第七話(脚本)
〇森の中
一方、その頃・・・
神社の隣の森では木々の枝が鞭がしなるようにビシビシと音を立て、不穏で生温かい風がタケハのいる家屋にも忍び寄ってきていた。
タケハはその異常な空気を察して、恐る恐る生温かい風を追って森の中に足を踏み入れた。
タケハ「なんだよ~。 物音がしたと思ったんだけど、 聞き間違いだったかな~」
タケハ「もう帰ろうかなぁあぁ」
タケハ「ひゃぁぁぁぁ なんか出たーーー」
木霊「私は木霊(こだま) 木の霊だ。 神社とこの森は 今日から私が占領させていただく」
タケハ「な、な、なに言ってるんだ。 ここは、僕の土地だぞ」
木霊「知っている。 だから最後のチャンスをやろうと思って ここにお前を呼んだ」
木霊「ここから出ていけ」
タケハ「ひぃーーー 全然意味がわからないんだけど」
木霊「・・教えたら出ていくか?」
タケハ「ま、まず、知る権利があると思います」
木霊「わかった。 では、まず周りを見てみよ。 おまえは何か感じないか」
タケハ「いや、別に。 木がたくさんあるだけで何も感じませんが」
木霊「木々が泣いているのだ。 おまえは 木はどうやって成長するか知っているか?」
タケハ「えぇ 水と日光による光合成で育ちます。 それくらいはわかりますよ」
木霊「違う。 それ以外に音が必要なんだ。 私たちは音の振動に反応して育っているんだ」
木霊「嬉しい音に触れると伸びやかに成長し、 悲しい音を聞くと幹は大きくねじれる」
木霊「しかしこの数年、 人が入ってくる気配もなく、 子供の遊ぶ声も聞いてはいない」
木霊「聞くのはカラスの声だけ。 その音だけでは成長できず、 木々は薄黒い煙を出すだけだ」
タケハ「それがなんだって言うんですか」
木霊「このままでは 木々は全部腐ってしまうんだよ」
木霊「腐った木からできた木霊は どこにも行けず、苦しみながら彷徨うことになるんだ」
木霊「おまえがいなければ ここは霊や妖怪のたまり場になる」
木霊「そうすれば、 幹は曲がるだろうが、 腐ることはないだろう」
タケハ「でも、僕がいなくなったら この森はなくなるかもしれませんよ」
木霊「今のまま過ごすくらいなら 切られたほうがマシなんだよ」
木霊「それくらいの苦しみなんだ。 さあ、わかったら早く出ていけ」
タケハ「ひぃいいぃぃ」
タケハ「ぎょぇぇええぇえ」
コマ「タケハ様、 これは一体何が・・」
タケハ「助けて、コマ。 こいつ、僕をここから追い出そうとしているんだ」
コマ「・・・木霊ではないですか。 ・・姿が、ひどいことになっていますね」
木霊「狛犬か。 わかっているだろ。 こんな所では私たちは生きていけない」
コマ「・・・・・・・ わかります」
コマ「しかし、もう少しだけ待ってもらえないでしょうか。 今、この神社は・・」
木霊「うるさい」
コマ「うぐっ」
タケハ「コマ、大丈夫か?」
コマ「下がっていてください」
木霊「こうなっては決着をつけなければならないな」
コマ「グルルルル」
木霊「ふっ、 その程度ではおまえの牙は私には届かない」
〇森の中
淡雪「コマさん、 大丈夫ですか? ・・・これは・・確か、木の霊」
淡雪「大変。 木の霊が黒くなって 暴れているわ」
淡雪「タケハさん、 この神社にお札があると思います。 どこにあるかわかりますか?」
タケハ「そんな、急にお札とか言われても・・」
淡雪「短冊みたいな長方形の紙に ミミズみたいな文字が書いてあるものです。 ・・お父さんが社の中で書いていませんでしたか?」
タケハ「確かに、そう言われれば、 ・・・あっ、わかった。 売り物として棚の引き出しにしまっているのを見たことがある」
淡雪「そこに連れて行ってください。 早くしないと、コマさんが危ないかもしれません」
タケハ「は、はい」
〇森の中
コマ「ハァ、ハァ、ハァ」
木霊「もう終わりだな。 おまえの中の勾玉を全部割って、 二度と復活できないようにしてやる」
コマ「・・・・・」
淡雪「コマさん お札を持ってきました」
木霊「貴様、それをどこで・・」
木霊「フフッ、 それでは宙に浮くとしよう。 人間では空を飛ぶことはできまい」
淡雪「コマさん、 背中に乗りますので あの霊のところまで連れて行ってください」
淡雪「お札を貼りつければ、 弱体化するはずです」
コマ「グルン」
木霊「お札を持っているとしても 人間は人間。 この斬撃はかわせまい」
木霊「なに!? これならどうだ」
淡雪「ナイス、コマさん」
淡雪「よし、 いけーーーーーーー」
ペタッ
木霊「うぎゃーーー」
淡雪「コマさん、とどめ」
淡雪「消え、ましたか・・」
コマ「はい、ありがとうございます あなたがいなかったら、 どうなっていたことか・・」
淡雪「それよりも・・・」
コマ「どうしましたか?」
淡雪「タケハさんが倒れてますよ」
コマ「えーーーーー、 いつの間に・・」
淡雪「・・木の霊が炎を吐いたところで 炎の端っこに当たってましたよ」
コマ「早くそれを言ってください。 ・・火傷はしてないみたいですが、 すぐに家に連れていきましょう」
コマ「淡雪さんも手伝ってください」
淡雪「はい、わかりました」