解決屋『猫柳』(脚本)
〇後宮の庭
ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。
賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。
其処は知る人ぞ知る怪異専門の解決屋がある。
今日も怪異に悩む人々が、彼等の元を訪れる。
〇おしゃれな居間
─離れ
解決屋の仕事場
ピンポーン・・・
輝久「今、チャイムが鳴ったみたいだね」
咲良「・・・・・・そうだね。妖狐か鬼丸が対応すると思うよ」
輝久「お、噂をしたら来たみたいだよ」
桔梗「ご主人達、依頼人だよ」
鬼灯「ったく、居るんならちったぁ自分等で迎えに行けっての」
文也(この人・・・達が・・・)
咲良「オニ専門の相談屋」
輝久「依頼とあればどんな事でも解決するよ」
「猫柳へようこそ」
文也「えっと」
「まぁ、座りなよ」
咲良「依頼はそれから」
輝久「ちゃんと聞くからね」
文也「は、はい・・・!」
咲良「それで」
輝久「依頼は何かな?」
文也「・・・・・・」
文也「本当に、どんな事でも解決してくれるんですか?」
咲良「何でもは無理だよ」
輝久「あくまで私達に出来る範囲さ」
文也「そう・・・ですよね・・・」
文也「・・・妹を助けて欲しいんです」
「妹?」
文也「このままだと妹が殺されてしまうんです!」
「・・・・・・」
鬼灯「そりゃ、穏やかじゃねぇな」
桔梗「詳しく聞かせてくれる?あと、君の事も」
文也「あ、はい!」
文也「俺は夜月文也っていいます」
「夜月?」
文也「え?」
鬼灯「ああ、いや・・・・・・何でもねぇ」
桔梗「続けて?」
文也「は、はい」
文也「一族の風習で・・・10年に一度、女の子を生け贄に捧げなきゃいけないらしいんです」
咲良「その生け贄に」
輝久「君の妹が選ばれたと」
文也「っ・・・はい」
文也「俺はそんなのに従って、妹を差し出したくない・・・・・・でも、妹は連れてかれてしまった」
咲良「気を付けてね」
輝久「そっちも」
同時に立ち上がり、扉に向かう双子。
「ちょっと待った」
桔梗「もう、貴方達は・・・」
鬼灯「ちゃんと説明しろっての」
咲良「私がオニを」
輝久「私が妹を」
「分かった」
文也「え?え?」
鬼灯「あー、簡単に言うとな」
鬼灯「片方がオニを倒しに、片方が妹を助けに行くっつー話なんだよ」
文也「ぇ・・・ぇええええ!?」
〇古びた神社
咲良「此処が例のオニの住処の様だね」
鬼灯「淀んでんなぁ」
文也「・・・・・・・・・・・・」
文也「あの、本当にオニを倒せるんですか?相手は・・・」
咲良「神、と呼ばれてるのかな」
文也「!」
咲良「此処に居るのは神じゃないよ。神を名乗るオニ」
咲良「神は生け贄じゃなくて、器を求めるものだからね」
文也「でも、其でも・・・」
鬼灯「まぁ、桜や菊なら大丈夫だろーさ」
文也「?」
オニ「誰だぁ?」
咲良「・・・・・・」
オニ「なんじゃ、ヒトかぁ。旨そうなヒトじゃのぅ」
文也「オニ・・・!!」
咲良「ふむ。奪鬼か」
文也「だっき・・・?」
咲良「その名の通り、奪う事を生業とするオニだよ」
鬼灯「奪う傲慢と奪われる恐怖から生まれ・・・命を奪い、喰らう事で強くなるオニ」
鬼灯「・・・・・・そんなモノが放置されてるなんてな」
咲良「その一族とやらが隠蔽していたんじゃないかな。どうせ、繁栄とか他を食べない代わりに、という理由で」
オニ「ゴチャゴチャと何じゃあ。まぁいい。全員喰らってやろ・・・」
咲良「煩いよ。少し黙って」
オニ「っ!?」
咲良が立てた人差し指を口に当てると、奪鬼が黙る。
文也「え?」
咲良「鬼丸」
鬼灯「そいつは消していい奴だ。やっちまいな」
咲良「分かった」
咲良に襲い掛かろうとした奪鬼だが、咲良が人差し指を向けると全く動けなくなった。
文也「もしかして、これって異能?」
鬼灯「おう。桜の異能だ」
異能はヒトが持つ特異能力。
其れは誰しもが持ち、一人一人が異なる能力を持つ。
文也「咲良さんの異能って、一体・・・・・・?」
鬼灯「“森羅万象”。俺と妖狐はそう呼んでる」
文也「森羅万象!?なんか、カッコいい・・・」
鬼灯「所謂超能力っつーヤツなんだけどな。桜のはその程度で済ませられる範囲じゃねぇ」
文也「それって・・・?」
咲良が右手を勢い良く左から右に払うと、奪鬼の体が右にある木に勢い良くぶつけられた。
咲良「鬼丸」
鬼灯「はいよ」
鬼灯「“言の葉よ。刃となりて彼の者の剣となせ”」
文也「うぇえ!?」
鬼灯が人差し指と中指を立てた状態・・・手印を口元に当てながら呟く。
すると、指の間から筆で書かれた様な文字が出て、咲良の手に収まると同時に剣の形になった。
文也「鬼灯さんの異能?でも、今のは・・・」
鬼灯「たたっ斬れ、桜」
咲良「ああ、分かった」
オニ「貴様!!よくも・・・」
文也「は・・・え・・・?」
オニ「ぎ・・・なっ」
