藤次さん

市丸あや

藤次さん(脚本)

藤次さん

市丸あや

今すぐ読む

藤次さん
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇広い改札
棗藤次「・・・今日も楽しかったなぁ。 特に映画!あの展開は予想でけへんかったわ」
笠原絢音「ふふっ! 棗さん終始スクリーンに釘付けで、横で見てて、ちょっと可愛かったです」
棗藤次「・・・・・・・・・」
笠原絢音「ど、どうかしました?」
棗藤次「いや・・・ 今日、週末やん? ウチ、来いひん? もう少し、一緒に話したいし、おりたい・・・ それに・・・」
笠原絢音「何言ってるんですかぁ〜 棗さんの家、ウチと逆方向じゃないですか。 寂しいのは分かりますが、明日も会えるじゃないですか!」
棗藤次「い、いや、そうやのうて。 ワシ、お前と・・・」
笠原絢音「あ! もうこんな時間!! タマが待ってる!! じゃあ、失礼します! 棗さん!」
棗藤次「あ・・・」
  ・・・そうして改札の奥に消えて行く小さな背中を見つめながら、藤次はため息をつく。
棗藤次「いつまで続くんやろ。 こんな関係・・・」

〇テーブル席
楢山賢太郎「名前呼び?」
棗藤次「せやねん」
  ある日の、京都地検近くの定食屋。
  奢るから一緒に飯でも食おうと、同期の腐れ縁に連れて来られた賢太郎は、彼から出た言葉に瞬く。
棗藤次「カノジョにどうしたら、名前で呼んでもらえるかなぁて・・・」
楢山賢太郎「なんだお前、特定の女出来たのか?」
棗藤次「あ、やっ、その・・・ せや!友達!! 友達に相談されてん!! せやけど、ワシ色恋話苦手やからお前の意見、聞いてみよかなて」
楢山賢太郎「トモダチ・・・ねぇ・・・」
  ・・・昔から人付き合いの苦手な男が友達など、見え見えのウソだと分かっていたが、敢えて突っ込まず、賢太郎は口を開く。
楢山賢太郎「素直に言えば良いんじゃないか? 名前で呼んで欲しいって」
棗藤次「やっぱり、それが一般論かぁ〜」
楢山賢太郎「それか、「実はずっと○○って呼びたいって思ってたけど、恥ずかしくて。いやかな?」みたいに、相談ぽく言ってみたらどうだ」
棗藤次「うーん・・・」
  カツ丼のカツを箸で突きながら、藤次はポツリと、胸に支えていた思いを吐露する。
棗藤次「・・・もうすぐ丸一年やねん。 付き合うて。 せやのに、未だに触れるキス以上はしてへんし、アイツの家にも、行った事あらへん」
楢山賢太郎「それはまた、女に対して手の早いお前にしては、珍しいな。 丸一年、キス以上無しだなんて・・・」
棗藤次「いや、その・・・ なんちゅうか、嫌われるのが怖いんもあるんえ?そやし、何度か口説いてみたんや。せやけど、みんな躱されて」
楢山賢太郎「それはまた・・・ まあ、お前素人相手の経験値は、童貞みたいなもんだからな〜」
棗藤次「やっ!やから「友達」の話やて!!」
楢山賢太郎「分かった分かった。 まあ、そうだな・・・ そろそろ暖かくなって来たし、鴨川べりとかどうだ?」
棗藤次「へっ?!」
楢山賢太郎「川縁に寄り添って座ってれば、周りの雰囲気も手伝って、気分も盛り上がるんじゃないか?」
棗藤次「そ、そんなベタな・・・中坊みたいなやり方で、心・・・開いてくれるやろか?」
  不安げな顔をし自分に問いかける藤次に、賢太郎は机の伝票を取り、席を立つ。
楢山賢太郎「一番効果的だから、ベタって言うんだよ。 「トモダチ」に、よろしくな」

〇土手
棗藤次「今日もめっちゃ楽しかった! あないな専門書がぎょうさんある店知っとるなんて、さすが本のプロ!!」
笠原絢音「そ、そんな・・・ お役に立てて嬉しいです! 棗さん」
棗藤次「・・・・・・・・・」
笠原絢音「棗さん?」
棗藤次「いや・・・ 歩きすぎて、少し疲れたわ。  川縁座って・・・休まへん?」
笠原絢音「あ、は、はい・・・」
棗藤次「ん。 ほんならこっち、来て」
  ・・・そうして、藤次は絢音の手を引いて、周りのカップル達と同じく、等間隔と言う不文律に則り、鴨川の縁に腰を下ろす。
棗藤次「寒ない?」
笠原絢音「あ、ハイ・・・ 大丈夫です・・・」
棗藤次「うん・・・」
  頷き、彼女のか細い肩を抱き、グッと自分の方に引き寄せる。
  絢音から香る・・・甘い甘い、白梅の香り。
  長い睫毛、白い肌、大きな瞳に、薄紅色の唇。服に隠れた、円やかな曲線の身体・・・
  もっともっと、彼女を知りたい。愛したい。
  
