#3 キャッシュレス(脚本)
〇ラジオの収録ブース
ヒカリエ・ラジ公スタジオから生放送です
区としてもキャッシュレス化推進のため
予算を確保しました
渋谷区ライフをもっと便利に、おトクに
お問合せはハチペイサポートデスクまで
電話は050-5443-xxxx
〇大衆居酒屋
タケ「キャッシュレス入れましょうよー」
タケ「人手もないし 両替とかに走ってる場合じゃないっすよ」
〇古いアパートの部屋
ノン「あいつ、タケ! ふざけんな これまでのやり方にいちいち口出しする」
マイ「イマドキ現金のみって江戸か (PCをパチパチ)」
ノン「現金のみの客もいる」
マイ「てか、そういう客ばっかでしょ あそこは逆に・笑」
ノン「あ、お前今、店をバカにしたな」
マイ「メンドくさ」
ノン「店をバカにするってことは 店長や従業員もバカにしてんだぞ」
マイ「カラむなー、会話に飢えてる?」
マイ「あー、またこのメッセージ出た もうウザ、このパソコン」
ノン「フ、パソコンもヒト見んだよ 貸してみ」
ノン「はいオッケー」
マイ「居酒屋より、パソコンショップでバイトした方がよくない?」
マイ「どうせあの店、じき潰れるよ」
ノン「直してもらって感謝の一言もねーのかよ」
マイ「ノンの将来、心配してやってんじゃん」
マイ「そのうち客が キャッシュレス世代に入れ替わるから」
マイ「いわゆるワタシ世代。そしたらお客はゼロ」
ノン「お客さんは店長の人柄と こだわりの味求めて来んの」
ノン「カード使えないって言うと 皆んな現金で払ってくれる」
マイ「払わないと無銭飲食になるからね」
ノン「お前、クラスで嫌われてないか?」
マイ「この前店長いなかった時 お客がいつもより多かった」
ノン「たまたま、そういう日もある」
マイ「店長目当てじゃなく、安く飲みたいかどうか」
ノン「外部の人にエラそうなこと言われたくないね」
マイ「事実を語ってるだけです」
マイ「そうやっていつまでも現実見ないと 気付いたら死んでるよ」
ノン「誰が死ぬんだよ」
マイ「ワンコイン握ってくるお客はあと数年で絶滅」
マイ「財布もってない現役世代は そもそも現金のみの店には行かない」
マイ「そして「渋谷愛」はひっそり閉店」
ノン「・・・」
マイ「いいの? 大好きな「渋谷愛」が潰れても」
ノン「・・・(涙)」
マイ「ま、ノンもある意味、絶滅危惧種だから」
マイ「ケータイないノンを「勇者」って言ってくれたお客さんもいたもんね」
ノン「店がなくなるのはダメだ、オレが許さん (独り言)」
マイ「なに、ヘンなスイッチ入った?」
ノン「オレが守る、体張って、見てろ」
マイ「え、ワタシ、ナンかヘンなこと言った?」
〇大衆居酒屋(物無し)
ノン「5円玉と1円玉、足りねぇな」
タケ「足りますよ、ここに棒金2本ずつあるし」
ノン「ダメだ、両替行ってこい。お客さんに迷惑かけらんねえ。あと100円一本追加な」
タケ「両替の手数料とかもバカんなんないし やっぱキャッシュレス・・」
ノン「行きたくないならちゃんとそう言えよ 雨降ってるからヤなんだろ?」
タケ(晴れててもヤですね)
タケ「仕事の効率考えましょうよ、って話ですよ」
ノン「キャッシュレスの導入費用 いくらか知ってんの?」
ノン「決済手数料も都度かかんだよ 入金もおせーし」
タケ(意外と知ってんだ)
ノン「店の利益考えたら 3パーずつもってかれんのキツいだろ」
ノン「仕入れや光熱費、爆上がり中に」
タケ「・・ま、そっすよね」
ノン「その分、お前の給料から引くか?」
タケ(この発言って一発アウトだろ!)
