殺し屋メリーは電話する(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
オレの名前は伊集院光。
伊集院財閥の御曹司である。
今日も完璧なオレは忙しい。
プルルルルル...。
伊集院 光(早速仕事の電話が)
伊集院 光「非通知?」
伊集院 光「もしもし?」
「メリーです、今あなたの右斜め後方のビルでライフルを構えています」
伊集院 光(若い女の声...?なんだこの電話、間違い電話か?)
伊集院 光「なんでそんなこと電話してくるんだよ、間違い電話か」
「メリーです、伊集院光さん、あなたを殺すためです」
伊集院 光「......」
伊集院 光「やめろよ!!」
「やめません、これから引き金に手をかけます、かけますよ、いいですね?」
伊集院 光「いいわけないだろ!なんでオレを殺すんだよ!」
「依頼があったからです、貴方のお父様に恨みのある依頼者から息子である貴方を殺すようにと」
伊集院 光「全部教えてくれるな!?」
「撃ちますよ、撃ちますよ右足いきます」
伊集院 光「やめろ!こんなところで銃を撃つな!」
「しかし、依頼なので。お金もう貰ってるので」
伊集院 光「と、とにかくこんな人の多いところで銃を撃つな、そしてオレの依頼も諦めてくれ」
「それはできません、私の家は貧乏なので殺し屋の私が稼ぎ頭になるのです」
伊集院 光「全部教えてくれるな!君は」
伊集院 光「絶対殺し屋向いてないからやめておけ!」
「他の人に弾が当たったら危ないので今回はやめておきます、貴方が一人になったところを狙おうと思います」
伊集院 光「本人に言うな!あと、絶対一人にならないからな!!」
〇おしゃれな居間
プルルルルル
伊集院 光「なんだ、非通知か?」
伊集院 光「まさか...」
「メリーです、今あなたの部屋のベランダに向かうところです」
伊集院 光「......」
物凄く躊躇した後、部屋の窓を開けると、
メリー「全然一人にならないじゃないですか!!」
メリー「しかもあなた仕事中いろんなところ行きますよね!?」
メリー「ついていくこっちの身にもなってください!」
メリー「交通費出してください!交通費!」
伊集院 光「まさか電話してきたのって」
メリー「私です、メリー・アルダ。プロの殺し屋です」
伊集院 光「いつから殺し屋なんだ?」
メリー「二日前からです!!」
伊集院 光「何人殺したんだ?」
メリー「あなたが初めてです!」
伊集院 光「だとしたら殺してないし、プロを名乗るな!」
メリー「8人兄弟を食べさせていかなくてはならないので!」
メリー「お命頂戴致してもよろしいでしょうか!」
伊集院 光「おい、待てよその包丁」
メリー「気づいたか」
伊集院 光「うっすら血の錆のようなものが見えるぞ...」
メリー「フッ、恐れをなしたか」
伊集院 光「まさかお前、本当に...」
メリー「驚くなよ、私はマグロが捌けるのだ」
伊集院 光「マグロ......」
メリー「他にもタイとか、イカとか、秋刀魚もいける」
メリー「日本人の亡くなった父が釣った魚を捌いて家族で分けて食べていたからな」
メリー「しかも農家の娘だからな、牛も馬も豚も捌けるのだ」
メリー「だから人間も殺せると踏んで殺し屋オーディションに応募した」
伊集院 光「アイドルオーディションみたいに言うなよ...」
伊集院 光「それで何故か合格しちゃったわけか...」
メリー「いや、不合格だった」
伊集院 光「不合格だったんかい...」
メリー「しかし、時給がいいので諦めきれない。 自営業で行くことにした」
伊集院 光「依頼者はどうなってんだよ」
メリー「殺しの依頼募集中の張り紙をうちの近所に貼りまくったら電話をもらった」
伊集院 光「よく通報されなかったな!?」
伊集院 光「ってかそんな依頼でオレはあんたに殺さそうになってるのかよ」
メリー「先払いにして欲しいと行ったからすでに報酬は振り込まれているのだ」
伊集院 光「何で二日前に殺し屋初めた素人が先払いを申し出てるんだよ!」
伊集院 光「安心と信頼がなさすぎるだろ!」
伊集院 光「はー...ったくさぁ、もう」
伊集院 光「で、ライフルはどうしたんだ?包丁しか持ってないようだが」
メリー「あれは脅しだ こちらの方が強いことをアピールして恐怖を与える作戦だ」
伊集院 光「作戦とか言っちゃってるよ」
伊集院 光「わかった、こうしよう」
メリー「なんだ」
伊集院 光「転職しろ、報酬は倍出す」
メリー「いくらだ? 依頼者は回転寿司を腹一杯食べれるだけ報酬を出してくれたのだぞ」
伊集院 光「そんな安くないぞオレの命は」
伊集院 光「まぁその金はオレが依頼者に払うから」
伊集院 光「お前はオレの会社の従業員として働いてもらう」
〇広い厨房
「おい!メリー、こっちのスープはできてるか」
メリー「当然だ!」
「メリー、マグロは捌いたか?」
メリー「終わっているぞ!」
伊集院 光「元気そうだな、メリー」
メリー「光!今日も絶好調だ」
伊集院グループは大手レストランチェーンを経営している。
オレは、そのうちの一つの店のシェフ見習いの仕事を紹介したにすぎない。
「メリーちゃんは何でも素早く捌けるしすぐ覚えるし、何より『素直』なところがいい」
「伊集院様はよく彼女のような子を見つけてきましたね」
伊集院 光「まぁな」
本当は殺し屋とターゲットという関係だったけど...
