Reply それぞれの物語(脚本)
〇黒
雨・・・
〇街中の道路
雨が降る。
ひとり分の傘にはひとり分しか入らない。
だから、ふたりでひとつの傘に入ったら、ふたりの半分ずつが雨に濡れてしまう。
Me(傘の下のきみとわたしと、雨に濡れているきみとわたしと・・・)
そんなことを考えていたら、急に立ち止まったきみが・・・
〇水たまり
わたしをぎゅうっと抱いた・・・
これでもう、ふたりとも傘の下で・・・
ふたりとも雨に濡れない。
〇黒
〇街中の道路
ひとつの傘をふたりで差して歩く。
傘からはみ出したきみの肩が雨に濡れている。
Me(きっと寒いだろうな・・・)
そう思ったら、僕は何だか切なくなって・・・
〇水たまり
きみを抱きしめた。
ふたりの傘に降る雨が・・・
〇街中の道路
やがて・・・
雪に変わる
〇黒
〇黒
〇団地のベランダ
雨に濡れた傘を干す。今日は晴れた。
でも朝の天気予報では「天気は西から下り坂です」なんて言っている。
どうしようかな。
きみは傘を持ってくるのを忘れるかもしれない。
そもそも天気予報なんて見ないかもしれない。
僕は半乾きの傘を畳んだ。
もしもの雨にきみが濡れないように、今日も傘を持って行こう。
〇黒
〇女の子の一人部屋
朝。起きたら、わたしはまず空を見る。
カーテンを開けると雨が上がっていた。よく晴れた空が広がっている。
少し寒い。
暖かな春の訪れを感じて大きくなっていた桜の蕾は、きっとこの寒さに驚いているに違いない。
そうだ!
今日は川べりの桜並木を通って帰ろうって、きみに提案してみよう。
〇黒
〇女の子の一人部屋
暖かな日が続いていたのに、また、寒さが戻ってきた。
冷たい雨も降る。
暦の上では春はすぐ近くまで来ている。なのにこの仕打ちは可哀想だ。
きっと「季節の変わり目」と書かれたドアの前で、春は寒さに震えて足踏みしながら・・・
冬が荷物をまとめて出てゆくのを今か今かと待っていることだろう。
うん。そうに違いない。
きっとそうだ。
でも冬が行ってしまうと、わたしがあげたマフラーを首に巻いたきみを見られなくなる。
そう思ったら、まだちょっとだけ寒い日があってもいい。
〇黒
〇マンションの共用廊下
つい先日、桜の開花宣言があった。はずなのに、この寒さはどうだろう。
毎年この時期になると「春の〜祭り」とか「春のスペシャル」とか・・・
さまざまな媒体でやたらに春ってやつを押し売りするけれど・・・
肝心の春はまだ来ていない。
一旦は外へ出たものの・・・
Me(寒い!)
