読切(脚本)
〇荒野
レストランの男「俺は戦場のレストラン」
レストランの男「ただのデリバリーじゃないぜ 三ツ星だ!」
〇洞窟の深部
兵士「する しない・・・」
兵士「する・・・」
兵士「・・・・・・」
兵士「コインは表・・・ 友よ 仇を討つことにした」
兵士「たった一人 生き残ったが 包囲してる敵もろとも」
兵士「玉砕だ」
兵士「畜生 手が震えるぜ」
兵士「アレ この匂いは?」
兵士「これは俺の大好物!!」
兵士「ヤバい 幻覚か!?」
兵士「ダメだ 玉砕するんだ!」
???「ひとくち食べてみな」
兵士「死体がしゃべった?」
???「ひとくち ひとくち」
兵士「食べたら死ねなくなる・・・」
兵士「どうせ幻覚だ 玉砕玉砕!!」
兵士「また手が震える 今度は恐怖のせいじゃない 美味そうな匂い・・・畜生!!」
兵士「捨ててやる こんな料理!!」
兵士「ひひひ ひとくちだけ」
兵士「母ちゃんの味だ」
スプーンを持つ手が止まらない
兵士「食った食った」
兵士「けど 母ちゃんは入院中では?」
「お前のために 起きて作ってくれたんだ」
レストランの男「へい おまち」
兵士「あんたが しゃべってたのか?」
レストランの男「俺は戦場のレストラン しかも三ツ星だ!」
レストランの男「弾丸もミサイルも潜り抜け 最高の一品を届けに来た」
レストランの男「あやうく星になりかけたけどな」
兵士「確かに最高だった 母ちゃんに会いたい・・・」
レストランの男「お母さんにとっての最高は」
レストランの男「息子が無事に帰ることだ」
兵士「包囲されてるのに? そもそも どこから入って来た?」
レストランの男「抜け穴があるのさ」
兵士「何者だ? なぜ知ってる?」
レストランの男「俺も昔 この砦で戦ったんだ 何人も殺した・・・」
レストランの男「だから今は 最悪ではなく 最高を届けたい」
レストランの男「依頼主の元へ あんたを帰す 母親の元へな」
〇荒廃した市街地
副隊長「隊長 アイツを突破するのは・・・」
隊長「無理か・・・」
隊長「息子の誕生日には戻りたかったが・・・」
隊長「持久戦だ 皆 休め!」
副隊長「おや あのバイクは?」
レストランの男「俺は戦場のレストラン しかも三ツ星だ!」
隊長「戦場のレストラン?」
副隊長「バカヤロー 死にたいのか!?」
レストランの男「腹が減っては戦ができぬ」
レストランの男「へい おまち」
副隊長「ピロシキ? 形がいびつだな」
隊長「私の好物・・・」
副隊長「味見を」
レストランの男「ダメだ これは隊長のための料理だ」
レストランの男「依頼主は あんたの帰りを待っている」
隊長「依頼主? 誰だろう?」
隊長「固いし・・・しょっぱい」
副隊長「何が三ツ星だよ!!」
レストランの男「だけど5歳にしちゃ 上手いもんだと思わねえか?」
隊長「5歳?」
レストランの男「明日で ちょうど6歳」
レストランの男「小さな手で 母親のことを想って 一生懸命作ったんだ 火傷しながらな」
子供「ママ」
隊長「火傷! 大丈夫なの!?」
レストランの男「まずは 食べてやってくれよ」
泣き崩れる隊長
隊長「今すぐ抱きしめたい でも・・・ココを通れない」
副隊長「みんな!! 隊長を家に返すぞ!!」
副隊長「対戦車砲用意!! 押し切るぞ!!」
レストランの男「どうだい? やっぱり不味いかい?」
隊長「最高の味だ」
レストランの男「三ツ星だろ?」
戦車を倒して 街を解放した
〇基地の広場(瓦礫あり)
新妻「戦場の彼に届けて・・・お願いします!!」
レストランの男「新妻の手料理 まさに三ツ星だ 任せな!」
