第5話 なんて言うつもりなんだ(脚本)
〇学生の一人部屋
知里誠一「はぁ・・・」
あれから・・・。
なんだか、会ってもぎくしゃくして
しまい、うまく鉢呂さんと話せていない。
知里誠一(やっぱり、変なこと言っちゃった からかな・・・。 急に泣いたりして、驚いただろうし)
はあっと息を吐いて、机に突っ伏す。
知里誠一(・・・元旦、かあ)
知里誠一「会いたい、な」
新しい一年の始まり。
その特別な日に、好きな人に会いたい
なんて、きっと誰だって思うことだろう。
知里誠一(だけど、なんの口実もない。 鉢呂さん・・・駅に、いるのかな。 寒い、だろうな)
知里誠一「口実・・・ないと、会えない、よな」
コンコンと、ノックの音が響く。
知里誠一「はい?」
知里有紀「俺、だけど」
知里誠一「有紀? どうぞ」
ドアを開けた有紀は、
ビニール袋を手に下げている。
知里有紀「これ」
知里誠一「ん?」
知里有紀「持ってけば。赤飯」
知里誠一「えっ」
知里有紀「駅員さん。 世話になってんだろって、母さんが」
思わず、ぱっと笑顔になってしまう。
それを慌ててかき消して、
俺は一つ咳払いをした。
知里誠一「んんっ。 うん、そうだね。お世話になった」
知里有紀「・・・・・・」
知里誠一「お正月だしね。 うん、今から渡してくるね」
ビニール袋に手を伸ばして、受け取る。
が、なぜか有紀は手放さない。
知里誠一「ゆ、有紀?」
知里有紀「はぁあ〜・・・」
知里誠一「え、ため息でかっ」
知里有紀「クソ・・・家族のそういうの 知りたくない派なんだけど、俺」
知里誠一「え」
知里有紀「いいから、とっとと行け。 バカ兄貴」
〇田舎の駅
知里誠一「わ、息、白い」
はっと息を吐いて、ホームへの階段を
上がる。
知里誠一(いた)
ホームの真ん中あたり。
そこに、鉢呂さんは立っていた。
今日も一人ぼっち。
誰かお客さんが来るわけでもないのに、
真剣な顔で、まっすぐとレールの先を
見つめている。
知里誠一(・・・かっこいい、な。 俺が来ても、来なくても、 ずっと鉢呂さんはここにいてくれる)
知里誠一(・・・俺が、東京に行ったって、 ずっと鉢呂さんはここにいるんだ)
そのことが、すごく嬉しくて。
でも、同時にすごく切ない。
知里誠一「好きです。 すごく・・・好きです」
まぶたを閉じて、小さくつぶやく。
これは伝わらなくていい。
伝わらなくて──
鉢呂稔「えっ」
知里誠一「えっ」
ぱっと目を開けると、
思いの外近くに鉢呂さんが立っていた。
知里誠一「え・・・」
知里誠一(あ、もしか、して)
まさか、と血の気が引いていく。
鉢呂稔「あの──」
知里誠一「忘れて! ・・・くだ、さい」
鉢呂稔「えっ」
知里誠一「忘れてください!」
鉢呂稔「でも」
知里誠一「忘れて!」
思わず声に涙がにじむ。
鉢呂稔「う、うぁ・・・うん、わかった、けど」
知里誠一「あのっ、えっと! あっ! あけましておめでとうございます!」
鉢呂稔「えっ、あっ! あ、うん。 あけましておめでとうございます」
知里誠一「それでっ、そのっ! これっ! 母さんが!」
ずいっと袋を鉢呂さんに差し出す。
鉢呂稔「あっ、ど、どうも?」
知里誠一「あのっ、お赤飯です! えっ、えっと、お赤飯、甘いです。 甘いの、大丈夫ですか?」
鉢呂稔「あ、うん。 うちの実家は甘くなかったけど」
知里誠一「あ、そうなんですね。 えっと、うちのは甘納豆です!」
鉢呂稔「あ、うん。おやつみたいで、いいよね」
知里誠一「はい! 有紀はおやつにしてます! それでっ、あのっ、えっと・・・えっと」
言葉が詰まり、喉が鳴る。
さっきから、鉢呂さんとはぜんぜん目が
合わない。
それは俺が避けてるんだか、
向こうが避けてるんだか、
わからないけど。
知里誠一「あのっ、あ・・・あう」
情けなく唸って、うつむく。
なにか、何か話さないと。
じゃないと、気まずくてたまらない。
知里誠一「それでっ、そのっ、あっ! お客さん誰か来ましたか?」
鉢呂稔「え? えっ、ううん! あ、うん、今日もいない」
知里誠一「あっ、ですよねっ」
鉢呂稔「ですよねって」
知里誠一「あっ、あぁっ、なんかすみません」
鉢呂稔「イイエ、事実だし」
知里誠一「じゃ、じゃあ、俺がハジメテの お客さんですね!」
鉢呂稔「あ、だね。うん」
知里誠一「い、いえーい!」
鉢呂稔「え? いえーい」
知里誠一「・・・・・・」
鉢呂稔「・・・・・・」
一瞬、間が空く。
知里誠一(あああああ、帰ろうかな!? もう、逃げ出したい! いえーいって何!?)
そう思い、ジリジリっと一歩足を下げる。
と、そんな俺の気持ちを察したのか、
鉢呂さんが顔を上げて俺を見た。
鉢呂稔「ごめん! やっぱ無理!」
知里誠一「っ」
鉢呂稔「さっきの、どういう意味?」
知里誠一「やっぱ、無理がありましたね」
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