桜色の想い出

七四雪

読切(脚本)

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〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
誠「みきー、そっち片付いた?」
みき「もうちょっとー」
誠「やばいな、そろそろ引っ越し業者来ちゃうぞ」
みき「だからもっと早く始めようって言ったのに~」
誠「仕方ないだろー、中々有給取れなかったんだからさぁ」
みき「だからさ、休みの日に纏めてやるんじゃなくて、もっと前から少しずつ・・・」
みき「あ」
誠「ん?どした?」
みき「これ・・・」
誠「リップ?」
みき「うん。昔のやつ」
誠「へぇ、でも綺麗じゃん。まだ使えるかもよ?」
みき「そう、だね・・・」
みき(あの時の・・・)
みき(私、返してなかったんだ)

〇黒
  数年前―――

〇学校の校舎

〇教室
舞衣「みき」
みき(中学時代)「え?」
  胸がどきんとした。
  最近、舞衣に名前を呼ばれると私はこんな風に緊張してしまう。
舞衣「唇カサカサだよ」
舞衣「私のリップ、貸してあげる」
  差し出されたリップを受け取るべきか否か一瞬迷ってから、私は手を伸ばした。
  できるだけ、なるべく、自然に見えるように。
みき(中学時代)「うん、ありがと」
舞衣「返すのいつでもいいよ。もう一つ同じの持ってるから」
  舞衣が笑いながらポケットからもう一つのリップクリームを取り出した。
  お揃いだ。
  舞衣と、お揃いの、唇。
  私は手の中に納まったそれをこっそり握り締めた。
  プラスチックの固い感触が熱を帯びる。
みき(中学時代)「ありがと、助かる」
  舞衣の笑顔が、傷口に染み込むように胸に痛かった。

〇学校の廊下
  舞衣とは、いつも一緒にいた。
  お昼休みも、部活も、放課後も、休みの日も、いつもいつも私たちは一緒だった。
  小学校時代の友達全員とクラスが離れてしまった私に、最初に話しかけてくれたのが舞衣だった。
  誰よりも近くにいて、誰よりも好きだった、私の親友。

〇学校の校舎

〇学校の廊下
舞衣「もうすぐ卒業だね」
みき(中学時代)「うん」
舞衣「高校、別々になっちゃうけど・・・ずっと友達でいようね」
みき(中学時代)「うん」

〇学園内のベンチ
  指切りをした。
  本当は、ずっと離れたくなかった。
  最初の一年くらいは、メールのやり取りもしていたと思う。
  だけどいつの間にか、何となく連絡するのが躊躇われて、気付けば疎遠になってしまっていた。
  あれから、もう何年だろう。

〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
誠「みき、あと30分くらいで業者さん来るってさ」
「そっか」
誠「あれ?」
誠「そのリップ、使えたんだ?」
みき「うん」
誠「いい色じゃん。似合うよ」
みき「ありがと」

〇古いアパート
誠「そんじゃ行くか!俺たちの新たなる愛の巣に!」
みき「ぷっ」
みき「止めてよ、愛の巣とか。恥ずかしいなぁ」
誠「えーいいだろー?」
  彼が笑う。
  舞衣とは違う、明るくて太陽みたいな笑顔。
  私はこの先、この人とずっと一緒にいるんだろう。

〇古いアパート
  それでも。
  指先が固い感触に触れる度、胸の奥がチクリと痛む。
  多分これは、一生彼に話せない。
  私だけの・・・・・・秘密。
  END

コメント

  • リップクリームというアイテムがとても活かされていて素敵なお話でした!!「お揃いの、唇」、最高のワードですね…!挿絵のみきちゃんの表情にもすごくドキッとしてしまいました。いつか舞衣ちゃんと再会してほしい気もします。誠くんには申し訳ないですが(笑)

  • 友情なのか恋心なのか、どちらとも呼べないような淡い気持ちを象徴するアイテムがリップというのは、作者さんのセンスが炸裂しましたね。湿っぽさが皆無の誠も対照的でいい感じでした。

  • 嗚呼……❤❤❤ 上質な百合成分を補給させて頂きました😇 リアリティのある切なさ、淡い感じがとても良かったです。

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