野際かなえの場合(脚本)
〇ゆるやかな坂道
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「野際かなえさん」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「また来たの?」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「ここに来れば会えると思いまして」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「しつこいわね」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「これも仕事なもので・・・」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「そんなの知らないわよ!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「あっ」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「・・・」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「かなえさん」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「少しだけお話をいいですか?」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「もう! いったいなんだって言うの!?」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「実は、今日は智之さん──ご主人から預かって来たものがあるんです」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「何を預かってきたのよ!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「・・・こちらです」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「まさか!?」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「はい 智之さんは既に違う女性と暮らし、二人にはお子さんもいます」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「・・・」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「智之さんは、かなえさんに、もう過去に縛られないでほしいと願って──」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「黙って!」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「私は認めないわよ!こんな事!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「やはり簡単に話を聞いてはくれないか・・・」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「かなえさん」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「ほんとにいい加減にして! いったいアンタなにが目的なのよ!?」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「私は智之さんから依頼された代理人ですから」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「こんなことしてて楽しいわけ!?」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「これも仕事なもので」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「──用件は何よ!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「今日は、智之さんからの手紙を預かってきました」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「言いたい事があるなら直接あの人が来ればいいじゃない!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「失礼ですが、今のお二人では会話が成立しないかと・・・」
「はっ?」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「・・・読ませて頂きます」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「かなえ、君にはあの時つらい思いをさせた事、申し訳なく思う」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「だけど、それは決して本意ではないし、あの頃の君への気持ちに嘘はない」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「君にはいつまでも苦しんでほしくないんだ だから──」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「やめてっ!」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「そんな言葉、聞きたくないわよ!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「あ、かなえさん!待ってください」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「そっちは──」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「今日も止められなかったか・・・」
野際かなえさん──
彼女は6年前、夫の不貞を疑い、発作的にこの高台から飛び降りた
それは誤解だったのだが、錯乱した状態だったかなえさんは、その記憶が残っていないらしい
自分が死んだということを──
この場所ではかなえさんらしき姿が度々見られるようになり
俺は夫だった智之さんから依頼を受け、ここに来ている
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「また繰り返すのですか、かなえさん」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「俺も、少し考え方を変えてみる必要があるかもしれないな」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「やあどうも」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「ほんとにしつこいわね!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「そう身構えないでください 今日はかなえさんのお話を聞かせて頂きたいんです」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「私の話?」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「はい、いつもこちらからお伝えするばかりで、かなえさんのお気持ちをうかがってませんでした」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「なんでアンタにそんな話しなきゃいけないのよ!」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「まあまあ、こんな人間にでも、話せば少しは気が晴れる事もあるかもしれませんよ」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「・・・」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「・・・」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「・・・聞きたきゃ、勝手に聞きなさい」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「そうさせてもらいます」
野際 かなえ(のぎわ かなえ)「アンタももの好きね」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「これも仕事なもので」
朽木 竜司(くちき りゅうじ)「・・・いきましょうか」
ー 過去を断ち切れない女 ー
スチルの効果が作品を引き締めますね
色々なアプローチをしてきたと思うのですが、未だ過去を断ち切れない所よほど執着があるのですね
はたして次のアプローチはうまく行くのか🤔🤔🤔
こんばんは!限られた文字数でドラマチックな展開で面白かったです!
予想だにしなかった展開が明かされて終わり、ではなく、男がやり方を変えてまだ続いていくという余韻を残す終わり方が好きです。