第九話(脚本)
〇古風な和室(小物無し)
タケハ「・・・・・」
ヒルコ「タケハ、また漫画読んでる」
タケハ「あっ、ヒルコ姉ちゃん、 学校から帰ってきたら暇なんだよ。 姉ちゃんも読んでみてよ、 面白さがわかるからさ」
ヒルコ「したい事とかないの? 大学の受験にも全部おちたんでしょ。 どうするのよ」
タケハ「えーーーー、 どうしようかなー。 働いてもいいけど、ここを離れたくないから神社でも継ごうかなー」
ヒルコ「もぉ、ダメよ。 ここは私が大学を卒業したらここを継ぐんだから、タケハは好きなことを見つけて、全力で自分の人生を生きて」
タケハ「じゃあ、姉ちゃんの手伝いをする」
ヒルコ「そう・・なの?」
ヒルコ「・・ダメよ。 あなたもツクヨミ兄さんのように 家を出ていくの。 それが幸せなのよ」
ヒルコ「・・・あっ、そうだ。 今からお父さんとドライブに行くから お留守番をしていてね」
ヒルコ「あと二時間くらいだけど 社務所に居てちょうだいね」
タケハ「どこに行くの?」
ヒルコ「さぁ、 よく聞いてないけど、 連れて行きたいところがあるんだって」
ヒルコ「行ってくるわね」
タケハ「行ってらっしゃーい」
タケハ「・・・さてと、社務所に行っておくか」
タケハ「・・父さん、 ・・どうしたの?」
イザナギ「うむ・・・」
イザナギ「今から、ヒルコを病院に連れていく。 理由は帰ってから話す。 では、行ってくる」
タケハ「えっ、 ヒルコ姉ちゃんは そんなこと言ってなかったよ」
イザナギ「・・うむ、 そのことも、あとで話す」
タケハ「ちょっと待って・・・」
タケハ「姉ちゃんの病気なんて聞いたことないのに・・」
〇古びた神社
タケハ「僕は家の前まで追いかけたけど、 もう車は走り去っていた」
タケハ「そして、二人を乗せた車は 山道を登る途中のガードレールを突き抜けて、崖の下に落ちてしまった」
タケハ「山の上には病院があって、 その病院に行く途中で運転を誤って崖から落下したというのが警察の見解だった」
タケハ「山の上にあった病院は精神病院だった。 お父さんはどういうつもりで、 姉ちゃんを連れて行こうとしたのか」
タケハ「いまだにそれがわからないんだ」
コマ「そうでしたか・・」
タケハ「ところで、 父さんが修行に行った神社ってどこにあるの?」
コマ「はい、 東北の山奥にあるところです」
タケハ「ゲッ、ここよりも寒いってこと?」
コマ「はい、今の時期は積雪が一メートルほどになって、神社やその近所の雪かきが一番大変だったとお父様から聞いたことがあります」
タケハ「・・・やめようかな・・」
コマ「ダメですよ。 淡雪さんにもお札作りを 宣言したばかりじゃないですか」
タケハ「う、うぅ」
コマ「それでは、年賀状の中に その神社からのものが含まれていますので、それを見つけて連絡しましょう」
タケハ「行かなきゃダメかな」
コマ「出せる力は出すと 言ったばかりですよ」
〇都会のカフェ
ツクヨミ「いやぁ、余裕だったな」
淡雪「そうですね。 まさか両想いだとは思いませんでした」
ツクヨミ「密着するように尾行してたら 急にあの女の子立ち止まって、」
ツクヨミ「そしたら、クレープを食べていた淡雪がそれに気づかなくてぶつかって・・」
淡雪「教えてくださいよ。 ぶつかりそうなら、声をかけるべきです」
ツクヨミ「尾行してたんだから しょうがないでしょ」
ツクヨミ「でもそのおかげで、 女の子は好きな男の子の前に突き飛ばされて・・」
淡雪「あぁ、 二人が見つめあった時間、あれは甘酸っぱい瞬間でしたね~」
ツクヨミ「淡雪にもそんな甘酸っぱい思い出があったのかよ」
淡雪「ありますよ。 ありますとも。 中学の時には、そんなこともありました」
