた」
娘「さよ、お兄ちゃんに おれいしなきゃいけないからさ」
母親「・・・そうね」
  明るく話す娘とは対照的に、
  母親は神妙な面持ちで
  また手を合わせて目を閉じる。
  ここは繁華街の一角のくせに、
  そこそこ交通量が多い。
  しかも、6方向に道が続いているせいで、
  どの信号を見ればいいのかが
  分かりづらい。
ユウ「・・・」
  『そういうこと』なんだろう。
  俺は痛ましい気持ちに駆られ、
  自分の置かれた状況を忘れていた。
  しばらくして、
  その母娘が立ち去った後、
  俺もせめて手を合わせようと、
  その事故が起きたであろう場所に立った。
  深夜で人通りが少ないとは言え、
  俺の背後を色んな人々が行き交う。
  そのほとんどは、
  その事故現場に見向きもしない。
  両手を合わせて目を閉じ、
  しばらくして目を開ける。
  俺の視界に飛び込んできたのは、
  5本のバラの花束だった。

コメント

  • 彼女とマネージャーが待ち合わせして、しかも薔薇の花5本ときたら、もう、彷徨い歩くしかないでしょう。でも、ラストの薔薇の花5本はハッピー。

  • 胸がぐっと悲しくなるストーリーでした。「最後」の言葉が腑に落ちました。短いストーリーでしたが、内容の濃いお話しで楽しく最後まで読ませて頂きました。

  • ラストまで読んで、すぐさまもう一度読み返しました。そして、「悲しい物語だなぁ」という感想の”悲しい”の意味が変わりました。

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