元騎士の旅物語

にーな

12.王族(脚本)

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〇洋館の玄関ホール
湊 月夜「・・・・・・・・・・・・」
  月夜の前に立つのは、弟妹を連れた凛音だった。
湊 月夜「何の御用でしょうか」
帝 凛音「既に理解している筈だ。セイアッドを此方に引き渡して頂きたい」
  月冴に見せていた笑みは無く、無表情で迫る凛音。
  彼等は一様に武装している。
湊 月夜「何の事か」
帝 凛音「恍けられるとでも?」
湊 月夜「此処には騎士団と息子、その友人達しか居りませぬ」
帝 凛音「その息子を差し出せと言っているのです」
湊 月夜「何故、王族が息子を」
帝 凛音「・・・・・・セイアッドだからです」
  その言葉に月夜がスゥ・・・と目を細めた。
湊 月夜「その情報、何処から手にした」
帝 凛音「・・・・・・王族は代々多くの血筋を残す様にしてきました」
帝 凛音「理由は二つ。我が一族は神の怒りを買い、寿命そのものを減らされたから」
帝 凛音「・・・・・・もう一つは各地に王族を仕込ませる為」
湊 月夜「・・・・・・・・・・・・」
帝 凛音「騎士の王族は妹だけではありません・・・・・・隊長の名を持つ王族もいるのですよ」
湊 月夜「・・・・・・!環か」
環 晴彦「見抜かれていましたか」
湊 月夜「!」
  声と共に姿を見せたのは、困った様に微笑む環春彦。
  彼は・・・・・・凛音の元へと歩み寄る。
帝 凛音「お久しくしております、叔父上」
環 晴彦「おや、覚えてくれていたのかい?君と叔父として会ったのは、まだ幼い頃だと思ったのだけど」
帝 凛音「父上から話は聞いておりますから」
湊 月夜「・・・・・・環。お前は王族としての道を選ぶか」
環 晴彦「・・・・・・騎士団長には良くして貰ったと思いますよ。しかし、我々には自由等ありませぬ」
  ソッと環は視線を落とした。
湊 月夜「・・・・・・私ではその呪縛を解けなかったか」
  其れに一度目を閉じると、月夜は強い視線を彼等へと向ける。
湊 月夜「息子も、セイアッドも、王族に渡すつもりはない」
  ザッ
  月夜の側に華と月、春以外の隊長が並んだ。
帝 凛音「っ騎士が王族に逆らいますか!」
湊 月夜「我等騎士は民の為の剣。民を傷付けるならば王族とて容赦はせん。ましてや、迷いを持つ者の言う事等聞かん」
帝 凛音「!?」
帝 凛音「・・・・・・月冴の慧眼は父親譲りか」
  そう呟き・・・・・・凛音は剣を抜く。
帝 凛音「その剣、此処で折らせて貰う!」
湊 月夜「・・・・・・胸を貸してやろう」
  凛音と月夜の剣が交わされた。
  其れと同時に、隊長と王族と衝突する。
東 大和「環!!お前は本当に其れでいいんだな!」
環 晴彦「・・・・・・ああ」
理仁「叔父上、お下がりを」
「!」
  環に向かっていく東だが、其処に一人の青年が割り込んだ。
東 大和「おっと、第二王子様か!」
理仁「どうも、山の隊長殿」
  第二王子、理仁。
  彼は自分に身体強化の魔法を掛け、東の斧と斬り結ぶ。
陽向「お初目に御目に掛かります。私は第一王女、陽向と言います」
辻 奏多「ご丁寧にどーも。第五部隊の辻言います」
  互いに微笑みながら挨拶を交わす二人。
  その間には辻の屈折剣と魔法で生み出された曲がる剣が絶え間なく交わされていた。
柾 雲雀「うーん、あまりこう言う正面でやり合うのは得意じゃないんだけど」
嘉音「どの口が言ってるんだ」
  のんびりとした口調の柾に対し、半眼で返すのは第三王子の嘉音。
  柾から放たれる複数の短剣を流しつつ、懐に入る瞬間を狙っている。
「・・・・・・・・・・・・」
  梵と向き合っているのは、第四王子の璃鈴。
梵 劔「まさか、教え子と此処で対峙する事になるなんてな」
璃鈴「そうですね、先生」
  軈て、二人は苦笑した。
梵 劔「お前は此れが正しいと思えるのかい?」
璃鈴「・・・・・・我々は上の者に逆らえない様になっています。そう育って来ましたから」
梵 劔「私も兄者も、其処から抜け出させてやりたかったんだがね」
梵 劔「・・・・・・あの子だけだ。彼女を其処から抜け出させたのは」
璃鈴「・・・・・・あの子が、何故此処から抜け出せたのかは私達にも把握しかねております」
璃鈴「・・・・・・さて、先生。そろそろ雑談は終わりにしましょう」
梵 劔「ああ。お前の全力を見せなさい」