レストランの男「オット!! ヤバいヤバい」
レストランの男「危うく地雷を踏むとこだ 俺の目は誤魔化せねーぜ」
レストランの男「お前 瓦礫に埋まって 動けないのか?」
レストランの男「どこかの飼い犬だな? よしよし 助けてやる」
レストランの男「ジッとしてろ」
瓦礫から犬を引き出そうとして・・・
レストランの男「何の上に乗ってるんだ?」
犬は喜んで 体を動かす
レストランの男「動いちゃダメだ お前は」
レストランの男「地雷の上に」
飼い犬を 兵器として使ったのだ
〇黒
料理は届けられなかった
俺は片足を失い 依頼者は夫を失った
俺は仕事を辞めた
もうバイクにも乗れない
そんな時──
〇古い倉庫の中
オーナー「あんたにプレゼントだ」
レストランの男「これは!」
オーナー「義足でも乗れるよう 改造してある」
レストランの男「俺はもう廃業だ」
オーナー「もう一度 届けて欲しい」
レストランの男「・・・・・・」
レストランの男「戦場のレストランなんて 笑い話さ」
新妻「いいえ どうしても届けて!!」
レストランの男「あんたは!」
新妻「もう一度 私の手料理を!!」
レストランの男「あんたの夫はもう戦場で・・・」
新妻「夫ではなく 戦争の責任者に」
新妻「私の精一杯の手料理」
新妻「食べたら夫と同じになる」
レストランの男「最高の一品を届けたいんだ 復讐を届けたいわけじゃない」
新妻「復讐こそが最高の一品じゃないの!!」
〇谷
「戦争を終わらせたくないのか?」
オーナーの台詞が決め手だった
敵の作戦司令官の元へ
〇荒廃した国会議事堂の広間
司令官「戦場のレストランだ~?」
レストランの男「三ツ星だぜ!」
司令官「俺に何か食わせようってか?」
部下「危険です司令官殿 お毒味を」
司令官「毒味は こいつ自身にさせろ」
司令官「三ツ星なんだろ? やるよ よかったな」
その時 司令官の側に現れたのは──
レストランの男「何であんたが!?」
新妻「あなたが憎いから」
新妻「どうして 犬なんかに・・・」
新妻「そんなの無視して ちゃんと届けなさいよ」
新妻「夫は空腹のまま 戦死したじゃない!」
新妻「きっと天国でお腹を空かせてる 可哀想・・・あんたのせいよ!!」
新妻「私の料理より 犬なんか気にして 許せない」
司令官「この女は 敵である俺にお前を売った」
司令官「憎しみのあまり 誰を恨んでいいのか 解らないのさ」
司令官「戦争とは面白いな みんな狂っていく」
レストランの男「・・・・・・」
司令官「自分で運んだ毒料理を食え」
レストランの男「・・・・・・」
司令官「どうした? 早く品を出せ」
新妻「ええ」
司令官「どうした?」
新妻「わ 私の料理じゃない!!」
司令官「なに!?」
レストランの男「いっただきま〜す こりゃ美味そうだ〜!」
レストランの男「アー 食った食った」
レストランの男「最後の一切れ あんたも食う?」
レストランの男「へい おまち」
司令官「うーむ うーむ・・・」
レストランの男「隠し味がバッチリ 蜂蜜と酢を混ぜた 特性マスタード」
司令官「特性マスタード!! そ・・・それは!?」
レストランの男「美味いよ あんたのサンドイッチ」
レストランの男「孤児院で これだけが楽しかった 妹さんが 懐かしそうに言ってたよ」
レストランの男「兄の作るサンドイッチ 「幸せの味」だってな」
レストランの男「今では妹の得意料理なのさ」
レストランの男「自分の味 自分で確認したらどうだ?」
司令官「バカな 妹は マリアはもう死んだ!!」
〇刑務所
いいや マリアは生きている
捕虜収容所で
夫と一緒に掴まったのさ
