ハードボイルドガール

月暈シボ

エピソード1(脚本)

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〇学校の昇降口
  多目的校舎での授業を終えてトイレに立ち寄った俺は本校舎に戻るために下駄箱に向う。
  だが、そこで既に先に戻っているはずのクラスメイトの一人を見掛ける。
「・・・あ、麻峰(あさみね)さん・・・ど、どうしたの?」
  黙って通り過ぎるの感じが悪いので俺は軽く声を掛ける。
  もっとも、相手の麻峰レイは自分が所属するクラスだけでなく、中等部を含めた学園全体でもトップレベルと思われる美少女だ。
  先月にこの学園に転校してきたばかりの俺としては慣れない相手に緊張してしまう。
テスト「ああ・・・やはり君もまだここにいたんだな。恥ずかしいことに靴が見当たらないんだ。ふう・・・」
  俺の問い掛けにレイは溜息交じりに答える。澄んだ声は可愛らしいが、その口調は他人事を語るような客観性があった。
「・・・え、靴がない?」
  その可憐な見た目からは想像出来ないレイの語り方を面白い思いながらも、俺は昇降口の左右に並べられた下駄箱を順に眺める。
  多目的の下駄箱は不特定多数の生徒が使用する前提で設置されている。そのため鍵はなく、小分けされた棚に靴を置くだけだ。
  だから、およそ100人分は収納出来ると思われる下駄箱も軽く見ただけで中身の存在が確認出来た。
  棚に靴が存在するのは21番と表示された場所のみで、それは俺の出席番号順から割り振られた場所であり、靴も俺のモノだった。
「・・・本当だ、これは俺のだし」
テスト「そうなんだ。最初は15番の人物、つまり君が私の靴と間違って履いて行ったのかと思ったんだが・・・」
テスト「明らかにサイズが違う。頭がミジンコ並でもない限りそれはないだろう。・・・それでどうしようか悩んでいたんだ」
「ミ、ミジンコ・・・いや、そういうわけだったのか・・・」
  レイの独特の比喩に気を取られながらも事情を知った俺は相槌を打つ。
  当事者のレイ本人はそれほど焦る様子を見せていないが、多目的校舎から本館に戻るには一度外に出なければならない。
  距離は30メートルほどだが、今日は朝方まで雨が降っていた。靴がなければ靴下を濡らすか、裸足で本館まで戻るしかないだろう。
  そんなことを思いながら俺はレイの姿を改めて見つめる。今更ながら彼女は非の打ちどころのない美人だ。
  そんな彼女の足を雨水で濡れさせてしまうのは心苦しかった。
「えっと・・・麻峰さん、運動靴はどこにしまってあるの?」
テスト「・・・ああ、取って来てくれるのか! ありがとう! 本館の下駄箱に入れてある。鍵は掛けてない、私の出席番号は30番だ!」
  俺の提案に、その意図を察したレイは喜色を表わしながら答える。
「・・・わかった! ちょっと待っていて!」
  初めて見たレイの笑顔に見惚れそうになりながらも、俺は素早く自分の靴を履いて武道館を一旦後にする。
  学園の生徒は制服の革靴とは別に、体育で使用する運動靴を用意している。俺はそれをレイの代わりに取って来るつもりなのだ。
麻峰レイ「おお、早いな!」
「いや、麻峰さんの場所はわかりやすかったからね・・・」
  レイから向けられた賞賛の言葉に俺は照れながら答える。もっとも、彼女の出席番号は二年G組の女子の中では一番目である。
  そんな理由もあり、俺は一分も掛からずにでレイの元に戻ることが出来たのだ。
「とりあえず、ここに置くよ!」
麻峰レイ「ああ、ありが・・・まずい、急ごう!」
  レイは俺が置いた運動靴に足を通すが、そのタイミングで休憩時間の終了と次の授業の開始を報せるチャイムが鳴り始める。
「そうしよ・・・おお?!」
  もちろんとばかりに頷く俺だが、その返事は驚きの声に上書きされる。彼女はまさに脱兎の如く彼の脇をすり抜けたからである。
  脚の速さはもちろんだが、狭い空間を抜けるためのバランス感覚も高い水準で備えているに違いなかった。
「・・・いや、俺も急がないと!」
  想定外だったレイのフィジカルの高さに圧倒された俺だったが、直ぐに自分に言い聞かせるように同級生の後を追う。
  チャイムが鳴り終えるまで、まだ三十秒近くはある。本気で走れば間に合う可能性は充分にあった。

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