第6話 友だちを卒業して、改めて(脚本)
〇田舎の駅
――3月某日。
鉢呂稔「すぅ、はぁ。 ・・・っし」
ホームで、足を伸ばして軽くストレッチ。
時刻は午前、七時ちょっとすぎ。
そろそろ、『学生くん』が
やってくる時間だ。
鉢呂稔(学生くんって呼べんのも、 今日が最後、か)
そんなことを思っていると、
ふいに近づいてくる足音が聞こえた。
知里誠一「おはようございま――あ」
鉢呂稔「知里くん! ご卒業、おめでとうございます!」
勢いよく振り向いて、
俺は腕いっぱいに抱えた花束を
知里くんに差し出した。
知里誠一「これ、俺に、ですか?」
鉢呂稔「うん!」
知里誠一「ふっ、ふふふ・・・」
鉢呂稔「え!? なんで、笑うの!?」
知里誠一「だって、あはっ、あははっ」
笑い出した知里くんに、
わけがわからず赤面してしまう。
鉢呂稔(え、なんか俺、間違えた?)
くすくすと笑い続ける知里くんに、
どんどん照れくさくなってしまう。
鉢呂稔「だ、だって、祝い事といえば、 やっぱ花束じゃん!? ほら! とりあえず受け取って!」
知里誠一「ふふ、あはっ、そうですね。 ありがとうございます、いただきます」
笑いすぎたのか、まなじりには涙が
浮かんでいる。
知里くんは白ユリの入った大振りな
花束を抱えて、まだ笑う。
鉢呂稔「映え・・・」
知里誠一「え?」
鉢呂稔「や、なんでも」
鉢呂稔(イケメン、つえぇ)
そんなこと考えつつも、
同時にホッと胸を撫で下ろす。
鉢呂稔(お正月以来、ずっと気まずかったから。 よかった、ちゃんと話せそうだ)
やっぱりどうしても、
なかったことにはできなかった。
かといって、自ら話題にすることは
できなかったけれど。
鉢呂稔(でも、あの、真っ赤な顔とか・・・。 やっぱり、忘れられないし)
知里誠一「あの、鉢呂さん」
鉢呂稔「ん?」
知里誠一「ふふ、ふふふっ」
笑った知里くんが、
抱えた花束に目を落とした。
知里誠一「あの、俺、これを抱えて 卒業式、出ればいいんですか?」
鉢呂稔「はっ!?」
知里誠一「ふふっ」
鉢呂稔「ほんまや、渡すタイミング、今じゃない」
知里誠一「ふはっ」
鉢呂稔「え、あ・・・っ、ごめん、 気が回らなくて。 俺、あ、そうだ、預かっとく!?」
なるほど、
だからずっと笑っていたみたいだ。
鉢呂稔(うわあ、やっちまった。 卒業式に花束持ってくとかシュールだわ)
鉢呂稔「ごめん・・・祝い事だし、花束なら 外さないだろとか勝手に思ってたわ。 有紀くんにもTPO考えろって言われたのに」
知里誠一「いいえ」
知里くんが、ひときわ華やかに笑う。
鉢呂稔(あ・・・)
そして、緩やかに首を横に振った
知里誠一「いいんです。 ・・・俺、駅員さんからもらったんだって みんなに自慢するんで」
鉢呂稔(お、俺・・・今・・・っ。 なんか、ドキドキ、して)
胸がぎゅっと痛くなって、呼吸が苦しい。
鉢呂稔(ああ・・・そっか、やっとわかった)
ふっと息を吐いて、気持ちを整える。
そして、まっすぐ知里くんを見つめた。
鉢呂稔「・・・知里くん」
知里誠一「? はい?」
鉢呂稔「俺って、面食いなんすよ」
知里誠一「え」
鉢呂稔「面食いなんす。 女でも、男でも」
知里誠一「あ、はい・・・。 なんとなく、知ってます。 たまに、顔良・・・っとか呻いてますよね」
鉢呂稔「うん、そうなんだよ。 ・・・って、え!? 呻いてる!?」
知里誠一「え、はい。 呻いてますね」
鉢呂稔「うわぁ・・・じゃなくて! えっと、だからさ、その」
続ける言葉を考えて、
視線をさまよわせる。
鉢呂稔「えっと・・・その」
知里誠一「?」
鉢呂稔「俺、学生くんの顔、 めっちゃ好きなの」
知里誠一「あ、ありがとうございます・・・? 前に、そんなこと言ってくれましたよね」
鉢呂稔(うあああ、全然伝わらない)
鉢呂稔「だからさ、その」
小首をかしげた知里くんが、
じっと俺を見つめてくる。
その不思議そうな表情に、
どうにも焦れったくなった。
鉢呂稔「俺!」
知里誠一「っ」
鉢呂稔「俺・・・っ」
声がひっくり返って、
心臓がバクバクと早鐘を打つ。
鉢呂稔「好きとかっ! よくわかんないけど! でも、その〜・・・っ」
あーとか、うーとかうなる俺に、
知里くんは目を瞬かせる。
その、まつげがすごく長くて、
やっぱりイケメンなんだなとか
思っちゃって。
・・・もうどうにでもなれ!
となにかが俺にささやいた。
鉢呂稔「だから、つまり! 告白されたの、嫌じゃなかったです!」
知里誠一「えっ」
ハッとした表情になった知里くんが、
瞳を揺らす。
鉢呂稔「だから・・・だからっ! オトモダチからお願いします!」
知里誠一「!」
手を差し出して、勢いよく頭を下げる。
鉢呂稔「・・・っ」
知里誠一「・・・・・・」
だけど、しばらくの沈黙が落ちたあとも、
知里くんの反応はない。
鉢呂稔(え、なにこれ・・・)
鉢呂稔(なんで、無言なの・・・? え、どうしよう)
知里誠一「・・・・・・」
冷や汗がダラダラと噴き出してくる。
鉢呂稔(あれ、もしかしてこの間のって やっぱ冗談とかそういう?)
鉢呂稔(え? え・・・っ。 わ、若い子、こええええ・・・!! いやでもまさかね!?)
知里誠一「あの・・・」
鉢呂稔「!」
ぱっと顔を上げると、
知里くんは困ったようにはにかんだ。
そして、俺の手をぎゅっと握った。
知里誠一「・・・俺らって、たぶん、 もう友だちなんですけど」
鉢呂稔「はぇ・・・?」
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