〇要塞の廊下
環 晴彦「・・・・・・・・・・・・私も思ってしまった。騎士の私なら好きになれそうだった。此処なら自由に居られると」
  戦いの場から離れた環は、俯きながら屋敷に中を進む。
環 晴彦「だが、結局私は兄上に命じられて逆らえなかった」
環 晴彦「・・・・・・王族に等、生まれたくなかったな」
鏡 華絵「環隊長!」
環 晴彦「!・・・・・・鏡・・・・・・隊長・・・・・・」
鏡 華絵「王族の方はどうなりました」
  環の前に現れたのは、駆け寄って来る鏡。
環 晴彦(私が・・・・・・王族でなければ・・・・・・君にこの想いを正面から伝えられたのに)
鏡 華絵「環隊長?」
環 晴彦「・・・・・・ごめんね」
鏡 華絵「え」
  環が呟いた直後、鏡の意識が途切れた。
  そのまま倒れる彼女を、環は苦しそうな表情で受け止める。
皇 螢「環隊長!?」
  そんな彼に、駆け付けた螢が驚いた様に声を掛けた。
環 晴彦「・・・・・・螢、君は騎士である事を選べたんだね」
皇 螢「!まさか、騎士団に居る叔父上が環隊長だったんですか」
環 晴彦「そうだよ」
「・・・・・・やはり、あの男が残した“呪い”は健在しているか」
「!」

〇黒

〇要塞の廊下
皇 螢「“呪い”?」
セイアッド「お前は運が良かった・・・・・・俺の一部だった月冴が介入した事で無意識に呪いを破壊し、己の意志を貫く力として再生した」
セイアッド「・・・・・・本来なら親しい友人である第一王子と兄上様の器もその対象だったが、月冴が王都を離れた事で絡め捕られたか」
環 晴彦「・・・・・・成程。螢が抜け出せたのは月冴君の側に居たからか」
  一瞬羨ましい様な視線を少女に向け、男は俺に視線を戻した。
環 晴彦「私と来て頂けますか」
  男の手には女性。
  月冴なら、己を犠牲にするだろう。
  だから・・・・・・
セイアッド「いいだろう。その代わり、その者を返せ」
環 晴彦「随分と人間らしいですね」
セイアッド「俺が?其れは違う・・・・・・愛し子、月冴ならばこうするだろう」
環 晴彦「月冴君は、本当に誰からも愛されていますね」
セイアッド「その様に、この子の母が願ったからな」
環 晴彦「・・・・・・!」
椿桔「っ勝手な事をするな!」
  俺の背後から白髪の青年がやって来る。
椿桔「お前の体は月冴様の物だ!勝手な事をするな!」
セイアッド「・・・・・・ならば、見捨てると?それこそ望むまい」
椿桔「っ・・・・・・」
セイアッド「幼いセオ」
湊 月冴「・・・・・・いや、桔梗を頼む」
椿桔「!?」
  白髪の青年を無視し、俺は男に歩み寄った。
セイアッド「・・・・・・!」
  風が俺の項を撫でる。
  ・・・・・・あの青年、空の一族か。
  俺はそのまま男の元に行き、男は女性を少女へ託した。
環 晴彦「此方へ」
セイアッド「ああ」

