エピソード1(脚本)
〇クリスマス仕様のリビング
夕食を一人で食べた後、ソファで仮眠を取っていた私は目を覚ました。
だいぶ眠っていたようでまだ身体が少しだるい。
頭を覚醒させるために一度深呼吸をして
からゆっくりと立ち上がり台所へ向かった。
そして使い古されたコップに水を注ぎそれを飲み干す。
冬場の水のせいか少し肌寒くなってはしまったが、頭はさえてきたのでよしとする。
もう一度リビングに戻り、あたりを確認する。
先ほどまで愉快な話し声を流していたテレビは静寂に包まれている。
今日はクリスマスという事もあり、そういった特番は多かったなと改めて感じた。
小雪「・・・」
小雪((11時・・・今日は残業かしら・・・))
カーテンを開け、外の景色をうかがってみると小雨程度だがぽつぽつと雨粒が降っていた。
・・・今日、夫は傘を持って行っていない。
((小雨とは言え雨が降ってるし、冷え込まないと良いけれど・・・))
((クリスマスに会えないのは残念だけど、お仕事なら仕方ないわよね。))
小雪((それに毎年一緒にいたのだから、たまにはこんな日も・・・))
小雪((・・・そういえば、私があの人に会ったのもこんなクリスマスの日だったわね。))
〇通学路
雨が降っている。酷い雨だ。
その空間に一人、私は傘もささずに歩いている。
行く当てなんかないのに、私の足は止まらない。
数日前、交通事故で家族が死んだ。
お父さん、お母さん、そしてまだ幼い妹と弟。
みんなみんな死んでしまった。
私は生まれつき身体が弱く、良く体調を崩していた。
あの日も私は体調を崩し、ベッドで横になっていた。
家族は私を看病するために残ると言ってくれたが、私はそれを断った。
いつもの事だからと言って、みんなに迷惑をかけないために。
それなのに、こんな事って・・・
私がそんな無駄な事を考えていると、
前方から誰かが近づいてくることに気付いた。
タクヤ「だ、大丈夫ですか?!そんなびしょびしょになって・・・!」
「・・・」
タクヤ「えっと、この辺で服が乾かせそうなところって何処だろ・・・」
タクヤ「だ、駄目だ。もうこんな時間だし全部閉まってる」
タクヤ「・・・仕方ない」
タクヤ「あの、もしよろしければこの近くに俺の家があるので寄って行ってください」
「え・・・」
タクヤ「も、もちろん変な事をするつもりは全然ないですからそこは安心してください!」
タクヤ「いや、むしろこんな事言った方が信用できなくなるよなあ・・・」
「・・・いえ、申し訳ないですがそれじゃあお願いします」
正直これで酷い目に遭ったとしてもどうでもいい。
むしろ死にたい。
〇散らかった部屋
コユキ「・・・」
タクヤ「あ、すいません!まだ片付けてる途中で!」
コユキ「いえ、大丈夫です。お風呂ありがとうございます」
コユキ「あと、この服も・・・」
タクヤ「妹が忘れていったもので心配だったんですけど、サイズは大丈夫そうですね」
コユキ「はい」
タクヤ「もう時間的に終電は過ぎてしまったと思うんで、車で送りますよ」
タクヤ「ご家族がいるなら連絡してもらっても・・・」
コユキ「・・・家族はもういません」
タクヤ「え?」
コユキ「数日前家族は皆事故で死にました。 もう私は一人なんです」
コユキ「死にたかった。死んでしまいたかった。だから見知らぬあなたについていったのに」
コユキ「・・・でも、それは叶わなかった。当たり前な事なのに私はこんなにも・・・!」
タクヤ「・・・」
タクヤ「俺はあなたの願いを叶えることはできない」
タクヤ「それでもあなたが抱えているものを少しでも減らす手伝いくらいなら出来る」
タクヤ「俺でよければ何か話してみませんか?」
コユキ「そんな事・・・これ以上迷惑は・・・」
タクヤ「今日ってクリスマスですよね。今日だけ俺サンタになるんで好きな事言ってくださいよ」
コユキ「うう・・・ありがとうございます・・・」
〇クリスマス仕様のリビング
私が昔の事を思い出していると―
小雪「あ!雨が・・・!」
窓から景色を見てみると先ほどまでの小雨から一変し、大粒大の雨粒が降り注いでいた。
小雪「通り雨で過ぎそうな感じではなさそうね」
小雪「何処かで傘を買ってるかもしれないけど、 迎えに行った方が良いわよね」
私はコートを羽織り、二人分の傘を携えて玄関から出ていった。
〇通学路
私は夫が下りてくる駅へと向かう途中でいつかの場所にたどり着いた。
ずぶ濡れの私に傘を差しだしてくれたあの日。
私は救われた。これからも生きていこうと決意した。
小雪「・・・」
私は方向を変え、先へと進む。
そして目の前の人へ傘を差しだした。
小雪「おかえり」
タクヤ「小雪?!どうしてこんなところに?!」
小雪「あなたを迎えに来たんですよ」
タクヤ「そっか!ありがとう!急に降り出してまいってたんだ!」
タクヤ「それとごめんな。今日クリスマスなのに・・・」
小雪「大丈夫ですよ。それよりいつもお仕事お疲れ様です」
小雪「さあ、早くお家に帰って身体を温めましょう?」
タクヤ「うん。ホントありがとう小雪」
そういって夫は私から傘を受け取り、身を寄せ合いながら帰路へ歩みを始める。
私はバッグの中の折り畳み傘を奥へと詰め込み夫の方へと顔を向けた。
「あの日とは逆になっちゃいましたね」
「アハハ、そうだね」
「いつものクリスマスも素敵ですけど」
「”たまにはこんなクリスマスも”良いと思いませんか?」
「うん。確かに良いかも」
「でもずぶ濡れはもうこりごりかな!」
「ウフフ、それは同感です」
悲しい過去を背負っていても、今はこんな風に幸せになって良かったです。
最後の方の会話は読んでて心が温まりました。
雪が降ってても、二人の気持ちは温かいと思います。
少し悲しいストーリーのようなでも希望を捨てていないような、「私もがんばろう」と前向きにさせて頂いたお話しでした。楽しく読ませて頂きました。
しっとりした空気の、素敵な作品でした。少し前までこういう優しい雰囲気の、普通の人たちが静かに楽しめる作品が、よくテレビで掛かっていたように思います。なんだかしみじみと良い気分になりました。