第8話 太陽の影(脚本)
〇川に架かる橋
勇者マリー「伊達・・・!」
伊達大智「・・・ああ オタクの松本か」
伊達大智「ここ何日か 舞花と連絡取れないんだよな」
伊達大智「おまえ、なにか知ってる?」
伊達大智「前は連絡すればすぐ来たのにさ・・・」
伊達大智「てめえ! なにすんだよ!」
勇者マリー「いいかげんにしろよ!」
勇者マリー「こんなことになったのも 全部おまえのせいだ!」
第二王子クレール「マリー! よせ!」
〇王妃謁見の間
「ミシェル様、俺たちを集めて なにをするつもりなんだ?」
「殿下や勇者様は一緒じゃないのかな」
第一王子ミシェル「リュテスの兵士諸君!」
第一王子ミシェル「・・・・・・」
第一王子ミシェル(あ、ああ・・・ みんなの視線がこんなにも・・・)
第一王子ミシェル(逃げたい・・・!)
宮廷魔導師リゼット(ミシェル・・・)
「だいじょうぶなのか、あれ?」
「夜明けには出撃なんだ 余計なことで時間使わせないでほしいよな」
第一王子ミシェル(・・・だけど!)
第一王子ミシェル(ここで逃げ出せば 今までの僕と同じだ!)
第一王子ミシェル「・・・リュテスの兵士諸君! どうか聞いてほしい!」
第一王子ミシェル「殿下と勇者様が行方不明になりました」
「え・・・!?」
第一王子ミシェル「おそらく・・・帝国のしわざです」
第一王子ミシェル「殿下と勇者様が不在である以上 このたびの戦いはわたしが指揮を執ります」
「本当に帝国のしわざなのか?」
「ミシェル様が仕組んだことだったりして」
「殿下がいなくなれば 自分が王になれるもんな」
宮廷魔導師リゼット「無礼な・・・!」
騎士団長ヴァレリー「リゼット殿!」
騎士団長ヴァレリー「・・・ここは静観しましょう」
宮廷魔導師リゼット「しかし・・・」
騎士団長ヴァレリー「きっとミシェル様ならだいじょうぶ」
騎士団長ヴァレリー「勇者殿と出会って あの方は変わりました」
騎士団長ヴァレリー「それはリゼット殿が 一番ご存じでしょう」
宮廷魔導師リゼット「・・・・・・」
〇森の中
皇帝トビアス「今日はここで野営としよう」
巫女マイカ「・・・・・・」
皇帝トビアス「マイカ? どうした?」
巫女マイカ「今日は・・・ 月が出ていないな」
皇帝トビアス「そうだな」
皇帝トビアス「雲の流れを見るに リュテスでは雨だろう」
皇帝トビアス「我々にとっては不利かもしれんな」
巫女マイカ「・・・月は、恐ろしい」
皇帝トビアス「夜が怖いということか?」
皇帝トビアス「案外、年相応なところもあるのだな」
巫女マイカ「違う」
巫女マイカ「夜の闇を払う月の光・・・」
巫女マイカ「美しく優しいあの光が ・・・わたしは恐ろしい」
巫女マイカ「罪を・・・自分の醜さを・・・ 照らされるようで・・・」
皇帝トビアス「・・・マイカ?」
〇警察署の入口
勇者マリー「王子・・・ 付き合わせちゃってすみません」
第二王子クレール「まったくだ」
第二王子クレール「それにしても あの者は何者なのだ」
第二王子クレール「ミシェル殿にそっくりだったが」
勇者マリー「似てるのは見た目だけでしょ」
勇者マリー「中身はぜんっぜん! 違いますから!」
第二王子クレール「・・・ほう?」
勇者マリー「そ、それより」
勇者マリー「伊達のところにもいないなんて 舞花、どこにいるんだろ」
第二王子クレール「・・・マリー 唇の横が切れてるぞ」
勇者マリー「ああ・・・ 殴り返された傷ですかね?」
第二王子クレール「今、治療を・・・」
第二王子クレール「・・・魔法が発動しない?」
勇者マリー「この世界には精霊がいないから 魔法は使えないかも」
