先生、死んでる場合じゃありません!

大河内 りさ

P6・担当編集者になります!(脚本)

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大河内 りさ

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〇異世界のオフィス
レイヴィダス「先生、もう一度お願いします」
レイヴィダス「『わたしのアルカディア』の 続きを描いてください!」
クロエ「・・・っ」
レイヴィダス「最新のパソコン、ペンタブ、 ソフトウェアもご用意しました」
レイヴィダス「他に必要な物があれば何なりと──」
クロエ「レイさん」
クロエ「こちらに住まわせていただく以上、働かなくてはならないことは承知しております」
クロエ「宮廷画家として、肖像画や風景画、 衣装デザインなども承りましょう」
クロエ「ですが────」
クロエ「マンガは描きません」
レイヴィダス「何故ですか!?」
クロエ「描かない──ではなく、 描けないと言った方が正しいでしょうね」
レイヴィダス「描けない・・・?」

〇時計
  私は20代で漫画家デビューをしました。
  結婚したのもその頃です。
  有難いことに、お仕事が
  途切れることはなかったけれど──
  30代になってすぐ、
  夫が亡くなってしまった。
  子育てと連載を両立させるのは
  生半可なことではなかったわ。
  それでも必死に奮闘してきたつもり。
  けれど、子供が大きくなって──
  私の手を離れたとき──
  私も、そして世の中も、大きく
  変化していることにふと気が付いた。
  子育てとマンガの執筆だけに
  集中していた私は世の中から──
  世界の動きから取り残されてしまったんだと強く感じたの。

〇異世界のオフィス
レイヴィダス「先生・・・」
クロエ「時流に乗れない、追いつけもしない」
クロエ「そう思ったら、 パチンとスイッチが切れてしまって」
クロエ「何も思い付かなくなってしまったんです」
レイヴィダス「それで休載なさったんですね」
クロエ「本当は連載中止にして 欲しかったのだけれど・・・」
クロエ「榊くんという担当の子が、 打ち切りだけは止めてくれ、と──」
クロエ「ここまで続けてきたのだから、 読者に、物語に責任を持てと言われたわ」
クロエ「作者は物語を完結させる義務がある、と」
クロエ「本当に、その通りだと思う」
クロエ「けれど結局、義務も責任も 果たさないまま死んでしまった・・・」
クロエ「私はダメな漫画家なんですよ」
クロエ「いいえ・・・ 漫画家と名乗るのもおこがましいわね」
レイヴィダス「そんなことはありません!」
クロエ「レイさん?」
レイヴィダス「私が何度、先生のマンガに勇気づけられ、 元気をもらったか──」
レイヴィダス「私が何度、登場人物たちの台詞に感動し、 心を揺さぶられたか──」
クロエ「・・・・・・」
レイヴィダス「その言葉を、物語を紡いできた先生が、 ダメな漫画家なはずありません!!」
レイヴィダス「先生は続きを描くべきです。 そして、物語を完結させるべきです」
レイヴィダス「少しでも後悔があるのなら、そして、 読者に申し訳ないと思っているのなら──」
レイヴィダス「今こそ再び、 ペンを執るべきなのではありませんか?」
レイヴィダス「生まれ変わったあなただからこそ 描ける何かが、きっと────」
レイヴィダス「たっ・・・大変失礼を申しました!!」
レイヴィダス「何も知らぬド素人が生意気なことを──」
クロエ「──レイさん」
レイヴィダス「は、はい」
クロエ「私に、少し時間をください・・・」

〇黒背景

〇城の廊下
リディア「・・・・・・」
レイヴィダス「先生はまだ出ていらっしゃらないのか」
リディア「ええ・・・ もう5日もお部屋にこもりきりで」
リディア「お食事も簡単な物しか召し上がっていないと侍女たちから聞いています」
レイヴィダス「・・・・・・」
リディア「レイヴィダス様。クロエに何か 余計なことは仰っていませんよね?」
レイヴィダス「・・・・・・・・・」
リディア「レイヴィダス様?」
レイヴィダス「仰ったかもしれん・・・」
リディア「何を言いましたの!?」
レイヴィダス「マンガの続きを描くべきだと・・・」
リディア「何ですって!」
リディア「クロエはマンガの執筆を渋っていたのでしょう? どうして追い詰めるようなことを──」
リディア「私だって続きは読みたいしサインも欲しいしなんならシオユリの公式同人誌を作成いただきたいのを我慢しておりましたのに!!」
リディア「今、お部屋の中から 倒れるような音が・・・」
レイヴィダス「先生、失礼いたします!!」

