読切(脚本)
〇高層マンションの一室
タイラ「今、なんて?」
セイ「だから、お袋が名前付けるって」
タイラ「・・・誰の?」
セイ「だ・か・ら。 俺たちのベイビーにさ!」
タイラ(妊娠の辛い時期にセイの家は・・・)
タイラ「嫌よ」
セイ「えっ?」
タイラ「絶対に嫌」
セイ「ど、どうして?」
タイラ「私がお腹を痛めて産む子よ?」
セイ「それなら、無痛分娩に・・・」
タイラ(この人は・・・)
タイラ「ねぇ、この子を育てるのは私たちなの」
セイ「もちろんさ。 でも・・・」
タイラ「『でも』はない話。 私たちの子よ」
タイラ「養母さんの子じゃないわ」
セイ「そんな、冷たい言い方しなくても・・・」
タイラ「私だって好きで こんなことを言ってないわ」
タイラ(セイの家が無神経過ぎるのよ)
セイ「タイラ。 実は・・・」
セイ「お袋、もうそんなに長くないんだ」
タイラ「そう・・・。 それは、悲しいわね」
セイ「だろ?」
セイ「やっぱ、瀬戸際って 何か残したいって思うだろ?」
タイラ「それとこれとは・・・」
セイ「なあ、頼むよタイラ〜」
セイ「この家だって 親父たちが一生懸命働いた金で 買ってくれた家だし」
タイラ「ええ」
タイラ(でも、豪遊もして、 借金もたくさん残しそうだけれど)
セイ「もう名前も決めてるんだってさ」
タイラ「は?」
セイ「待て待て。 タイラの言いたいことは十分に分かる」
セイ「お袋も俺の名前の時、 爺ちゃんたちに命名させて貰えなくて 悔しかったんだって」
セイ「だから、孫ができて他の誰よりも 喜んでるのがお袋なんだよ」
セイ「なっ?分かってやろうぜ?」
タイラ(1番楽しみにしているのは、 私・・・『たち』じゃないの? セイ?)
セイ「おっ、感動してくれたか?」
セイ「名前はなんと・・・」
セイ「ワレイだ!」
タイラ「ワレイって・・・」
セイ「そう、親父のワショウから一字貰ったんだ」
タイラ(・・・気持ち悪い)
セイ「親父みたいな活気ある奴に育つぞー、 きっと!」
タイラ「ねぇ、百歩譲って・・・」
タイラ(譲りたくないけれど)
タイラ「セイもその名前を決める時、 一緒に考えたの?」
タイラ(もし。 父親になるセイが 養父を尊敬して決めたのなら、私は──)
セイ「いや。 お袋たちだけで選んだよ」
セイ「お前らじゃ変な名前にするから、 私たち有識者に任せなさいって」
タイラ(有識者が自分たちの名前を使うの?)
タイラ「ねぇ、さっきも言ったけど、 老い先短いお婆ちゃんより セイの方が長く一緒にいるんだよ?」
セイ「うわっ」
セイ「またひどい言い方!」
タイラ「ねぇ、お願いだから・・・」
タイラ(この子の父親としての自覚を──)
セイ「そんなんだから親戚から『嫌な女』って 言われるんだぞ!」
タイラ「っ」
セイ「あれも嫌、これも嫌っ!! タイラはいやいや言い過ぎ! そんなんじゃ、社会で生きていけないよ!?」
タイラ「そう・・・分かったわ。 諦める」
セイ「良かった。じゃあ、ワレイで──」
タイラ「そっちじゃないわ! アナタたちとの関係よ!!」
タイラ「さようなら」
セイ「待って。 ワレイの子の時に命名すれば──」
タイラ「嫌よ」
タイラ「だってそれは」
タイラ「この子の務めであり 権利だもの」
バタン
嫌なのは
誰がいけない?
完
自分は男性ですがこの夫、いろんな意味で完全アウトです😆
親孝行は大切ですけども、最も優先すべきは自分の家族ですよねぇ
なるほど〜!
ウチも似たような家の伝統とやらで(本家長男のヨメなので)息子の名前を決めた経緯があったので、タイラの気持ちが良く分かります。私も名前の全部を決められていたら離婚していただろうな〜。
義弟夫婦たちが子供に流行りの名前を付けていた時には、旦那にガチ切れしましたけどね😅
周りではあまり聞かないですが、でもこれ、結構あるあるだと思うんですよね。
何でもかんでも祖父母が決めちゃうって。
旦那が味方してくれればいいけど、旦那まで言いなりはもうアウトですね😂
別れて正解です、タイラさん。