事変の序曲(3)(脚本)
〇廃倉庫
ヒナ「健康体操第二十八動!両腕を振って体を捻じる!」
「すっすっ!はっは!すっすっ!はっは!」
ヒナ「第二十九動!仰向けになって両膝で地面を打つ!」
「すっすっ!はっは!すっすっ!はっは!」
ヒナ「第三十動!そのまま後ろにでんぐり返り!」
「むおおおおおおおっ!」
「おおおおおおおおお」
「おおおおおおおおお」
「おおおおおおおおお!」
ヒナ「やめ!」
ヒナ「第三十一動。つま先で立ってカカト打ち」
「すっすっ!はっは!すっすっ!はっは!」
ヒナ「最後に深呼吸~」
ヒナ「は~い。お疲れ様でした~」
ヒナ「次のプログラムは11時から、バロン義孝先生の剣術になっていまーす。是非ご参加下さーい」
義孝「11時からはもう本番だろう」
ヒナ「あ、そっか。準備準備」
ケン「ゴザエモーン。最後の台詞合わせやるよー」
ゴザエモン「も~ケン君はがんばり屋さんだな~」
義孝「しかし、復活公演が悪役とはな」
ヒナ「何言ってんでえ。悪役ってのは結構目立つしオイシイ役割なんだぜ」
ヒナ「それに客演に花を持たせんのも団員の仕事だぞ。しっかりやろうぜ」
義孝「団員・・・」
義孝「団員にしてくれるのか?この俺を・・・」
ヒナ「は?」
ヒナ「お前、なんのつもりでここに居座ってたんだよ」
義孝「・・・ああ、そうだな」
義孝「そうだ。俺もまたバロン一座の団員」
義孝「あるいはバロン吉宗の代役だ。しっかりとやらねば」
ヒナ「・・・」
ヒナ「図に乗るんじゃねえよ」
義孝「・・・?」
ヒナ「アイツの代役なんて誰にもできねえ」
義孝「・・・すまん。口が過ぎた」
ヒナ「男爵サンは男爵さんのままでいいんだ」
ヒナ「お前はお前のままでいい。オイラにもそう言ったじゃねえかよ」
ヒナ「偉そうに」
義孝「・・・そうだな」
ヒナ「じゃあ、頑張ろうぜ。鬼の大将さん」
義孝「ああ」
ヒナ「大道芸で償おうなんて思うなよ」
ヒナ「オイラとバロンが歩いてた道はそんなもんじゃねえんだ」
義孝「償えるなどと・・・」
クラムぼんぼん「鬼の衣装、こんな感じでいいかな」
義孝「おお、凄いな。子供泣くぞ」
マネ玄人「これもまた芸術活動であーる」
義孝「しかしよく、そんな大層なものを作る金があったものだ」
義孝「貯金でもはたいたのか?感心感心」
「・・・」
クラムぼんぼん「いいのか?」
マネ玄人「いまさら引き返せんよ」
クラムぼんぼん「芸能芸術。バロン一座は我々の仲間だろ」
「主義、思想、矜持、人生」
「・・・愛」
「その前に革命よ」
「バロン一座の人気は革命の妨げになる」
「新時代の到来まで歌も踊りもいらないわ」
ダリア「私達を蔑み、侮り、否定する何もかもぶっ壊すのよ」
ダリア「このクソッタレな世界を・・・」
〇古い競技場
最上「蓬莱街にこんな場所があったとはな」
伝八「御堂組の資材置き場だ。時折丸太だの木箱だのを取っ払って広場として使ったりしてるんだ」
伝八「ここがバロン一座の専用劇場さ」
「失礼、戒厳少尉の最上殿ですかな」
最上「あなたは?」
帝都日報編集長「帝都日報の徳留と申します」
帝都日報編集長「いやいや。スラムの星、バロン一座の久方ぶりの本公演。楽しみですな」
帝都日報編集長「さぞや震災で荒んだ臣民に希望を与える事でありましょう」
最上「我々が横槍をさすような無粋をした方が、記事になるんじゃないか?」
伝八「何が希望だ。トラブル待ち満々って面してるぜ」
帝都日報編集長「それは座長たるバロン吉宗の演技次第」
帝都日報編集長「ああ、バロン『義孝』でしたかな?」
伝八「ああ?」
帝都日報編集長「ボロが出るのを待ち構えてるんでしょう?」
帝都日報編集長「貧民窟のスター、バロンを騙り人々を扇動する何者かの・・・」
帝都日報編集長「あるいはボロを誘発するか」
帝都日報編集長「表には出てないが今、帝都は未来への不安とブルジョワへの怨嗟に満ちている」
帝都日報編集長「自分の能力のなさを棚上げして権力を否定する連中の、暴発」
帝都日報編集長「官憲としてはここいらで一度、愚衆共を締め上げる機会を伺ってるんでしょう?結構なことです」
最上「帝都日報は、来栖川実朝氏の息がかかっていると聞く」
最上「ユートピア―ド計画発動の為に動いているのはむしろそちら側では?」
帝都日報編集長「さすが元憲兵少尉」
帝都日報編集長「我が優秀な女子社員に色々と情報を流してくれていた頃に比べ、随分と強かになられましたな~」
最上「・・・失礼する」
伝八「ブン屋ってやつは本当、社員共々クソだな」
帝都日報編集長「有難うございます。官憲に褒められるほど落ちぶれちゃいませんので」
「・・・」
「・・・フン!」
つづく