第7話 それからの2人(脚本)
〇田舎の駅
――四年後。
鉢呂稔「おっ!」
知里誠一「お久しぶりです」
鉢呂稔「わあ、帰ってきたんだ。 久しぶりじゃん」
知里誠一「そうですね、この間の帰省ぶりだから ・・・半年くらい、かな」
鉢呂稔「あれ、そんなもん?」
そう言って、鉢呂さんが俺に
ベンチに座るように促す。
あの、高校3年生のときと同じように
俺は鉢呂さんと並んで腰掛けた。
鉢呂稔「うーん、半年だけなのか。 いやでもなんかおっきくなったな〜」
知里誠一「駅員さんも大きくなりましたね」
鉢呂稔「ちょっ、なに!? 俺は成長期じゃないんですけど! 横にってこと!? 横にってこと!?」
知里誠一「あは、冗談ですよ。 ぜんぜん大きくなってない じゃないですか、横には」
鉢呂稔「ほんとに? ほんとにそう思ってる?」
知里誠一「え? お、思ってますけど」
鉢呂稔「あ、ごめん。 センシティブな話題だわ、それ。 もうアラサーなのよ、俺」
知里誠一「はあ・・・センシティブ」
鉢呂稔「そう、センシティブ。 ドントタッチミー」
知里誠一「ちょっとよくわかんないですね」
鉢呂稔「あ、そう?」
知里誠一「そういえば、まだ廃線してなくて、 安心しました」
鉢呂稔「たかが半年で廃線してたまるか!」
知里誠一「あはは。 でもほら、俺が学生の頃は、 利用者、俺だけだったじゃないですか」
鉢呂稔「ふふん、それがですよ」
鉢呂稔「君が卒業してから四年間、 有紀くん含め学生さんが増えてね。 利用者は地味に右肩あがりさ!」
知里誠一「そりゃよかったです。 まあ、でも有紀も去年からは 東京に来ちゃいましたけどね」
鉢呂稔「う・・・っ、それな」
鉢呂稔「なに、君たちどうして東京の大学に いっちゃうの? なんなの。 東京には何があるの」
知里誠一「特になにもないですけど」
鉢呂稔「そうなの? 君等を引き寄せるなにかはないの?」
知里誠一「ないですね、べつに。 あ、鉢呂さん、北海道を出たこと、 ないんですか?」
鉢呂稔「ないね。修学旅行くらい」
知里誠一「ああ、なるほど。 じゃあ、今度旅行しましょうね」
鉢呂稔「それは行く。行くけど、なんで? なんで知里兄弟は東京に吸い込まれて 行くの」
知里誠一「あ、言ってませんでしたっけ。 うちの家系なんです」
鉢呂稔「へ?」
知里誠一「代々みんな、同じ大学に 行ってるんですよ。 さすがに学部は違うんですけど」
鉢呂稔「マジか。そういう系?」
知里誠一「どういう系かはわかんないですけど。 でも、俺も有紀も同じ大学です。 あっ、とう──」
鉢呂稔「言うな! 大学名は言わんでくれ! みじめになりそうだ!」
知里誠一「え?」
鉢呂稔「どうせ、すごく頭がいいとこでしょ!? みなまで聞かなくてもわかる!」
鉢呂稔「俺の母校なんて聞いたことも ないようなやつだぞ」
知里誠一「いや、さすがにこのあたりの大学なら」
鉢呂稔「信じるぞ。もし、言って知らなかったら 拗ねるからな。拗ねるぞ。 拗ねたらアラサー、めんどくさいぞ」
知里誠一「あは、あはは・・・。 や、それならやめときます」
鉢呂稔「おう、それがいいと思う。 やけどするからね」
知里誠一「ふふ、なんですかそれ」
ふっと二人の間に沈黙が落ちる。
二人の間を通り抜ける風が心地良い。
季節は四度も巡って、再びの春だ。
鉢呂稔「あ、そういえば学生くんさ──」
知里誠一「鉢呂さん」
ぐっと距離を詰めて、手を握る。
鉢呂さんの手はあったかくて、
ちょっとだけ汗ばんでいた。
鉢呂稔「うえっ、な、なにっ」
知里誠一「俺、もう学生くんじゃないんです。 四年経って、学生くんを卒業しました」
鉢呂稔「あ・・・っ」
知里誠一「俺、大人になったんです。 だから・・・もう、友だちを卒業、 してもいいですか?」
真剣に鉢呂さんを見つめる。
すると、彼の顔はみるみるうちに
赤くなっていった。
鉢呂稔「〜〜〜っっ」
知里誠一「好きです、鉢呂さん」
まっすぐ彼を見つめて言葉を重ねる。
すると、しばらくして
鉢呂さんは小さな声で・・・。
鉢呂稔「顔、良・・・っ」
知里誠一「ぷっ!」
鉢呂稔「ちょっ」
知里誠一「あはっ、あははっ! だって、まさか、今言うなんて」
鉢呂稔「いやだからっ! 俺って、面食いなの! いい加減知ってんだろ!?」
知里誠一「ふふっ、あははっ、そうですね。 よく知ってます」
知里誠一(・・・でもまさか、俺の片思いから、 こんなふうになるなんて思わなかったな)
〇広い改札
知里有紀「うぇえんっ、ちいにいちゃん!」
泣きじゃくる有紀を抱きしめながら、
俺は助けてくれた『駅員さん』に
頭を下げた。
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