読切(脚本)
〇本棚のある部屋
ひろゆき「ふぅ、荷造り終了。 あとは──・・・」
〇綺麗な図書館
ひろゆき(ああ、やっぱりココが一番落ち着くな)
定期テストの時も、大学受験の時も、
友達や親とケンカしてムシャクシャした時も、
なんでもない時も。
つまりいつも来ていた町の図書館。
けっこうな思い出がつまっている。
ひろゆき(編入する大学の姉妹校、一都一県またぐから、もぅココにはあまり来れないかもなぁ)
ひろゆき(いやもしかして、あっちで就職なんてしたら、もう、二度と来ないのかも・・・?!)
いつもの軽い気持ちで来のに、急にドキドキしてきた。
さみしさ、とは少し違う・・・?!
ひろゆき(なんだこの気持ちは。・・・・・あ)
〇綺麗な図書館
ーーー高校2年生の7月
テスト勉強に飽きて小説が読みたくなり、棚から1冊の本を選んで開くと、
思いもよらず冒頭から読み入った。
目が離せないまま壁際のイスまで行き、座ろうとすると・・・
ドンッ
高2ひろゆき「わっ」
あの子「きゃ」
衝撃が走り、一瞬何が起きたか分からなかった。
高2ひろゆき「すっすみません!」
あの子「あっ・・・す、すみません・・・」
同じようによろめいた彼女の手には、
なんということでしょう
同じタイトルの本が。
顔を見て、さらに驚いた。
高2ひろゆき(えっ・・・! あ、あ、)
その子は、ずっと前から知っている、
いや、一方的にだが、
決してストーカーではないのだが
密かに僕が想いを寄せている子だった。
図書館でだけ会える、
TSKアイドル。
その時の僕の脳は、一生分の働きをしたかも知れない。
高2ひろゆき「あ、あ、あの!」
高2ひろゆき「明日の放課後もココに来ますか!?」
脳が一生分の働きをした結果のセリフ。
彼女は驚いたようにも、
怯えたようにも見えた。
一瞬の出来事だが、僕のセリフと同じくらいに彼女は体勢を立て直し、こちらを見て、
そして急いで去って行った。
僕の初恋が
去って行った瞬間だった。
〇綺麗な図書館
ひろゆき(そんなこともあったな・・・)
あのタイトルの小説は、棚に無かった。
あの時と同じイスには、ダンディな初老の男性が座っている。
ひろゆき(『人生は小説より奇なり』って映画があったけど、僕の人生はびっくりするほど平凡だな)
ひろゆき(あの子とぶつかれた事が、今後の人生の中でもきっと最大のイベントだったに違いない・・・)
図書館の中で聖地巡礼のごとく、よく立ち止まっていた棚を見て回った。
文学、歴史、写真、図鑑、そして名作マンガコーナー。
僕は好奇心が強い方ではないが、勉強しないといけない状況になると、何故か本への興味がわいてくる。
図書館あるある。
思い思いに棚の本を見ていたら、いつの間にか夕方に。
これも図書館あるある。
〇綺麗な図書館
ひろゆき(ふぅ、この読みかけ名作マンガも、これっきりになるのか?!)
そう思うと、また例のさみしさとは少し違った気持ちが。
ひろゆき(これは・・・失恋の痛みだったのか)
ひろゆき(あの子、今、どうしてんだろ・・・)
そろそろ図書館を出ようと、出入り口付近の図書カウンターに目をやった。
大まじめに見事なほどの、二度見をした。
あの子が、いる。
ひろゆき(え・・・あれ、あの子だよな?! あ・・・あれ?こっち見てる?!)
開いた口がふさがらないまま、僕の脳はフル稼働していた。来世分の働きをしたかもしれない。
ストーカーと思われるかも、という不安より勝った衝動。
目を合わせたままカウンターへ
早足になっていた。
カウンターに着くと──
あの子「あ、あの! 明日の夕方もココに来ますか?」
彼女の方からだった。
ひろゆき「はい! あ、いいえ! 明日、引っ越しますので」
彼女は驚いたようだったが、かまわず続けた。
ひろゆき「あの、探している小説があって。 青い表紙の・・・」
あの子「・・・はい、あの小説ですね。 ご案内します」
小説のタイトルを言っていないが、彼女に伝わったのだろうか。
あの小説は、以前とは違う棚に移動していた。
あの子「・・・お探しの本は、こちらでしょうか? それと、あの・・・」
〇中央図書館
僕たちは話をした。
あの小説の感想。今まで読んできた本のこと。
初めて話したとは思えないほどに話し込んだ。
まるで今まで読んできた本たちは、この時のためであったかのように。
高2の7月、彼女は家の都合で引っ越し、図書館に来られなくなったこと。
彼女も僕を図書館でずっと見ていて知っていたことも、教えてくれた。
あの子「私、この図書館がどうしても好きで。 大学生になったらココでバイトすることが目標だったんです」
ひろゆき「なんかそれ、分かります。居心地が良いですよね、ココ」
ひろゆき「・・・せっかく話せるようになったのが引っ越しの前日なんて、小説みたいです」
あの子「本当ですね」
悲しい小説で終わらせるな!
と、来世分の働きを終えた脳が警鐘を鳴らしている
ひろゆき「・・・あの、オススメの図書館が東京にもありまして・・・」
あの子「はい」
ひろゆき「こんど・・・ 一緒に行ってみませんか?」
あの子「・・・ぜひ」
いつもは落ち着くはずの図書館だが、
これからはドキドキする場所になりそうだ。
図書館での恋…キュンキュンします!
告白した時は残念でしたが、再び出会えるのって運命だなぁって思います。
これから始まっていく恋を応援したくなります。
図書館で出会って図書館で始まる恋、なんだか素敵でこういうシチュエーション憧れます。お互いにずっと両想いだったんですね。読んでいて、未来が楽しみに思えてくるような、期待感とドキドキ、きゅんきゅんできるお話でした♪
片思いの子と図書館、とても胸キュンです。時がタイムスリップした気がしました、読みながら「うんうん」と首を振りながら読ませて頂きました、楽しかったです。