〇異世界のオフィス
「キャーーーーーーッ!?」
「先生!?    /    クロエ!?」
クロエ「うぅん・・・」
クロエ「あら、私・・・」
レイヴィダス「先生、大丈夫ですか!?」
クロエ「レイさん・・・?」
リディア「クロエ、そのダッサい服は いったいどこから・・・」
リディア「いえ、それより いったい何があったのです?」
クロエ「うふふ・・・」
クロエ「実はね、ネームを描いてみたんですよ」
レイヴィダス「それって──」
クロエ「ええ。『わたアル』の続きです」
クロエ「でも、ダメねぇ。こんなに描けなくなっているとは、思いも・・・」
クロエ「・・・・・・」
レイヴィダス「──先生?」
リディア「眠ってしまいましたわ・・・」
レイヴィダス「リディア」
レイヴィダス「私は先生を寝室にお連れする」
レイヴィダス「お前はネームの回収と 部屋の片付けを頼む」
リディア「かしこまりました」
レイヴィダス「・・・私より先に読むなよ?」
リディア「それはお約束できかねますわ」
レイヴィダス「くっ・・・すぐに戻る!!」
リディア「・・・・・・」
リディア「やっと続きが読めるのですね・・・」

〇可愛らしいホテルの一室
クロエ「んんっ・・・」
クロエ「あら、いつの間にお部屋に・・・」
クロエ「どうぞ」
レイヴィダス「失礼いたします」
レイヴィダス「お目覚めでしたか」
レイヴィダス「お加減はいかがですか?」
クロエ「ご心配をおかけして、ごめんなさいね」
クロエ「思いがけず徹夜してしまったものですから、眠たくって・・・」
レイヴィダス「先生」
レイヴィダス「『わたアル』最新話のネームを 拝読させていただきました──」
クロエ「あら、もう読んでしまったの?」
クロエ「思い付きで描いただけのものだから 恥ずかしいわ」
レイヴィダス「先生・・・!」
レイヴィダス「私はこの時をずっと待っておりました」
レイヴィダス「『わたアル』の物語が・・・ アイリの旅が再び始まるこの時を・・・」
レイヴィダス「うぅっ・・・ぐすっ・・・」
クロエ「レイさん!?」
クロエ「あらあら、泣かないで!」
クロエ「・・・・・・」
クロエ「お待たせしてしまってごめんなさい」
クロエ「待っていてくださってありがとう」
レイヴィダス「・・・っ」
クロエ「レイさんが背中を押してくれたから、 続きを描こうと思えたんですよ」
レイヴィダス「私が、ですか・・・?」
クロエ「私のマンガを読んで勇気づけられた、と」
クロエ「心を揺さぶられたと 仰ってくださったでしょう?」
クロエ「その言葉で、 初心を思い出すことができました」
クロエ「私は、私の紡ぐ物語を通じて、読者のみなさんにそれぞれの価値観に基づいた理想郷を──」
クロエ「生き方を見つける道標を 示したかったんです・・・」
レイヴィダス「先生・・・っ!!」
クロエ「あらまぁ。 レイさんは意外と泣き虫さんですね」
レイヴィダス「・・・っ!」
レイヴィダス「泣いてません!」
クロエ「そうですか?」
レイヴィダス「──ところで先生」
クロエ「はい」
レイヴィダス「シオンの一人称は「俺」ではなく「オレ」です。それとユリウスの髪型が直前の回より少し長くなってしまっています。あと──」
クロエ「そんなところまでチェックなさったの!?」
レイヴィダス「先生──」
レイヴィダス「榊くんとやらに替わり、これからは 私が先生の担当編集者になります!!」
クロエ「ええっ!?」

次のエピソード:P7・取材に行きましょう!

コメント

  • 行動そのものが担当編集で笑いました😂
    長編書き続けて終わらせるのって中々のエネルギーですからね…気持ち分かります…世の中の作家、みんな頑張って欲しいです🙏

  • 後ろ姿スチルに感激です。
    欲しいですよねー後ろ姿。
    お話も面白かったです。レイのファンっぷりが凄まじい…。でもそうなるよなーって共感しかなかったです。

  • 今回は、各種クリエイターとそのファンそれぞれの心に刺さる、熱意溢れるお話ですね。リアの欲望まみれの公式同人誌発言も、、、まぁそういったファンの方もいらっしゃるでしょうからww

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