  この、近いようで遠い距離を、もっと縮めたい。
  その為には、言わなきゃいけない。
  名前で呼んで欲しい・・・と。
  けど、高鳴る胸の鼓動が邪魔をして、上手く言葉が出なくて、黙って川のせせらぎを聞いていたら、絢音が徐に口を開く。
笠原絢音「・・・京都に来て、鴨川で好きな人とこうするの、夢だったんです。 だから今、凄く幸せです」
棗藤次「えっ・・・」
  今、確かに言ってくれた。
  滅多に気持ちを口にしなかった絢音から、好き。と・・・
棗藤次「ほ・・・」
笠原絢音「はい?」
棗藤次「ほんならなんで、いつまでも出会った頃のままやねん。 なんでもっと気安く・・・例えば、名前で呼んでくれへんの?」
笠原絢音「だっ、だって棗さん、5つも年上じゃないですか! それに、お仕事も立派だし・・・私なんかとじゃ・・・」
棗藤次「なんかなんて言うな!! お前は、俺の女神や! 大事な大事な、女や!! ええ加減、自分を卑下するんは止め!!」
笠原絢音「・・・・・・っ!!」
  ザワッと、周りのカップル達が瞬いたので、藤次はハッと我に返り絢音を見ると、暗がりに浮かぶ、一筋の涙・・・
棗藤次「ご、ごめん!! ワシ・・・泣かせるつもりやなかったんや! そやし」
笠原絢音「違う!!」
棗藤次「えっ?!」
笠原絢音「違うの・・・ 私、怖かった。 棗さんみたいな素敵な人が、私なんか相手にするわけない。遊ばれてるんだって、思って、だけど」
棗藤次「絢音・・・」
笠原絢音「好き。 好きなんです。 ・・・・・・・・・「藤次さん」」
棗藤次「・・・・・・・・・っ!!!!」
  キュッと、藤次は絢音を強く抱きしめてキスをする。
  最初はいつもの、触れるだけ。
  角度を変えて、何度も、何度も口付ける。
  すると、ぶら下がっていた絢音の腕が自分の背に回され、さらに強く身体は密着し、藤次は決意したように、彼女の唇を舌でなぞる
笠原絢音「と・・・・・・んっ!!」
  開かれた小さな口内に舌を滑り込ませ、戸惑う絢音の舌を絡め取り吸い上げ突いて、ただただ、深く、深く、キスを交わす。
棗藤次「絢音・・・」
笠原絢音「藤次さん・・・」
  ・・・もう、言葉はいらなかった。
  立ち上がり、身を寄せ合って、同じ家へと帰って行く2人・・・

〇広い玄関(絵画無し)
棗藤次「・・・怖いか?」
笠原絢音「少しだけ・・・」
  玄関の閉まる音に慄き、カタカタと震えながらも笑っている彼女が愛しくて、藤次は格子に手を掛け、またキスをする。
棗藤次「・・・優しいする。 せやから、来てくれるな?」
笠原絢音「うん・・・」
  そうして絢音が首に手を回して来たので、藤次は彼女を抱き上げて、2階の寝室へ向かう。

〇本棚のある部屋
棗藤次「好きや・・・ 愛してる・・・」
笠原絢音「ホントに?」
棗藤次「ああ・・・ もう、お前しか見えてへん。 俺の身体も心も、お前のもんや」
笠原絢音「嬉しい・・・」
  破顔する絢音の頭の後ろに手を回し、藤次は髪を纏めていた飾りを解き、露わになった彼女の長い黒髪に口付ける。
笠原絢音「藤次さん・・・」
棗藤次「もっとや・・・もっと呼んで。 藤次て。 もっと、もっと、甘い声で・・・俺を呼んでくれ」
  そうしてベッドの上で折り重なり、藤次は一思いに絢音の服に手を掛け脱がし、自分も脱ぎ捨てる。
棗藤次「ああ・・・ 可愛え、可愛え・・・ もう、我慢できん・・・・・・っ!!」
笠原絢音「あっ!やっ! 藤次さんだめっ!! そんなとこっ!! あっ!!」
  愛撫もそこそこ。
  脚を割り開き、露わになった絢音の秘所にむしゃぶりつき、とめどなく溢れてくる蜜を舐め取り吸い上げ、2人の興奮は増して行く
笠原絢音「ああ・・・ああ・・・ 藤次さん・・・藤次さん・・・」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

コメント

  • 付き合って一年も経っているということに驚きました。本当に好きな人に出会ったとき、中学生のような気持ちに戻ってしまうのはわかる気がする。毎回のことながら、藤次にとってこれがどれほど大事な恋愛なのか痛感させられます。

  • 2人が結びつくまでに!こんな経緯があったんですね・・。好きで好きでたまらない人との始めての夜って、どれだけ幸せだっただろうと自身の事を思い出しています。

成分キーワード

ページTOPへ