〇渋谷のスクランブル交差点
パレード参加者A「せーの・・・」
「ハッピープライド！」

〇渋谷のスクランブル交差点
リポーター「たった今、プライドパレードが始まりました！」
リポーター「カラフルな衣装を身にまとった人たちが、 渋谷の街を行進していきます」
リポーター「セクシュアル・マイノリティの存在を社会に広め」
リポーター「多様性を祝福するためのこのパレード！」
リポーター「主催者であるirohaさんも、 後ほど登場いたします！」

〇渋谷のスクランブル交差点
水瀬（すごい！）
水瀬（いつもよりも、 いろんな色でいっぱい・・・）
水瀬（目が回りそう）
男性「irohaいつ来るんだろう？」
ロングヘアーの男性？「もっと後じゃないかな？」
ロングヘアーの男性？「私、見るの初めてなんだー。 ドキドキする！」
水瀬（あの髪が長い人・・・）
水瀬（多分そうだよね・・・）
　　人混みの中、堂々と手を繋いでいる
　　２人を眺めながら
　　あたしは、irohaから来たDMを
　　思い返していた。

〇黒
　　今日の渋谷には、アタシや君のような
　　トランスジェンダーもいると思う
　　きっと悩みを打ち明けられる
　　仲間が見つかるよ
　　勇気を出して、一歩踏み出してみて

〇渋谷のスクランブル交差点
水瀬（勇気を出して、か・・・）
水瀬（よし）
水瀬「あの・・・すみませ──」
女性の声「ねえ、あの手を繋いでる２人って」
女性の声「男同士じゃない？」
水瀬「!」
男性の声「あーなんか、これって そういう人のためのイベントらしいよ」
男性の声「ほら、irohaの」
水瀬「・・・・・・」
　　思わず、コートの前をぎゅっと閉じた。
女性の声「じゃあ、あっちにいる人も、 もしかして・・・」
水瀬「・・・・・・」
　　顔を伏せて、見つからないように背を向けた。
　　この場を離れようと、
　　足を踏み出したその瞬間──
佐伯「あの、ちょっといいっすか」
水瀬「──！」
佐伯「お姉さん、これ落としたよ」
　　──どくん、と
　　心臓が音を立てる。
　　うまく、身体が動かない。
水瀬（逃げなきゃ・・・はやく・・・！）
　　どうにかリップクリームを奪い取ると、
　　急いでその場から走り出した。
佐伯「なんだあれ。 落とし物渡したら逃げられたんだけど」
男子生徒「ナンパだと思われたんじゃねーの？」

〇公園通り
水瀬「はぁ・・・はぁ・・・」
水瀬（バレた？）
水瀬（一瞬だったし、大丈夫だよね？）
水瀬（でも、あぁ・・・まさか）
水瀬（クラスメイトに会うなんて・・・！）
irohaの声「Happy pride！」
水瀬「・・・iroha・・・」

〇渋谷のスクランブル交差点
iroha「自分が自分であることに、誇りを持って！」
iroha「今日は楽しもうねー！」

〇公園通り
irohaの声「みんなにとって、 素敵な１日になりますように！」
水瀬「・・・ごめんなさい」

〇黒
　　やっぱり僕は
　　真っ黒な中でしか『あたし』になれない。

〇大きな木のある校舎

〇教室
水瀬真一「これ、もう下描き終わってない？」
村上「まだ」
村上「もう少し、描き込んでおきたい部分があるから」
水瀬真一「ふーん・・・ もう十分に見えるけど」
村上「納得行くまでこだわりたいの」
水瀬真一「・・・これ」
水瀬真一「あげる」
村上「待って、今お金渡すね」
水瀬真一「いいよ、奢り」
村上「・・・ありがとう」
水瀬真一「・・・ねぇ」
村上「なに？」
水瀬真一「どうして、絵を描くのが好きなの？」
村上「どうしてって・・・ 楽しいからだけど」
水瀬真一「まぁ、そうだよね」
村上「・・・でも」
村上「描き始めたきっかけは、 好きな歌手が絵を描いてたから」
村上「私もやってみようかなって」
水瀬真一「へぇ・・・」
村上「それに・・・」
村上「──絵だったら、 好きな色を使っても何も言われないでしょ」
水瀬真一「・・・・・・？」
水瀬真一「それってどういう──」
村上「あ、そういえば！」
村上「下描きが終わったら、 絵の具を買いに行きたいんだけど」
村上「水瀬くん、一緒に来てくれない？」
水瀬真一「え」
村上「先生から預かったお金、 私１人で持つの不安だし・・・」
水瀬真一「それなら、僕が１人で行ってこようか？」
村上「・・・水瀬くんだけに任せるのは、もっと不安」
水瀬真一「失礼だな・・・」
村上「それに、自分の目で見て選びたいの」
水瀬真一「・・・はぁ。 わかったよ」

〇渋谷の雑踏

〇渋谷のスクランブル交差点