第4話 俺、卒業したら——(脚本)
〇田舎の駅
鉢呂稔「・・・うぅ、さぶっ」
吐いた息が真っ白で、思わず身震いする。
鉢呂稔「まあ、もうそろそろクリスマスだしなぁ。 年の瀬、だもんなぁ」
知里誠一「そうですね。 あの、風邪、引かないように気をつけて くださいね?」
鉢呂稔「んん・・・うん。 けど、もうすでにやばいよね。鼻が」
ずずっとすすりながら、
俺は線路の先を見る。
知里誠一「あ、電車だ」
知里君が乗る電車がやってきて、
彼の表情が曇る。
鉢呂稔(最近、いつもこうなんだよな)
知里誠一「それじゃ、いってきますね」
鉢呂稔「あ、うん。・・・いってらっしゃい」
彼の乗る列車を見送って、
俺はいそいそ駅員室に向かう。
鉢呂稔「は〜さぶっ。 ・・・クリスマス、かぁ」
〇田舎の駅
鉢呂稔「・・・で、お兄ちゃんは何を喜ぶと思う?」
知里有紀「知らねえよ!」
そう言って、学生くんの弟である
知里有紀くんが吠える。
鉢呂稔「つれないぃ! つれなすぎる!」
知里有紀「いや、マジで知らねえし! なに、急に呼び出してきたの、 これが用件っすか?」
鉢呂稔「うん、そうなの。相談に乗ってほしくて」
知里有紀「じゃ、帰るんで」
鉢呂稔「いやああ、帰らないでぇ!」
ベンチから立ち上がろうとする
有紀くんの服の裾を掴んで、
無理やり引き止める。
知里有紀「んぎぎ・・・!」
鉢呂稔「だぁめぇ!」
知里有紀「っは、はあはあ! あんた、すげえ力強くないっすか」
鉢呂稔「こう見えて俺、 休日は 農作業の手伝いしてるから」
知里有紀「なにドヤ顔してんすか、ムカつく。 しかも、意味分かんないし」
ぶつくさ言いながらも、
有紀くんはベンチへと座り直す。
なんだかんだ言って、
この子もお兄ちゃん同様いい子だ。
知里有紀「で、なんなんすか。 あ、クリスマスだからとかそういう?」
鉢呂稔「そうそう!」
知里有紀「べつにいらなくないっすか」
鉢呂稔「え、いるでしょ。友だちなんだし」
知里有紀「友だち、ねぇ」
鉢呂稔「それに、その・・・」
知里有紀「なんすか」
鉢呂稔(これ、弟くんに話していいんかな)
ふとそんなことを思い、うつむく。
すると、そんな俺の態度が
気に障ったのか、
弟くんは嫌そうに眉根を寄せた。
知里有紀「え、なに。 なんかあったんすか、ちい兄と」
鉢呂稔「あっ、や、ちがう。 べつに俺とお兄さんにはなんもない」
知里有紀「ならいいっすけど。 俺、兄弟のそういうの、 知りたくない派なんで」
鉢呂稔「え、そういうのって?」
知里有紀「そういうのは、そういうの、っすよ」
鉢呂稔「そう、いう、の?」
知里有紀「その宇宙猫みたいな顔 やめてくれます?」
鉢呂稔「あ、はい」
知里有紀「で、ともかくなんなんすか」
鉢呂稔「あ、それで、その・・・。 なんか、俺から見るとね? 最近、知里くん、元気なさそうで」
知里有紀「そうっすか?」
興味なさそうに言って、
有紀くんはポケットから
スマホを取り出した。
鉢呂稔「でね、やっぱ知里くん、受験生じゃない?」
知里有紀「そっすね」
鉢呂稔「だから、やっぱナーバスっていうの? 繊細な時期かなぁって思って」
知里有紀「はあ、まあ」
鉢呂稔「だから、プレゼントでもしてあげて」
知里有紀「なるほど」
鉢呂稔「・・・・・・」
知里有紀「ふうん」
鉢呂稔「・・・・・・」
知里有紀「それでどうしたいんすか」
鉢呂稔「俺の! 話を! 聞いて! ほしい! です!」
知里有紀「うあっ!?」
有紀くんの肩を掴み、
ガックンガックン揺さぶる。
知里有紀「わかった、わかったから!」
鉢呂稔「スマホ! しまって!」
知里有紀「はい! わかったんで! 肩! 痛いし!」
鉢呂稔「・・・はー。 まあ、というわけでね? 友だちなりに、なにかしてあげたいなと」
知里有紀「まあ、経緯はわかりました。 つっても、俺、兄貴のほしいもんなんて 知らないっすけど」
鉢呂稔「ええー? なんか一個くらい思いつかない?」
俺がそう懇願すると、
有紀くんは低くうなり考える。
知里有紀「なんすかね。 ・・・べつに駅員さんからなら なんでも喜ぶと思うんすけど」
鉢呂稔「うそだぁ! そういうのは信じない! 絶対に!」
知里有紀「なんすか、トラウマでもあるんすか」
鉢呂稔「ある、いっぱい」
知里有紀「まあ、一応聞きます」
鉢呂稔「好きな子に誕生日プレゼントあげたんだよ」
鉢呂稔「気持ちをこめればいいって言われたから 俺の好きなもんをあげたの。 そしたら泣かれた」
知里有紀「念の為、っすけど。 いくつのときに何あげたんすか」
鉢呂稔「中1のときに、おおかまきり」
知里有紀「はい、バカ」
鉢呂稔「え、なんで!?」
知里有紀「え、うそ。 今も問題点わかってない?」
鉢呂稔「おおかまきり、かっこいいじゃん」
知里有紀「お願いだから、 兄貴にはあげんでくださいね」
鉢呂稔「えっ」
知里有紀「いや、マジで」
鉢呂稔「えっ」
知里有紀「はあ〜・・・っ」
がっくりと肩を落とした有紀くんに、
なんだか申し訳なくなってくる。
鉢呂稔「え、俺の好きなもんって、 そんなズレてんの? かっこいいじゃん・・・かまきり」
知里有紀「てか・・・」
鉢呂稔「ん?」
じっと有紀くんが俺を見る。
そういえば、前も彼は俺を
こうやってまじまじと見ていたな。
知里有紀「もしやって思ってたんすけど、 マジで覚えてないんすか?」
鉢呂稔「へ?」
知里有紀「俺の顔、見ても・・・なんも思わない?」
鉢呂稔「え、兄弟揃ってイケメンだなって」
知里有紀「や、もういいっす。なんでもないっす」
有紀くんはパッと手を振ってから、
俺に向き直る。
知里有紀「兄貴なら結構マジで、 なんでも喜ぶとは思うんすけど・・・。 でも一応、相談にのってやりますよ」
鉢呂稔「うそ! やった!」
知里有紀「このままじゃ、マジで虫とか プレゼントされそうなんで」
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虫はね~っ! 逃げるしすぐに死んじゃうし、プレゼントには向かないですね~っ!