ゴリラの右手の破壊力

伊藤

読切(脚本)

ゴリラの右手の破壊力

伊藤

今すぐ読む

ゴリラの右手の破壊力
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇黒
  こんにちは。
  久しぶりに書くので緊張しています。
  あなたはゴリラに殴られた事がありますか?
  私はありません。
  誰かにノーが言えますか?
  私は言えません。
  私は白渦市という何もない町の
  動物園で飼育員をしています。
  ある日、園長が地域活性化の話を持ってきました。
  市長に頼まれた、との事で。
  その話を今からします。
  むかし、むかし
  すいません。そんなに昔の話じゃないです
  さいきん、さいきん、さいきん・・・

〇動物園の入口
亜美「地域活性化・・・・・・?」
園長「そうだ。 明日、このゴリラに町中で暴れてもらう」
園長「全国ニュースになって、一気にこの白渦市が注目されるぞ! この動物園も儲かる!」
ウータ「うほ」
亜美「そんな、炎上商法みたいな・・・・・・」
園長「ん? 口答えか?」
亜美「あ、いえ・・・・・・」
園長「注目されれば何でもいいんだ。 悪名は無名に勝る!」
亜美「ウータはどうなるんですか?」
園長「知らん、まあ大して人気のないゴリラだ。 どうなっても構わん」
亜美「そんな・・・」
園長「そんな、なんだ?」
亜美「いえ、すいません」
園長「とにかく市長直々の依頼だからな。 ノーは言えんのだ」
園長「それと、今夜、そのゴリラとスーパーを荒らしてくれ」
亜美「スーパーを荒らしてどうするんですか?」
園長「明日の朝、スーパーが何者かに荒らされている事を発見する! 犯人は誰だ!?」
園長「そういう導入の方が盛り上がるだろ。 ミステリーだ。 スーパーに許可は取ってるからな」
園長「どうせ、今夜の予定なんてないだろ」
亜美「・・・」
園長「まあ、予定があったとしても、俺から言えることは1つだけだ」
園長「やれ」
亜美「・・・はい」
園長「よし、じゃあ頼んだぞ」
亜美「はい」

〇動物園の入口
亜美「ウータ、起きてる?」
ウータ「うほ」
  私は動物も、この仕事も、特に好きではありません。
  毎日嫌々働いています。
  ただ、ウータだけは別です。
  なぜか私に懐いてくれて、とても可愛いです。
亜美「じゃあ、行こうか」
ウータ「うほ?」
亜美「大丈夫、すぐ終わるから」
亜美「怖くないから」
ウータ「うほ、うほ」

〇スーパーの店内
  ウータを車に乗せて、連れて来ました。
  おとなしい性格なので、後部座席で静かにしていました。
亜美「ウータ、好きなだけ暴れていいよ」
ウータ「うほ?」
亜美「壊すの、全部」
ウータ「う・・・うほ」
亜美「・・・」
ウータ「うほ、うほ」
亜美「・・・そうだよね、別に暴れたくないよね」
亜美「優しい子だもんね」
ウータ「う、うほ〜」
亜美「偉いね、ちゃんと嫌って言えて」
亜美「誰かと大違い」
ウータ「うほ!」
  ウータが近づいて来て、本棚が倒れました
亜美「あ、この本、昔読んだな」
ウータ「うほー」
亜美「私本読むんだよ、作家になりたかったんだから」
ウータ「う、うほ?」
亜美「なんで今の仕事してるかって? ・・・わかんない」
亜美「多分、ウータみたいに強くないから」
亜美「嫌なことに嫌って言えないから」
ウータ「うほ・・・」
亜美「・・・」
亜美「帰ろっか」

  このまま帰ると言う事は、
  園長にノーを突きつける事になります。
  もういいや、どうせやるなら・・・
「ねえ、ウータ」
「うほ?」
「ちょっと、作戦会議」

〇一軒家の玄関扉
  着きました。園長の家です。
  何度もチャイムを鳴らしました。
園長「なんだ一体、報告なら明日・・・」
亜美「スーパーには何もしませんでした」
園長「なに?」
亜美「それと、仕事辞めます。明日から行きません」
亜美「ウータも連れて行きます」
園長「気でも狂ったか?」
園長「そんな事、許すと思うか?」
亜美「たまには許してください」
園長「ふざけるな、さっさと戻って、スーパーを荒らしてこい!」
亜美「嫌です」
園長「なんだと?」
亜美「ゴリラの右手の破壊力知ってますか?」
園長「はあ?」
亜美「知らないんですか? 園長なのに」
亜美「教えてあげますよ」
園長「何をする気だ?」
亜美「ウータ」
ウータ「ウホ」
園長「ま、待て・・・」
亜美「やれ」
  ゴオッと風が鳴りました。
園長「ひいい・・・」
  ウータの拳が、園長の顔の前でピタリと止まっています。
亜美「仕事辞めていいですよね?」
園長「・・・」
亜美「返事は?」
園長「わ、わかった」
園長「だが、こんな事をして・・・」
亜美「ウータ」
園長「ま、待て、すまん」
亜美「今後私たちの邪魔をするなら」
亜美「私はあなたの悪夢になる」
園長「しません。邪魔なんてしません」
ウータ「うほうほ」
亜美「作家っぽいでしょ。 行こうか、ウータ」
ウータ「うほー」

〇黒
  その後、車に乗ってひたすら走りました
  どこに着くかよくわからないけど、
  この町にはもう戻りません。
  暗闇が月を望むように、
  私はこの向こう見ずな自分を愛します
  作家っぽいですか?
  何も当てはないけど
「ウータ、起きてる? 海が見えるよ」
「うほ!」

〇朝日
「眩しいね〜」

コメント

  • 市長や園長が人として問題がある分、主人公やウータくんの心のキレイさが引き立ちますね。1人と1頭に幸あらんことを願いたいです。

  • ウータくんって優しくて賢い子だなぁと思いました。
    ノーと言えない彼女に、ちゃんと言えるようにしてくれたのはウータくんですね。
    それにしても、パワハラどころじゃないですよ!
    動物虐待です!園長なのに!

  • 悲しいけれど、自分の権力を振りかざして人をコントロールしようとする人いますよね、、、しかも仕事ともなるとノーは本当に言いづらい。ウータのノーに背中をおされて彼女もノーと言えたこと、読んでいて私までスッキリ気分爽快になりました。ウータえらいね!こんな優しくてたのもしいゴリラの相棒がほしいです。

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