捕虜の家族として
皮肉だな 敵側の家族になってたのさ
〇荒廃した国会議事堂の広間
司令官「嘘だ まやかしだ 信じん 信じんぞ」
レストランの男「証拠の写真だ 今朝 潜入して撮った サンドイッチも その時に」
レストランの男「看守への鼻薬 高くついたがな」
部下「司令官殿 ミサイル攻撃の時間です 合図を」
司令官「まて 攻撃範囲に収容所は?」
部下「もちろん含んでます 捕虜を虐殺 戦意を挫く 司令官殿の あっぱれな作戦!!」
レストランの男「あっぱれ! だが中止だろ? そこにマリアがいるんだぜ」
司令官「うーむ・・・」
部下「司令官殿! 攻撃命令を」
司令官「うーむ・・・」
レストランの男「中止だ!!」
部下「攻撃を!!」
レストランの男「中止 中止!!」
司令官「うううううむむむむーうう」
司令官「攻撃しろ」
レストランの男「正気か?」
司令官「これが戦争なのだ 攻撃だ 妹など構わん!!」
新妻「ホントね みんな狂う」
レストランの男「・・・・・・」
レストランの男「なら 妹の形見だな 最後の一口どうだ?」
司令官「・・・・・・」
レストランの男「せめて食べてやれ」
司令官「・・・・・・」
震える手で掴み
口に入れる司令官
レストランの男「隠し味 効いてるだろ? ピリ辛だけじゃない 蜂蜜の甘さ 酢の酸味が絶妙だ」
レストランの男「マリアが作った 最後の幸せの味 よく噛み締めろ!!」
司令官「・・・・・・・・・」
司令官「ううう うまい」
声を詰まらせ 崩れる司令官
司令官「中止だ 攻撃中止!!」
司令官「何をしてる 今すぐ中止しろ!!」
司令官「うぐぐ・・・」
部下「ビビりやがって 腰抜け!!」
部下「ミサイルを撃て」
部下「うう」
レストランの男「・・・」
新妻「あなた 銃を?」
新妻「義足の中に・・・」
レストランの男「義足までは チェックされないからな」
レストランの男「最高を届けたかったのに 結局 復讐を届けちまった」
レストランの男「あんた これで満足か?」
新妻「・・・・・・」
新妻「わ 私は・・・私は・・・」
司令官「うーむ サンドイッチ落としちまった」
新妻「生きてる??」
レストランの男「頑健な男だな」
ミサイル攻撃は回避された
〇宇宙空間
オーナー「しまった 願い事を掛け損じた」
オーナー「早く戦争が終わるようにって・・・」
レストランの男「カワイイな」
オーナー「ウルセェ!」
レストランの男「あんなの せいぜい一つ星だ」
レストランの男「願掛けするなら 俺に掛けな」
レストランの男「なにしろ俺は・・・」
オーナー「三ツ星なんだろ!! 聞き飽きたよ」
レストランの男「最高の一品をお届けだ!!」
オーナー「気をつけろよ!!」
戦争を始めた張本人
敵国の大統領まで
俺は国境を超える配達に出た
俺は戦場のレストラン
ただのデリバリーじゃないぜ
レストランの男「三ツ星だ!!」
主人公のキャラが、純粋な目をした立ち絵のキャラと相まっていいサイコパス感が出てて(笑)。
連載も出来そうなくらいキャラも濃いですし(神出鬼没感が良…)、決めセリフもあるしで😂
新妻さんも一瞬狂いましたが、まぁ仕方ないものですよね……。
「戦争の悲惨さ」の対義は何か、それを物語というカタチにしたもの、、、読んでそんな所感を抱きました。シーンを淡々と重ねていく前半部が、後半部の物語性を高めてイイですね!
新たなヒーロー?の誕生ですね。おいしいものを食べれば、みんなやさしく平和になれる。それが大切な人からの思い出の料理だったらなおさらですよね。見た目と口調は楽しい主人公でしたが、なかなか深いお話でした。