聖夜のキセキ

クロハ

聖夜のキセキ(脚本)

聖夜のキセキ

クロハ

今すぐ読む

聖夜のキセキ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇新橋駅前
  ・・・・・・
  ────寒い。寒すぎる。
  手足が悴む程に寒い。
  手は赤くなってるし、足は────
  視線を下へ向けたことで俺は違和感に気付く。
  なぜ俺は車椅子に乗っているのか、と。
  そして、誰かが車椅子を押している。
  一体、誰がこんなことを。
  そう思い後ろを振り返ると──
恵理「あーごめん、起こしちゃった?」
  ────恵理だ。
  恵理と二人で街にいる。
  と、いうことは今日はクリスマスイブで
  デート中か。
  寝ている間にすっかり忘れていた。
  とりあえず恵理に『大丈夫』と伝え、今の状況を整理する。
  今日はクリスマスイブで恵理とデート。
  なんとなく記憶が曖昧だが問題ない。
  問題は俺が車椅子に乗っていること。
  早い話が恵理に聞くことだが、
  そうすれば雰囲気が悪くなってしまう。
  俺自身元々ボーっとしていた気もするが
  それ以上に記憶が曖昧だと感じる。
  そこで俺は何処に向かって進んでいるのかを恵理に尋ねてみた。
恵理「この通りを抜けた向こうにある丘へ行くんだよ」
  さも当然のように答える恵理。
  どうやら最初からそこへ向かうつもりのようだ。
  前を向いて行く先を見ると、
  暗くはっきりとしないが
  少し高い場所がある。
  そこで流れ星に願いを唱えるらしい。
  そう都合よく流れ星を見れるのかわからないが気分は晴れるだろう。
  そんなことを考えている間に大通りを抜け、
  隙間がない程の人通りも疎らになった。
  記憶が曖昧な部分は後で尋ねることにしよう。
  もしかしたら自力で思い出せるかもしれない。

〇草原の道
  あれから進み続けること数十分。
  街中以上に寒くなり、
  今にも凍り付いてしまいそうだった。
  すると突然頭上から何かが降ってきた。
  カサッ──
  声を上げる余裕もなかったが降ってきたのは最悪のアレ────
  ではなく暖かいカイロだった。
  ────危うく心臓が止まるところだった。
  優しいのか悪戯好きなのかよく分からないが
  恵理はいつになく楽しそうだった。
  その代わりに俺は死にかけたぞ。
  ──────────
  ────────
  ────

〇山の展望台
恵理「お待たせ」
  街を一望できる丘へ辿り着いた。
  恵理に『ありがとう』を伝え
  二人で小さくなった街を眺めた。
  遠く離れた場所からちっぽけな
  街を見下ろすのはなんとなく気持ちがいい
  俺達はこんなに小さな世界で生きているのか。
  ちっぽけな人間がちっぽけな街を見下ろしているのも何だか不思議だ。
恵理「ここで願い事を唱えるの」
恵理「ぼーっとしてたらだめだよ?」
  ここで俺は自分が車椅子に乗っている理由を尋ねた。この疑念が晴れなければ願い事などできない。
  すると恵理の表情はみるみるうちに暗くなっていった。
恵理「やっぱり、覚えてなかったんだね」
恵理「去年の冬にね、トラックに撥ねられたんだ。 その時に頭と両足を強く打ったみたい。 それからずっと車椅子に乗ってる」
恵理「事故に遭った時からこのことは言わないようにしてた。思い出したくないかなって」
  ・・・・・・車椅子に乗って一年?
  一年間の記憶がほとんどない。
  まさかそこまで重症だったなんて──
恵理「だから私は奇跡に縋るの」
恵理「大丈夫。君なら戻れるはずだから、ね?」
  恵理は笑っていた。
  ──戻れる?どういう意味だ?
  事故に遭う前に戻れるとでもいうのか。
  そんな馬鹿な話があるわけ────

〇白
  ──刹那。視界は白で塗りつぶされた。
  まるで落雷のようだ。
恵理「彼が目覚めますように──」
  意識が途切れる寸前に響いた声は、
  恵理の願い事だった────

〇病室のベッド
  ──────
  ────
  ──
  窓から差し込む光が徐々に意識を引き戻す。
  ・・・?
  病室・・・か?
  自分の身体を起こそうとした瞬間。
  全身に激痛が走った。
俺「いっだ・・・・・・」
  辛うじて動く両手で頭に触れると、
  包帯で巻かれていることがわかった。
俺「戻ってきた・・・のか?」
  意識が鮮明になると同時に、両足に力が入らないことを知った。
  確かに頭と両足を怪我しているようだが、
  辺りを見回しても車椅子はなかった。
  すると病室のドアが開き──
俺「え・・・り?」
恵理「良かった・・・ほんとに・・・」
  恵理の顔は、喜びと涙でぐしゃぐしゃになっていた。
  恵理が俺を突き飛ばしそうな勢いで迫ってきたが優しく抱きしめられた。
俺「恵理・・・俺──」
  どうやら俺は事故に遭ってから
  まるまる一週間眠っていたようだ。
  そして今日は12月25日。
  そう──クリスマスだ。
  夢の中の出来事を恵理に話したが、恵理は流れ星を見たことがないという。
  じゃああの夢は何だったのか──
  ──────
  ────
  ──
  それから一年が経った日。
  ちっぽけな二人がちっぽけな街を眺めていた。
  『クリスマスIf~奇跡は夢の中で~』

コメント

  • 主人公が車椅子に乗っていて、それを押してるのが彼女。願い事をするために丘の上に行く。彼女の彼に対する愛情が大変感じられました。お幸せに!

  • 聖夜の願いは叶ったんですね。
    夢の中で願ったことが、現実にシンクロしてて、読んでて夢の中にいるような不思議な気持ちになれました。

  • 主人公さん、素敵なお名前ですね。丘の描写がとりわけきれいでした。願いが叶ったら、あのif世界の恵理さんの優しさはこの世界からは消えてしまうのでしょうか…でも、目が覚めて本当によかったです。改行の仕方が気が利いていて、文章の内容がスッと頭に入りました。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