ツクヨミ「でもー、 その恋はー、」
淡雪「成功しましたよ」
ツクヨミ「うわっ、面白くない」
淡雪「でも、 私があんまりしつこく付きまとったので、 離れて行ってしまいましたけど」
ツクヨミ「・・なんか淡々としているイメージだったのに、なんか違うな」
淡雪「はい、それからすぐに両親が次々と亡くなってしまって、」
淡雪「好きで、近づきすぎたら 離れていくことがわかって、 それからは近づきすぎないことにしました」
ツクヨミ「・・へ、へぇ、 それは淡々と言わないほうがいいよ」
ツクヨミ「・・・・・」
ツクヨミ「・・どう、モンブラン美味しいだろ?」
淡雪「はい、 私の食べたモンブランの中でも 一、二を争う美味しさです」
ツクヨミ「それは良かった」
ツクヨミ「・・あの簡単な働きには見合ってないような 高級ランチとモンブランだけどな」
淡雪「いえいえ、そんなことはありません」
淡雪「私がぶつからなければ、今頃ツクヨミさんは泣きべそをかいて、彼女の家を見張っていたはずです」
ツクヨミ「そんなこと・・・」
ツクヨミ「・・まあ、一理あるか」
コマ「お取込み中のところ 申し訳ありません」
ツクヨミ「うわっ、 おまえ、心臓に悪いって 登場の仕方、考えてくれよ」
コマ「これからは気を付けます。 しかし今日は急用ですからお許しください」
淡雪「コマさん、どうしたんですか?」
コマ「実は、タケハ様が近々、 東北に修行をしに行くことになりました」
ツクヨミ「東北? 何の用で」
コマ「お札を自分の手で作るためです。 あの神社で使えるお札は少なくなっていて、」
コマ「お札はそこの神主しか 作ることができません」
コマ「ですから、お父様も修行した神社に修行に行くのです」
ツクヨミ「はぁ、なるほどねぇ」
ツクヨミ「わかった。 がんばってこいと伝えてくれ」
コマ「いやいや、違うのです」
コマ「タケハ様がいないと 神社が空き家になってしまいます」
ツクヨミ「おぅ、忘れてた」
コマ「何か霊に神社が襲われても 成す術がありません」
ツクヨミ「いや、コマがいれば なんとかいけるだろ」
コマ「いえ、昨日も一人では太刀打ちできず、 淡雪さんの力を借りて、ようやく霊を倒すことができました」
ツクヨミ「本当かよ・・」
淡雪「私だって、やるときはやりますよ」
淡雪「でも、ずっとあの神社にいることはできません。会社員ですから」
コマ「というわけで、 ツクヨミ様に長期休暇を取ってほしいのです」
ツクヨミ「いきなりの長期休暇? ムリじゃない?」
コマ「一大事なのでお願いします」
ツクヨミ「そういわれても・・・」
淡雪「結婚することにしたらどうですか?」
ツクヨミ「えっ?」
淡雪「いろいろな準備で 長期休暇が必要だと言えば」
ツクヨミ「相手もいないのに? それに最終的に嘘だってバレるわけだろ?」
淡雪「相手がいないのなら 私の名前を出したらいいですよ」
淡雪「名前くらいは貸しますよ」
淡雪「それに・・・」
ツクヨミ「・・・・それに?」
淡雪「最近のバツイチは珍しくないですよ」
ツクヨミ「そういう意味じゃないよね。 バツの付き方に問題があるよね」
コマ「では、その案で会社に長期休暇を提案してみてください。 もし、できない時はまた考えましょう」
ツクヨミ「・・・おまえも乗っかるんだな・・」
コマ「では、そのように タケハ様には伝えておきますので よろしくお願いします」
「では」
ツクヨミ「・・・結婚で長期休暇か~」
ツクヨミ「もし、新婚旅行に行くとしたら どこに行きたい?」
淡雪「ん~、 ベルギーとかスイスに行って ご飯なんか食べずにチョコばかり食べたいですね~」
ツクヨミ「・・・別行動、確定だな」