間違えた女

枕蔵

読切(脚本)

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〇住宅地の坂道
  夫が最近優しかった。 
  
  カヌレとナタデココとバスク風チーズケーキを同時に買ってきたり
  複雑についた私の寝癖を見て、「最近美容室変えた?似合っているよ」と褒めてくれたり
  寒い日のスリッパにカイロをしこんでくれたり・・・
  その挙動不審な優しさが、いけなかった
  夫の浮気を疑ってしまった
  
  そして、探偵に調査を依頼した
  だが、私は頼む探偵を間違えてしまったようだ
  なぜなら、探偵は今、私を尾行しているからだ
  夫の浮気相手と間違えているのだろうか?
  私の姿は依頼時に見ているし。私の家の前だし。いったい何なんだろう?
  アンパン片手に牛乳飲んでるわ! 張り込み刑事気取りで。 声かけて、やめてもらうしかなさそうね
タカナシハヅナ「あの、すみません」
探偵「えっな、なんですか? 私は尾行してないですよ」
タカナシハヅナ「ただ話しかけただけですよ。 私を覚えてますか? 何か間違えてませんか?」
探偵「ん?」
タカナシハヅナ「夫の浮気を疑って、調査を依頼した女ですよ。 どうして私を尾行してるんですか!」
探偵「・・・・・・」
探偵「自分でも分かりません」
探偵「今日は晴れてるし、大安ですし」
探偵「アンパンはこしあん買えたし、牛乳は生乳なんです」
  ヤバさのレベルが、想像より上だった
タカナシハヅナ「依頼をキャンセルしていいですか?」
探偵「いいですよ。 あなたは、頼む探偵を間違えたのですから。 当然です」
タカナシハヅナ「ええ、私は間違えました」
探偵「そうです、大間違いです。私は、男ですから」
タカナシハヅナ「・・・・・・」
タカナシハヅナ「あなたは、最初から知ってたんですね」
タカナシハヅナ「私が依頼したかった探偵は『ツカダ探偵事務所』。そしてあなたは『シカダ探偵事務所』本当にまぎらわしいわ」
タカナシハヅナ「同級生が探偵をやってるって聞いていたから。依頼してしまいました」
探偵「浮気の調査の依頼が目的ではないですよね?」
タカナシハヅナ「それも分かっていたんですね」
探偵「スリッパにカイロも、数多のスイーツも、優しさですからね」
タカナシハヅナ「そうです、私はマウントをとったんです。高校時代、その娘にマウントとられっぱなしだったから・・・」
タカナシハヅナ「私は愛されているって、自慢したかった」
探偵「ずいぶん遠回しなマウントの取り方ですね」
タカナシハヅナ「私みたいな女はこういう方法でしか、伝えられないんです」
タカナシハヅナ「でも、あなたも私を尾行してわざと依頼を中断させるなんて、随分遠回しですね」
探偵「貴女は間違えているのに気づきながら、私に依頼した。私も間違えられているのに気づきながら、断わらなかった」
タカナシハヅナ「意地の張り合いですね」
タカナシハヅナ「巻き込んでごめんなさい」
探偵「これからは嘘の旦那さんを登場させなくても過ごせますね?」
タカナシハヅナ「やはりそれも気づいてたんですね。あなたは迷探偵ね」
探偵「名と迷、間違えてませんか?」
  END

コメント

  • ボタンの掛け違え程度の間違いかと思ったらシャツとパンツを履き違えていたぐらいのオチがきて驚きました。探偵と依頼者の駆け引きが絶妙でしたね。こういうほろ苦さやペーソスもあり、クスッとさせる面白さもある大人のためのストーリー、いいですね。

  • 面白かったです!!最初から最後まで、ん?ん?となりながら、次の瞬間に、そういうことか!なるほど!ってなっていき、読んでいて、なんだか気持ちの良いストーリーでした!!素敵です!!

  • すごく良かったです!読んでいる側にもおかしな探偵かもと思わせておいて実際のところは何もかも把握している名探偵だったとは!ほぼ会話だけで成り立っているのも臨場感がありました。

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