雨に響く音(脚本)
〇郊外の道路
春太「お疲れさまでしたー」
男「おいおい、もう上がんのかよ春太。せっかくだし、打ち上げやろうぜ!」
春太「悪い、うちのペットがお腹を空かせているもんでね」
男「ペットなんか、飼ってないだろうが。どうせ、彼女と約束でもしているんだろう?」
春太「さあな、どうかな」
俺はギターケースを背負い、バーの扉を閉める。
少し、眩暈がする。彼女と聞いて、思い出してしまった・・・・・・彩花のことを。
彩花「春太・・・・・・君?」
春太「彩花?」
幻覚だろうか。目の前には、彩花の姿があった。
春太「本物・・・・・・か? どうしたんだよ、今まで姿をくらまして心配していたんだからな」
彩花「ごめんなさい」
咄嗟に、走り出した彼女の腕を掴む。
そこで、気づいた。外はどしゃ降りの雨だ。
傘を持っていなかった彼女は、ここで雨宿りをしていたらしい。
春太「もしかして、俺の演奏を聞きに来てくれたのか?」
彩花「え・・・・・・いや・・・・・・違」
彼女の様子を、窺う。
その表情から、この再会が完全な偶然によるものだと分かった。
春太「たまに、ここで演奏させてもらうんだ。良かったら雨宿りしている間、一曲聞いていくか?」
バーの扉に手を掛けるが、彩花に動く気配は無い。
それを見て、俺はその場でギターケースを肩から下ろした。
彩花「え?」
無言で、演奏を始める。
こんな状況でギターを弾いた経験は無いが、響く音は雨の中でもはっきりと聞こえた。
彩花が突然居なくなったのは、高校を卒業した頃。
俺は、ずっとその理由を探し続けていた。
春太「彩花、もし俺がミュージシャンを目指していたことが気に障ったのなら謝る」
春太「俺にとって一番大事なのは、彩花なんだ。だから、ミュージシャンを辞めてでも俺は・・・・・・」
彩花「違う・・・・・・違うよ。私は」
彩花は、この状況に似つかわしくないような満面の笑顔を浮かべた。
でも、その笑顔には寂しさの色が混じっていて。
彩花「さようなら」
その表情の意味を考えて、ようやく答えに辿り着く。
再び走り去ろうとする彩花の身体を、強く抱きしめた。
春太「馬鹿野郎・・・・・・」
春太「俺がミュージシャンになる邪魔になると思って、姿を消したんだろう? 違うか?」
彩花「春太君には才能があるから。だから・・・・・・」
春太「俺は彩花への想いを込めて、これまで演奏を続けてきたんだ」
春太「何処かで聞いてくれているかもしれないと思って、ずっと・・・・・・!」
次第に、雨も止むだろう。そうしたら、また二人で歩き出せるはずだ。
今、離れ離れになっていた二人の心が再び一つになろうとしていた。
降り続いていた雨の音がピタッと止んで音楽に切り替わった瞬間、そこから春太と彩花の気持ちが少しずつ動いていく描写とリンクしていてホーッてなりました。
何も告げられず突然の別れは、辛いですよね...。時としてこういうことが本当に起こるから、2人には幸せになってほしいし、夢も諦めないでほしい!