怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード4(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇ボロい校舎

〇木造校舎の廊下
茶村和成「じゃあ・・・このまま殺されるしかないのか?」
薬師寺廉太郎「まあ、ちょん切られちゃったら普通は死んじゃうよね」
茶村和成「そん、な・・・」
  へたりと身体(からだ)から力が抜ける。
  「いつかは必ず死ぬ」。
  そんな当たり前のことは理解していても、まさかこんなにも早くそれを意識する日が来るとは、思っていなかった。
  しかも、こんな理解不能なことで。
茶村和成「・・・・・・」
  いや、弱気になっても仕方ない。
  ただでさえ異常事態なんだ。気持ちだけは強く持たないと。
  唇をきゅっと結ぶ。
  別に、薬師寺の言うことがすべてなわけではない。
  もしかしたら、薬師寺が知らない方法だってあるかもしれないじゃないか。
  意を決して立ち上がり、廊下へと出て行く。
薬師寺廉太郎「・・・? どこ行くの?」
茶村和成「なにもせずにやられるのを待つのは、性に合わない」
茶村和成「お前が知らないことだってあるだろうし、助かる方法も見つかるかもしれない」
茶村和成「とりあえず、足掻いてみる」
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
  ぽかん、と口を開いたまま静止する薬師寺。
茶村和成「・・・なんだよ」
薬師寺廉太郎「・・・ふっ、ひゃっひゃっひゃ!」
茶村和成「へ・・・」
薬師寺廉太郎「はーっ、君、変人って言われない?」
薬師寺廉太郎「普通こんな状況でそんなこと言えないよぉ」
茶村和成「お前にだけは言われたくないな・・・」
薬師寺廉太郎「でもそういうの、嫌いじゃあない」
  目頭を拭(ぬぐ)いながら、薬師寺はにっこりと口角を上げる。
薬師寺廉太郎「ごめんね、ちょっと意地悪しちゃった」
茶村和成「?」
薬師寺廉太郎「一度こちらの世界に現れた怪異を、あちらの世界に帰すことはできない」
薬師寺廉太郎「それは本当」
薬師寺廉太郎「でも・・・」
  と、そのとき。
  —ひた
  嫌な音が聞こえた。
茶村和成「あ・・・」
  反射的に音のする方へ顔を向ける。

〇黒
  再び階段を上がってきたテケテケ(あいつ)と、目が合った。
  薬師寺との会話に気を取られて、気づけなかった。
  距離は約5メートル。ここまで近づかれてしまったら、さすがに逃げられない。

〇木造校舎の廊下
茶村和成「・・・・・・」
  そんな俺の心中を察したかのように、テケテケはゆっくりと距離を詰めてくる。
  無意識に唇を噛み締めてしまい、口内に鉄の味が滲(にじ)んだ。
茶村和成「っわ、」
  一方後ずさると、いつのまにか俺の後ろに立っていた薬師寺とぶつかる。
  俺は視線は前を向けたまま、静かに薬師寺に告げた。
茶村和成「・・・俺が引きつけるから、お前は逃げろ」
薬師寺廉太郎「・・・無理でしょ。死ぬ気?」
茶村和成「いいから早く! どうせ足遅いんだろ!」
薬師寺廉太郎「ひゃひゃ、ひどいなぁ。 当たってるけどね」
  なんでこいつはこんなに悠長なんだ!
  だんだんと苛苛(いらいら)し始めて、声に怒気が混じってしまう。
  こうしているあいだにも、テケテケは徐々に迫ってきて・・・
茶村和成「いや、・・・止まってる?」
茶村和成「なん・・・」
  言いかけたとき、強い力で手首を引かれる。
  バランスを崩して廊下に尻餅をついた。
茶村和成「っ、い・・・」
  いきなりなんだ、と薬師寺に怒鳴ろうとして、そのまま黙ってしまう。

〇木造校舎の廊下
  目の前には、狐面を装着した薬師寺が、化け物と対峙するように立っていた。
  その粛然(しゅくぜん)とした佇(たたず)まいを見ると、先ほどまで軽口を叩いていたとは到底思えない。
薬師寺廉太郎「帰すことはできなくても、消滅させることならできる。」
  テケテケは、薬師寺を威嚇するように体制を低くして唸っている。
薬師寺廉太郎「・・・綺麗さっぱり、跡形もなく、ね」
  薬師寺が一歩、前に出る。
  テケテケは動かない。
  また一方、踏み出す。
  テケテケは動かない。
  そしてもう一歩進もうとしたとき、突如甲高い奇声を上げて、テケテケが薬師寺にとびかかった。
茶村和成「!」
  鋭利に尖った爪が光る。
茶村和成「——!」
  その瞬間。
  狐面の口元が、大きく歪(ゆが)んだ。
  まるで生きているかのように内に秘めた牙を剥き出しにして。
  今にも豪快な笑い声が聞こえてきそうなほど大声を開けて、笑っている。
  テケテケの身体がねじれるように回転した。
  そうして、みるみるうちに狐面の口内へと吸い込まれていく。
  夜空を塗りつぶしたような真っ暗闇に引き寄せられて行くその姿は、ブラックホールを彷彿(ほうふつ)とさせた。
  耳を塞ぎたくなるほど響き渡った断末魔の叫びも、次第に聞こえなくなる。
  静寂が空間を覆った。
薬師寺廉太郎「ごちそーさま」
茶村和成「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「あ、茶村。 強く引っ張りすぎちゃってごめんねぇ」
茶村和成「ん、ああ・・・」
  伸ばされた手を取って、起き上がる。
  狐面を外し、人懐っこい笑顔で微笑む薬師寺を見つめながら、俺はいまだに状況が飲み込めずにいた。
  どこか、現実ではない、別の場所にいる気がする。
茶村和成「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「・・・茶村〜?」
  と薬師寺は俺の足に手を伸ばす。
茶村和成「うひっ!?」
薬師寺廉太郎「よかった、だいじょ・・・グフッ!!」
茶村和成「だから太ももを揉(も)むなって!!」
薬師寺廉太郎「ってて・・・」
薬師寺廉太郎「そういえば時間、大丈夫?」
茶村和成「え?」
薬師寺廉太郎「タイムセールなんでしょ?」
茶村和成「あっ・・・!」
  焦って時計を確認する。
  タイムセールはあと5分に迫っていた。
茶村和成「やっば・・・!」
薬師寺廉太郎「いってらっしゃ〜い」
  ひらひらと手を振る薬師寺に急かされるように、その場を去る。

〇黒
  階段を下りるとき少し緊張したが、あっさりと1階にたどり着いた。

〇ボロい校舎
  来たときと同じ正面口を通り抜け、数本進んだところで校舎を振り返る。
茶村和成「・・・・・・」
  なんの変哲もない、古臭い木造校舎。
  時折、風を受けて軋(きし)む音がする。
  もう一度、時間を確認する。

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