咲良「眠れ」
文也「えぇ・・・こんなあっさり・・・」
鬼灯「まぁ、桜は現存してる事に関してはチートだからな」
文也「へ?」
鬼灯「俺達が森羅万象と読んでる理由はな、所謂超能力で・・・現存してる全て、万物を操る事が出来るからだ」
文也「万物を?」
鬼灯「自分の体だろうが、其処に存在してりゃあな」
文也「・・・・・・」
鬼灯「桜、其奴は?」
咲良「放置してても死ぬだろう。確実に倒すなら、此処で燃やせばいい」
鬼灯「“言の葉よ。炎となりてその形を表せ”」
今度は炎となり、咲良は其れを簡単に操り・・・奪鬼の体を燃やした。
咲良「此で奪鬼は消える」
鬼灯「そうか。なら、帰るぞ」
咲良「分かった」
文也「ち・・・チート」
鬼灯「それな」
咲良「・・・・・・・・・・・・?」
〇屋敷の牢屋
一方、その頃の輝久と桔梗。
長「な、何なんだお前等は・・・・・・」
輝久「ん?猫柳だよ?」
詩織「・・・・・・・・・・・・」
桔梗「大丈夫かい?」
桔梗の腕に抱かれている・・・文也の妹─詩織は戸惑いながらも頷いた。
輝久「どんな契約を結んだのかは知らないよ」
輝久「でも、依頼人の相談を解決するのが、私達猫柳だからね」
輝久が右手を出すと、その手から剣が生まれる。
詩織「剣・・・」
桔梗「菊の異能はね・・・僕達は“天地創造”って呼んでる」
詩織「天地・・・創造・・・?」
桔梗「菊は無から有を生み出せる。其れだけなら創造だけど・・・」
桔梗「彼には制限がない」
長「うっ」
男「・・・・・・その娘を返して貰おう」
男「その娘は貴重な生け贄だ」
輝久「君達の思惑は無くなるよ」
輝久「何せ、最強の・・・神になる筈だった人が倒しに行ってるからね」
男「何?」
輝久「邪魔しないでくれるかな。私達は最強なんだよ」
輝久「・・・桜を見捨てた奴等に分からせてやるんだ」
男「ゴチャゴチャと・・・・・・娘は渡さぬ!!」
輝久「ふふ。私は何でも創れるよ」
男「!?」
輝久「例え、どんなものでも凍らせる氷でもね」
輝久が言った直後、炎が凍り付いた。
男「なっ」
輝久「私が望めば、私が想像すれば・・・何でも創れる。そして、君は永劫の檻の中に綴じ込まれてしまえ」
男「!!」
氷が檻の形になり、男を閉じ込めた。
輝久「あ、鍵創ってないから、ずっと其処だね」
男「ひ・・・」
桔梗「菊、終わったなら戻ろう」
輝久「そうだね」
詩織「・・・・・・・・・」
桔梗「ごめん、怖いね。本人に悪気は無いんだ」
詩織の頭を軽く撫で、先に歩き出した輝久に続いて桔梗も歩く。
〇おしゃれな居間
文也「詩織!」
詩織「お兄ちゃん!」
屋敷で合流すると、兄妹は抱き締め合った。
鬼灯「あ?思ってたより小せぇな」
桔梗「13歳くらい離れてるんだって。確か、7歳くらいだったかな」
鬼灯「ふぅん・・・って、文也って20か?」
文也「え?あ、はい。アレ、そういえば皆さんは?」
鬼灯「あー・・・」
桔梗「ご主人達は16歳だよ」
文也「・・・・・・え」
文也「み、未成年・・・・・・」
日ノ本では18歳から成人と見なされる。
つまり、双子は成人すらしておらず、学生でも可笑しくない年齢にも関わらずチート。
咲良「ねぇ、依頼人君」
文也「え?はい?」
輝久「君、此れからどうするの?」
文也「此れから・・・」
輝久「君、一族に反抗して妹ちゃん助けたんだよね?」
咲良「其れに、私と菊が一族の当主とオニを倒してしまったからね。行く当てあるの?」
文也「あ・・・えっと・・・」
桔梗「というか、ご主人達に対価を渡さないと」
鬼灯「確かになぁ。けど、対価払えんのか?一族と契約してるオニと一族倒すなんて、結構な対価になんだろ」
文也「あー・・・その・・・」
文也(どうしよう・・・確かに、もう彼処には戻れない)
文也(そもそも断られると思って駄目元だったし、一族の奴等の目を掻い潜って来たから手持ちもない)
文也(対価なんて、払えない)
咲良「・・・家族になる?」
「え?」
「出た出た」
「菊、訳」
輝久「君達、仲良しだよね。つまりね、住み込みでバイトしてみない?って話なんだよ」
文也「ええ、そんな感じでした?」
輝久「桜にとっては、同じ家で住むならヒトだろうとオニだろうと家族って事だからね」
詩織「オニ・・・・・・だろうと?」
鬼灯「ああ。俺と妖狐はオニだからな」
文也「・・・はぁ!?」
桔梗「ちょっと待ってねー」
鬼灯「だな」
直後、桔梗を青い炎が覆い、鬼灯を紙の様な物が覆った。其々覆っていた物が消えると・・・
文也「耳に角!?」
桔梗「改めて。オニ、妖狐だよ」
鬼灯「同じく、オニの言葉(ことは)鬼だ」
桔梗の頭に狐耳が、鬼灯の額に小さめだが角が生えている。
「で、どうする?」
文也「・・・・・・・・・・・・・・・お、お願いします」
其れから文也は何でも屋の住み込みアルバイトとなり、何でも屋に舞い込む事件に巻き込まれていく。
そして、双子のチートを目撃していく事になる。
終