ある1日(脚本)
〇田舎の駅舎
リキ「お互い、馬鹿みたいによく眠ったな」
ケイ「寝不足は仕事の敵、だろ?」
リキ「そういえば、ダメな先輩いたなあ もったいないからって 徹夜で、この日を迎えて」
ケイ「結局、途中で気絶して、 そのまま、か」
リキ「ああ、それよりマシだ だいぶマシだ それから」
ケイ「ん?」
リキ「おはよう」
ケイ「おはよう」
〇施設内の道
リキ「なあ、緊張してないか?」
ケイ「してないと言ったら ウソになるなあ 文字どおり「先が見えない」し」
リキ「ははは」
ケイ「そんなときは、足元だけ見てろって 前に聞いたよ」
リキ「へえ」
ケイ「目の前のことに集中する 一歩一歩進む それ以外のことは考えない」
リキ「優等生だな 俺は目の前より、空を見てたいよ」
〇青(ダーク)
「いい天気だ」
「ゾッとするくらい、青い」
〇荒廃した街
ケイ「聞いたか 御徒町のアキラ 明日、引っ越すんだってよ」
リキ「そっか まあアイツなら どこ行ってもうまくやるだろ」
ケイ「そうだな いつもみたいに遅刻して いつもどおり人の倍仕事して」
リキ「そして酒のんで気絶するんだろ」
ケイ「・・・・・・守ってやりてえな」
リキ「そんなヤツばっかりだ」
〇砂漠の滑走路
リキ「はははは 風、超強え」
ケイ「遮るもの、なーんもねえからな!」
リキ「発電所まで遠いんだから 乗り物かなんか 用意してくれればいいのにな」
ケイ「俺は・・・・・・ 歩いて行きたい」
リキ「それもそうだな 空よし、風よし、陽の光よし」
ケイ「いい日だ、最高だな」
リキ「ああ、人生で一番、な」
〇荒野
ケイ「なあ」
リキ「んー?」
ケイ「こう、道がキツいと学校みたいだな 山の上にあるから 遅刻しそうになるたび、坂道ダッシュで」
リキ「ははは、そうだったな 通学路が山道ってのは、ないよな」
ケイ「あの学校出たヤツら 全員足太かったもの」
リキ「大根専門学校って馬鹿にされてな あーあ」
リキ「思い出すな」
ケイ「思い出しちまうな」
リキ「畜生、 やっぱ、おっかねえや」
ケイ「言うなよ」
リキ「ごめん」
ケイ「いや、やっぱり言おうか 誰もいないし 思いっきり叫ぼう」
リキ「そうするか やっぱ山って、 叫びに来る場所だしな」
リキ「それじゃ、行くぞ せーの」
〇岩山
死にたくねぇぇぇぇ!
俺じゃなくていいだろぉぉお!
あと少し生きさせろぉぉ!
こんなこと、もうやめろ!
もう誰も、ここ来るな!
みんな、幸せになあ!
楽しく生きろ、バカヤロー!
「あははは、少しすっとした」
〇魔界
リキ「しかしまあ、 恥ずかしくなるくらい、陰気な場所だな」
ケイ「こんな発電所なんて 誰も来たくないだろうからな これでいいんだろ」
リキ「・・・・・・ちょっと、この先見てみるか」
ケイ「ああ」
〇黒
「真っ暗だな」
「いくら「穴」だからって もう少し明るくてもいいと思うがなあ」
〇魔界
リキ「あと看板もいるな どうせ飛び込むんだから 「お降り口はこちら」くらい 書いてくれても・・・・・・」
ケイ「なあ、リキ 俺たちが穴に入って燃料になれば どれくらいのエネルギーになるのかな」
リキ「長ければ50年 悪くても数年はもつさ」
リキ「その間、潤沢なエネルギーに囲まれて みんな、穏やかな日常を送れる」
リキ「燃料人間として生まれたからには この瞬間は誉れだ」
ケイ「頭では分かってる」
リキ「でも、純粋におっかない」
リキ「ああ、そうか 分かった」
ケイ「なにが?」
リキ「どうして2人組で来なくちゃいけないのか その理由だ」
ケイ「任務に失敗した先輩がいたからだろ?」
リキ「それもあるけど つまりは、な 一人じゃ、怖いからなんだよ」
ケイ「だから道連れが必要って?」
リキ「ああ、そうだ、ひどい話だ」
ケイ「まったくだな 生きるにしろ、死ぬにしろ 誰かに迷惑かけなきゃやっていけない」
〇魔界
リキ「・・・・・・頼みがある」
ケイ「いいぞ」
リキ「聞いてから言えよ いや、たいしたことじゃないんだ 手、握っててほしい」
ケイ「ああ」
リキ「・・・・・・あとは、 マニュアルどおりやるだけだな」
ケイ「唄を歌い終わって、飛び込む」
リキ「そうだ」
ケイ「なんで歌うんだよ」
リキ「知らねーよ」
「この身が燃える このときは 見る人もなく 聞く人もなく」
「誰が私に 毎日を 誰もが送る 毎日を」
「支える炎に 我は成る 地下の光に 成り果てる」
「今日に続きはないけれど 明日よ どうか何気なく」
「今日に続きはないけれど 明日よ どうか何気なく」
〇黒
〇モヤモヤ
〇カラフルな宇宙空間
リキとケイは他人のために我が身を犠牲にする全ての人々のメタファーですね。かつて特攻隊の青年たちが似たような思いで命を散らしたかと思うと、フィクションだけの世界ではないことに胸が苦しくなりました。
はじめは単なる友達同士の会話から、徐々に暗黒の世界を物々しく感じ、旅立つ最後の合図で突き落とされたように感じました。彼らの犠牲で救われた世界が無駄にならなければと思います。作者の思慮深さが伝わりました。
燃料として人を失う世界が悲しく思えました。
しかし、その姿が妙に美しくて…なんとも言えない気持ちになりました。
人の犠牲になり立つ世界は、私達の世界もそうなのかもしれない。