勇者マリー「ほら、魔法って 精霊の力を借りて使うんですよね」
勇者マリー「・・・ってユーグさんが」
第二王子クレール「ユーグか・・・」
第二王子クレール「リュテスへ戻ったら ユーグを処罰しなければ」
第二王子クレール「勝手に勇者を送還するなど なにを考えているのだ」
勇者マリー「それより帝国をどうにかしないと」
勇者マリー「ユーグさんのことは そのあとでいいんじゃないですか?」
第二王子クレール「・・・そうだな」
勇者マリー「この時間じゃ図書館も本屋も閉まってるし 今日はもう帰りましょうか」
第二王子クレール「ああ・・・」
第二王子クレール「この辺りに宿泊施設はあるか?」
勇者マリー「なんで? うちに泊まってけばいいのに」
第二王子クレール「は・・・!?」
〇王妃謁見の間
第一王子ミシェル「・・・・・・」
第一王子ミシェル「みんながわたしを信用できないのも 無理はない」
第一王子ミシェル「わたしはこれまで 多くのことから逃げてきた」
第一王子ミシェル「弟のクレール殿下、従妹のリゼット そして勇者マリー様・・・」
第一王子ミシェル「わたしには彼らのような強さはない」
第一王子ミシェル「庶子だから・・・ 母が異国の出身だから・・・」
第一王子ミシェル「そう言い訳をして・・・」
第一王子ミシェル「力と勇気を持つ彼らの背に 隠れ続けてきました」
第一王子ミシェル「・・・だけど・・・ 逃げるのはもう終わりにしたい」
第一王子ミシェル「弟と勇者様が戻ってきたとき 胸を張れる自分でいたい」
第一王子ミシェル「大切な人を取り戻すため 愛するリュテスを守るため」
第一王子ミシェル「どうか・・・ みんなの力を貸してほしい!」
「・・・・・・」
第一王子ミシェル(やはり・・・ダメなのか 僕では・・・)
宮廷魔導師リゼット「あ、あの・・・!」
騎士団長ヴァレリー「――王子殿下万歳!」
宮廷魔導師リゼット「は・・・」
第一王子ミシェル「ヴァレリー・・・?」
〇森の中
巫女マイカ「トビアス・・・」
巫女マイカ「おまえ、恋をしたことはあるか」
皇帝トビアス「なんだ、急に?」
巫女マイカ「ないのか?」
皇帝トビアス「貧民街で生まれ育ったオレに そんな暇があるわけないだろう」
巫女マイカ「皇子がなぜ貧民街出身なのだ?」
皇帝トビアス「オレは先帝の庶子だ」
皇帝トビアス「酒に酔って手をつけた下女の子 ・・・それがオレだ」
巫女マイカ「・・・・・・」
皇帝トビアス「欲深い先帝は飢える民から 多くのものを搾取した」
皇帝トビアス「失意の中で死んでいく民・・・ それに反してきらびやかな皇宮・・・」
皇帝トビアス「帝国の現状を変えたくて オレは先帝と皇太子を殺した」
皇帝トビアス「オレと同じ庶子もみんな殺した ・・・自分が皇帝になるために」
皇帝トビアス「恋だの愛だのと浮かれることは オレには許されない」
皇帝トビアス「なんとしてでも帝国を救う」
皇帝トビアス「オレが犠牲にした者たちへの ・・・せめてもの償いだ」
巫女マイカ「・・・そうか それは悪いことを聞いたな」
皇帝トビアス「気にすることはない」
皇帝トビアス「年頃の娘が色恋沙汰に興味を持つのは 当然のことだからな」
巫女マイカ「・・・おじさんのような意見だな」
皇帝トビアス「おじさん・・・」
皇帝トビアス「まあ、おまえから見れば そうかもしれぬが・・・」
巫女マイカ(・・・残念だったな、トビアス)
巫女マイカ(帝国の民が救われる日など 永久に来ない)
巫女マイカ(せいぜいわたしの駒になるがいい)
〇王妃謁見の間
騎士団長ヴァレリー「わたしはミシェル殿下を支持する!」
騎士団長ヴァレリー「兵士諸君はどうだ!?」
