突然の告白(脚本)
〇教室
十六女結愛「あなたが好き」
十六女結愛「あなたの声が好き」
十六女結愛「あなたの色が好き」
十六女結愛「あなたの、好きなものが好き」
十六女結愛「──なのに、どうして」
十六女結愛「どうして、私から逃げるの?」
林エリ「──話しかけないでって言ったよね?」
林エリ「結愛と一緒にいる所、見られたくないんだけど」
十六女結愛「──昔はずっと、一緒だったのに」
林エリ「私ね、結愛と幼なじみだってこと隠してんの」
林エリ「あんたみたいな根暗と同類だって思われたくないから」
十六女結愛「──悲しいな」
林エリ「本心じゃないでしょ、それ」
林エリ「昔からそう」
林エリ「腹の底では別のことを考えてる」
林エリ「──結愛、彼氏にとんでもない要求して逃げられたらしいね?」
林エリ「それでなに?今度は私ってわけ?」
十六女結愛「あれは彼氏じゃない」
十六女結愛「男は嫌い」
十六女結愛「女も嫌い」
十六女結愛「私は人間が嫌い」
十六女結愛「だけどエリ、あなただけはたまらなく愛しいの」
林エリ「嘘つき」
十六女結愛「──エリだって嘘、ついてるのに?」
林エリ「──結愛に私のなにがわかるの?」
十六女結愛「じゃあ、指切りしよ?」
十六女結愛「指切り、したいの」
十六女結愛「嘘、つけないように」
林エリ「──」
林エリ「──指切り、だけなら」
十六女結愛「指切りげんまん」
十六女結愛「嘘ついたら」
十六女結愛「針千本──」
十六女結愛「──」
十六女結愛「ねぇ、そんなに私の指が気になる?」
林エリ「──え?」
十六女結愛「さっきからずっと見てる」
十六女結愛「──いいや、指だけじゃないよね?」
林エリ「!」
林エリ「ち、ちがっ、わた──!」
十六女結愛「嘘、ついたらダメだよ?」
林エリ「う、嘘なんかじゃ──」
林エリ「──!」
林エリ「──結愛、鼻血が」
十六女結愛「──っ」
林エリ「な、なにか拭くもの──」
十六女結愛「いい、大したことないから」
十六女結愛「ねぇ、それより答えて」
十六女結愛「私のこと、好き?」
林エリ「──え」
十六女結愛「答えて、正直に」
林エリ「──」
林エリ「──怖い」
林エリ「私、変わるのが怖い」
林エリ「ねぇ、助けてよ」
林エリ「──助けてよ、結愛!」
十六女結愛「だめ」
十六女結愛「自分の言葉で答えなさい」
林エリ「わたしの、言葉──」
林エリ「──」
林エリ「──好き」
林エリ「わたしもずっと──」
林エリ「──結愛のこと、好きだった」
十六女結愛「よかった」
十六女結愛「じゃあ──」
十六女結愛「──」
林エリ「どうしたの?」
十六女結愛「──これ」
林エリ「え?」
林エリ「あぁそれ、はやく洗わないとシミになっちゃうよね?」
十六女結愛「──ごめんなさい」
十六女結愛「わたし、やっぱりエリとは付き合えない」
林エリ「──は?」
十六女結愛「幼なじみの恋人、って倒錯的だと思ったんだけどね?」
十六女結愛「たったいま、気づいたの」
十六女結愛「──その程度ではもう、満足できないって」
林エリ「──なに、それ」
林エリ「結愛、言ったよね?」
林エリ「人間が嫌いって」
十六女結愛「──言ったけど?」
林エリ「──本当は、わたしのこともどうでも良かったんだ?」
林エリ「──」
林エリ「結局、結愛が愛してるのは」
林エリ「自分だけだろ──!」
十六女結愛「そう」
十六女結愛「この、血液を見て気がついたの」
十六女結愛「──もっとも、倒錯的なのは」
十六女結愛「自分を愛することだってね?」
十六女結愛「わたしは、わたしが好き」
十六女結愛「──だから、ごめんなさい」
林エリ「──」
林エリ「──っ」
林エリ「鼻血、だ──」
林エリ「──馬鹿みたい」
血が感情転換のトリガーになっている描写が倒錯的でいいですね。結愛は自己愛性人格障害の類で内なる人物像を愛しているから、相手が誰でも「あなたを好きな私が好き」で止まってそれ以上興味が持てず放棄しちゃうのかも。その割に多弁で強圧的という特徴があるから始末に負えない感じで。エリのような被害者はこれからも増えていきそうですね。
私も自尊心が高い方で、自分のことを少しでもけなされるとたとえ愛する夫でも不快感
が爆発します。彼女がいう人間が嫌い、自分が一番好きという部分を共感できてしまいます。ただ、自分を心底愛せる人は他人をも愛せることにもつながると思います。