〇古いアパートの部屋
マイ「店のパン、売れ残りもらってきた この前のパソコンのお礼」
ノン「お、サンキュ・・て、焼きそばパンはないか」
マイ「この前店長に聞いたけど キャッシュレス導入するらしいよ」
マイ「現金にこだわる理由なんて別にないんだって」
マイ「区長が推進してるから応援するって言ってた」
ノン「店長、オレのしらないとこでそんな決断を・・」
マイ「一応、ノンは現金にこだわってますって 言っといた」
ノン「で、店長なんてった?」
マイ「あいつ、不器用なんだよ。俺と似てんだ」
ノン「くーー、その一言で2日生きていける・涙」
マイ「みじか」
〇大衆居酒屋(物無し)
マイ「店長から聞いたんだけど」
マイ「ノンって寺や神社回って、賽銭の小銭 お札と両替してんの?」
タケ「してますよ。ちなみに回収した賽銭の小銭仕分けんのは、オレ」
タケ「気のせいか普通の小銭より1枚1枚が重い(小声で)」
マイ「なにそれ?」
タケ「お参りした人の念の分、重いとか? (小声で)」
マイ「ホラーじゃん、防菌は?」
タケ「消毒してラップにくるんで 賽銭版手作り棒金作ってます!」
タケ「こんな感じ」
マイ「銀行の手数料ケチって、寺で両替するって 店、ヤバくない?」
タケ「寺は喜んでるみたいっす。ただで札に両替してもらえるから、いわゆるウィンウィン」
マイ「そんなもんかね―」
タケ「この店のネットラジオのシステム 配線とかも、先輩が一人でやったらしいっす」
タケ「業者に頼むとカネかかるって」
マイ「マジ?」
タケ「ヤバくないっすか、ケータイすらないのに 店長ラブがなせるワザすかねー」
マイ「わかる、ナゾ」
マイ「前にオンライン授業の時つながんなくて焦ってたら、ノンがチャチャって直してくれた」
タケ「なんスかそれ、スゲー」
マイ「用語とかも知ってて、リポートはチャットなんとかで秒で作ってくれた」
タケ「まじスゲー」
マイ「ナゾ」
タケ「宇宙人か、昭和から来た?」
マイ「なんじゃそれ」
タケ「子供ん時からあんな感じ? 昭和オヤジ的な」
マイ「知らん、ノンが高校ん時から同居だから」
タケ「血は繋がってないんだよね」
マイ「親同士再婚だから」
タケ「でも籍は入ってないんでしょ? 先輩とマイちゃんの苗字、違うってことは」
マイ「ん?・・どうかなぁ、入れてんじゃない? いわゆる夫婦別姓的な?」
タケ「え?・・ じゃ、じゃあ すごいヘンなこと聞くけど」
タケ「マイちゃんと結婚した人は 先輩の弟になるってこと?」
マイ「まぁ、・・そうなるね、法律上は」
タケ「・・・(考え込む)」
〇大衆居酒屋(物無し)
タケ「・・・(考え込む)」
ノン「どうした? 一人で悩むな。お前は一人じゃない」
タケ「・・(ノンを見る)」
ノン「走るか、道玄坂!」
タケ「両替行ってきまーす!」
〇ラジオの収録ブース
現金よさようなら
キャッシュレスよ、こんにちは
支払いはピッ。ハチ公バスはハチペイで
いつもどおりマイの毒舌が冴えわたってたけど、お礼にパンを持ってくるなんていい子だな。三人の関係性もなるほどでした。ノンは全身どっぷりアナログ人間かと思っていたらメカに強い昭和から来た宇宙人だったんだ。メカって言い方も大概昭和だけど。トホホ。
昭和人間の私からすると、手紙がメールやメッセージにより衰退したことも残念でなりません。現金の受け渡しもまた少なからず人間味を感じるもので、なくなってほしくないですね。