騎士団長ヴァレリー「リュテス王家は・・・いや」
騎士団長ヴァレリー「我々はミシェル殿下を 長らく冷遇してきた」
騎士団長ヴァレリー「それでも殿下は、リュテスのために こうして立ち上がられたのだ」
騎士団長ヴァレリー「そのお姿を見ても なんとも思わないのか!?」
宮廷魔導師リゼット「ミシェル殿下は王位など望んでいません!」
宮廷魔導師リゼット「指揮官を名乗り出たのも 弟君と勇者様の帰る場所を守るため」
宮廷魔導師リゼット「どうか殿下に力をお貸しください!」
第一王子ミシェル(リゼット・・・ ヴァレリー・・・)
第一王子ミシェル「・・・みんな、頼みます」
第一王子ミシェル「リュテスを守るために 力を貸してほしい!」
「オレたちがリュテスを守るんだ!」
「ガンディアの好きにはさせないぞ!」
「ミシェル様、ご命令を!」
第一王子ミシェル「・・・ありがとう、みんな」
第一王子ミシェル「よし、出撃だ!」
〇森の中
巫女マイカ(・・・トビアスは眠ったか)
巫女マイカ「・・・・・・」
巫女マイカ(なにか言いたいことがあるのか?)
〇モヤモヤ
松本舞花「どうしてこんなことするの?」
巫女マイカ「・・・・・・」
松本舞花「あたしの身体でひどいことしないで!」
巫女マイカ「憎悪、悲哀、喪失、憤怒、絶望、不安 そして罪悪感・・・」
巫女マイカ「これらの負の感情は すべておまえの恋情からきている」
巫女マイカ「だからこそ、この身は わが魂の依代となり得たのだ」
松本舞花「あなたも・・・ 恋をしてひどい目に遭ったの?」
巫女マイカ「・・・・・・」
松本舞花「今からでも考え直して!」
松本舞花「あれは・・・あたしも悪かったの だから誰かに八つ当たりなんかできない」
松本舞花「お姉ちゃんがいるかもしれない国を 攻撃なんかしたくない!」
巫女マイカ「・・・明日には国境に到着する」
巫女マイカ「おまえはせいぜい わたしの内側から見ているといい」
松本舞花「待って!」
松本舞花「お姉ちゃんにひどいことしないで!」
松本舞花「待って・・・! ・・・エグスキ!」
〇川沿いの道
勇者マリー「ほんとに野宿でいいんですか?」
第二王子クレール「ミシェル殿に悪いからな」
勇者マリー「あたしだって別に 誰だって泊めるわけじゃないですよ」
勇者マリー「王子はミシェル様の弟だし」
勇者マリー「それにクレール王子なら お兄さんの嫌がることはしないでしょ?」
第二王子クレール「・・・気づいていたのか」
第二王子クレール「応える気がないのなら はっきり振ってやったほうがいいと思うが」
勇者マリー「え、いや・・・その」
勇者マリー「・・・子どもに指摘されるなんて いくらなんでもダサすぎる」
第二王子クレール「子ども? ・・・わたしのことか?」
第二王子クレール「これでも成人しているのだが」
勇者マリー「リュテスの成人年齢って18歳でしたっけ」
勇者マリー「でも舞花と年変わんないし あたし的には子どもって言うか」
勇者マリー「・・・ん?」
勇者マリー「なんか・・・ やけに月が近いですね」
第二王子クレール「美しい光景だな」
勇者マリー「そうですね」
第二王子クレール「・・・待て 川の中になにかいるぞ!」
勇者マリー「えっ!?」
勇者マリー「羽が生えてる・・・人?」
???「目覚めたか、勇者よ」
勇者マリー(この声、どこかで・・・)
第二王子クレール「貴方は・・・まさか」
???「わが名はイーリャ」
???「おまえたちが神と呼ぶ 双生の片割れだ」
ヴァレリーさん、イケオジすぎる……
そして、勇気を振り絞ったミシェルさま、何と愛らしい姿で。
驚きのラスト、次回は急展開必至ですね!