〇おしゃれな居間
プルルルルル
伊集院 光「なんだ?また非通知から?」
伊集院 光「もしもし?」
「メリーです、今あなたのベランダに向かうところです」
伊集院 光「なんでまだ非通知なんだよ!」
窓を開けると、誰もいなかった。
〇団地のベランダ
伊集院 光「あれ?」
伊集院 光「あっ!?」
ベランダの柵の下から、幽霊のように、にゅっと手が現れて、
2階のベランダの柵をよじ登ってきたのは、思った通り思いたくなかったが、メリーだった。
伊集院 光「お前ここ2階だぞ」
メリー「なんのそのだ」
伊集院 光「普通に玄関から入ってこいよ」
メリー「殺し屋の時の癖がな」
伊集院 光「開業して二日だったろ」
伊集院 光「ったく、で?どうしたんだよ今日は」
メリー「......」
伊集院 光「?」
メリー「......お礼を言いにきたのだ」
伊集院 光「お礼?」
メリー「ほ、本当は人殺しなんてしたくなかった」
メリー「異国の家族の為を思って日本に出稼ぎにきたのだが」
伊集院 光「出稼ぎで殺し屋になる奴はプロだろ」
メリー「牛や豚とは違うのだ、食べる目的で殺すわけではない」
メリー「黒い理由で、誰も幸せになれない」
メリー「本当にいいのかって思っていた、だから依頼主に聞いて、公衆電話で光に電話したのだ」
伊集院 光「公衆電話?」
メリー「さっきも近くの公衆電話から電話をかけて、家をよじ登ってきたのだ」
伊集院 光「フィジカルすごいな」
伊集院 光「でも、メリーは依頼者からのお金先払いにさせてただろ」
メリー「それは全部家族に送った、寮も温かい寝床ももらって、私は満足している」
メリー「一日一食、まかないのご飯は輝くほどに美味しくて幸せだ」
メリー「本当にありがとう」
メリー「それだけいいにきた」
メリー「仕事中は、殺し屋だったことがバレると困るしな」
メリーはそう言ってまたベランダの柵に手をかけた。
伊集院 光「メリー」
メリー「なんだ?」
伊集院 光「玄関から出ろよ、危ないだろ」
伊集院 光「それと、明日お前に携帯電話を買ってやる」
メリー「なんだそれは」
伊集院 光「いつでもオレと連絡を取れる機械だ」
メリー「こ、これ以上はもらえないよ」
伊集院 光「転職祝いだ」
尚もベランダから帰ろうとするメリーの手をとって、オレは部屋の中へとメリーを引き入れた。
メリーの手は、家族のために苦労してきたんだろうということが分かるほどにボロボロだった。
〇渋谷のスクランブル交差点
あれから1週間後...
今日はメリーの初のお休みの日だ。
プルルルルル
ピッ
伊集院 光「メリー、なんだよ」
「メリーです、今駅に着きました」
「メリーです、今歩いています」
「メリーです、美味しそうな匂いがするのでしばらくそこでうろうろしてます」
伊集院 光「わかった、もうわかった、オレが迎えに行く、店の名前を教えろ!」
〇店の入口
メリー「待ちましたよ」
伊集院 光「オレは2時間半待たされたぞ」
メリー「ちゃんと連絡したじゃないですか」
伊集院 光「電車内では100件くらい連絡してきて、降りてからは1分おきに電話してきたけど、遅刻してんじゃないか!」
メリー「便利な携帯電話が悪いです」
メリーに携帯電話を買ってから、メリーは常にオレに連絡してくる。
昼夜問わず連絡してくる程、携帯電話が嬉しかったのだろう。
メリー「もしもし、メリーです」
伊集院 光「おい、目の前にいるだろ」
メリー「今日は美味しいご飯を食べに行くと聞いてきたのですが?」
伊集院 光「その前に服を買いに行くぞ」
メリー「服?」
伊集院 光「その服じゃ目立つからな、ほら」
オレがメリーの手を掴むと、メリーは携帯電話を切った。
メリーはお守りのように携帯を携帯ケースに入れて首から下げている。
メリー「ありがとう、光」
伊集院 光「何か言ったか?」
メリー「なんでもない!」
メリーちゃん、なんてかわいい人なんでしょう!伊集院光も殺されかけたのに手を差し伸べることのできる素晴らしい人ですね。読んでいて安心できる優しいお話しでした。この後、2人はいい感じになりますね!
全てにおいてピントがズレてるメリーさん。でもピンポイントでスキルの高いメリーさん。何となく目が離せなくなって仕事のお世話までしちゃう光の気持ちも分かるなあ。なんだかんだ、これからもいいコンビになりそうですね。