〇男の子の一人部屋
部屋に戻り、きみにもらったマフラーを首に巻いた。
〇黒
〇水玉2
暖かい日と寒い日が行ったり来たりして、そうこうしているうちにとうとう桜が咲いた。
一週間後にはきっと散ってしまっているだろう。
まったく、桜って、気が長いのか短いのかよくわからないやつだ。
Me「桜が咲いたから、見に行こうよ」
Me「行きたくない」
Me「えっ。どうして?」
Me「桜なんて見たくないから」
Me「綺麗だよ。週末に見に行かないと見頃を逃してしまう」
Me「だからよ。桜を見ると、ひらひらと散って終わってしまう風景が浮かぶの」
Me「うん。それで?」
Me「いくら綺麗でも、すぐに終わってしまうなんて悲しすぎる」
Me「すぐに終わってしまうからこそ、尊くて美しいとも言えるんじゃないかな」
Me「命短し・・・?」
Me「・・・恋せよ乙女?」
Me「でも・・・わたしはそんなの嫌!」
Me(はあ・・・)
〇黒
〇水玉2
今年も桜が咲いた。
たかが桜が咲いただけで、なぜみんな、こうも浮かれ騒ぐのだろう。
パッと咲いたらすぐに散って終わってしまうイベントに、みんなで振り回されている。
きみも例外ではない。この週末に花見に行こうと誘われた。
You「桜が咲いたから、見に行こうよ」
Me「行きたくない」
You「えっ。どうして?」
Me「桜なんて見たくないから」
You「綺麗だよ。週末に見に行かないと見頃を逃してしまう」
Me「だからよ。桜を見ると、ひらひらと散って終わってしまう風景が浮かぶの」
You「うん。それで?」
Me「いくら綺麗でも、すぐに終わってしまうなんて悲しすぎる」
You「すぐに終わってしまうからこそ、尊くて美しいとも言えるんじゃないかな」
Me「命短し・・・?」
You「・・・恋せよ乙女?」
Me「でも、わたしはそんなの嫌!」
きみは、やれやれといった感じでため息をつく。それでもきみは諦めない。
You「行こうよ 僕はきみと一緒に桜を見たいんだ」
わたしのわがままを、いつもちゃんと聞いてくれる。
そんなきみが好きだから、わたしは今年もきみと一緒に桜を見に行こう。
〇黒
〇綺麗な部屋
朝起きたら窓際に並べた観葉植物たちに水をやる。それが僕の一日の始まりだ。
ポトスやペペロミアやゴムの木。小さかったこの子たちも、植えたコップからはみ出すほどに大きくなった。
彼らの名前もコップで育てる方法を教えてくれたのも、そもそも観葉植物を集め出したのもきみだった。
この部屋はあの時のまま。なのに、きみだけがいない。
〇ソーダ
色々な大きさで色々なデザインのコップ。
ショップの景品とか百均で買ったものとか、二人で選んだコップたち。
それらの一つ一つにきみの思い出がある。
観葉植物なんて僕の趣味じゃなかったのに、こうしてマメに面倒をみているのは、だからなのだろう。
〇綺麗な部屋
そういえば、きみの癖が移ったらしい。
楽しそうに植物の世話をしながら、いつも彼らに話しかけていた。今は僕がきみと同じことをしている。
〇空
窓を開けると、暖かな春の風がフワッと僕の頬を撫でた。
〇黒
〇女性の部屋
朝起きたら窓のカーテンを開けて空を眺める。
〇空
雨の日もどんより曇っている日も、とにかく空を見て雲の表情を眺める。それがわたしの一日の始まりだ。
〇女性の部屋
日当たりの良い窓際に置いた小さなヤシの木とか小さなアイビーとかの観葉植物たち。
コップに植えた彼らは初めは一つだけだったのに、いつの間にか二つ三つと増えている。
〇ソーダ
一年暮らしたきみの部屋を出てゆく時に、わたしはそれまで可愛がっていた彼らをきみの部屋に置き去りにしてしまった。
きみは優しいから、きっとわたしの観葉植物たちを捨てたりしないで、今でもきっと、ちゃんと世話をしてくれているだろう。
〇女性の部屋
Me(そういえば・・・)
失ってから、それがどれほど大切なものだったのかわかったとしても。
〇空
今日はとても良い天気だ。
窓を開けると柔らかな風が舞い込んでくる。
ほのかに春の匂いがした。
〇黒
傘やマフラー、コップといったアイテムを軸に二人の心が通い合っている様が見事に描かれていました。インサートされる画も、叙情的な物語の雰囲気を盛り上げるスイッチになっていて素敵でした。
前半は綺麗な情景が浮かんだりキュンキュンしながら読ませて頂いたのですが、後半とても悲しかったです。
本当に、失ってからはどうすることも出来ないですよね。
私も、そういう後悔をしてしまう事が無いように、旦那さんを大切にしたいと思いました。