〇要塞の廊下
  歩き出す彼に続く。
環 晴彦「呪い、というのは・・・・・・」
セイアッド「“帝”の一族の血に刻まれた呪い・・・・・・王冠を持つ者の命に逆らえない」
環 晴彦「!!」
セイアッド「お前は自分の兄の命に逆らえないのだろう。例え、お前が騎士でありたいと思っても」
  俺の言葉に、男が振り返ると同時に俺の首に片手剣を突き付けて来た。
環 晴彦「・・・・・・確かに。貴殿を殺そうと思っても、此れ以上は無理だ」
セイアッド「俺を生け捕りにしろと?・・・・・・お前は月冴を殺せるのか」
環 晴彦「其れがこの世界・・・・・・いや、愛する人が生きてゆけるなら」
セイアッド「やはり、お前は生まれる所を間違えたな」
環 晴彦「自分でもそう思いますよ」

〇洋館の玄関ホール
  そして、戦いの場へとやって来た。
  流石、と言うべきか騎士の方が優勢らしい。
  直ぐに俺達に気付いて相手を飛ばし、駆け寄って来る。
湊 月夜「何のつもりだ、セイアッド」
セイアッド「この男が女を抱えていたからな。月冴ならそうすると思った」
湊 月夜「・・・・・・っ・・・・・・」
  ギロリと俺を睨む騎士団長。
  まぁ、そうだろうな。
湊 月夜「ふざけるなっ、その体は息子のものだ」
セイアッド「月冴なら、騎士団と王族が衝突したとなれば、己の身を差し出すだろう」
湊 月夜「っ・・・・・・」
  其れは騎士団長も分かっている事らしい。
  怖い顔をしながらも、口を閉ざした。
帝 凛音「では、共に来て頂けますか。セイアッド殿」
  帝の呪いを最も感じる青年が俺の前にやって来る。
セイアッド「ああ、お前が第一王子か」
帝 凛音「ええ。凛音と申します」
セイアッド「憎々しいあの男と瓜二つだな」
帝 凛音「え?」
セイアッド「お前は月冴を裏切り続けていた。父親の命で」
セイアッド「・・・・・・お前に月冴を渡す気にはなれんな」
帝 凛音「は?」
  少し、無理をさせるぞ。
「!?」
  俺の周りに風を発生させた。
セイアッド「・・・・・・月冴が眠る前、お前の事については何となく察していた」
帝 凛音「っ!?」
セイアッド「お前が第一王子だから、この子は遠慮してしまった。お前が手を伸ばせば、この子はお前に応えていただろう」
帝 凛音「っそんなの・・・・・・俺が一番分かってる・・・・・・」
湊 月冴「『俺と騎士団は関係ない。だから、父さん達に手を出さないでくれ』」
帝 凛音「!!月・・・・・・冴・・・・・・」
セイアッド「俺を欲する者よ。俺を止めようとする者よ・・・・・・俺に望むなら、俺を捕らえて見せよ」
湊 月夜「!!待て!!!」
  騎士団長の手が届く前に、俺は魔法でこの場から離脱する。

〇空
  屋敷を抜け出し、目指すは永久の街。
セイアッド「・・・・・・すまない・・・・・・お前は望まんだろうが・・・・・・」
  ・・・・・・今なら、俺に執着した兄上様の気持ちが分かるな。
  如何に己が生んだ人格といえど、此処まで大事になるとは。
セイアッド「世界を制する・・・・・・お前が目覚める前に」

〇黒

〇洋館の玄関ホール
皇 螢「兄上!」
  末妹の声にハッとなった。
  向こうから駆け寄って来るのは、華の隊長と椿桔を連れた螢。
湊 月夜「椿桔」
椿桔「申し訳ありません、隙を突かれました。罰は幾らでも」
湊 月夜「・・・・・・もう一人は?」
椿桔「空の二人に任せてあります」
帝 凛音「・・・・・・椿桔」
  声を掛ければ、今まで見た事な程恐ろしい顔で彼は此方を見る。
椿桔「月冴様に恩がありながら、よくやってくれましたね」
帝 凛音「・・・・・・・・・・・・」

〇大樹の下
月冴「お初にお目にかかります。お、あ、私は騎士団長の息子の月冴と言います」
凛音「──第一王子の凛音だ」
月冴「よろしくお願い致します」
  騎士団長に連れられ、やって来た月冴を最初は大丈夫か?と思った。
  あの頃は本当に女の子にしか見えなかったから。
  其れでも、第一王子ってだけで俺の命を狙って来る奴等から、彼奴は見事に俺を守り切ってくれた。
  それだけじゃなくて、普通の子供の遊びを教えてくれて、一緒に遊んでくれて・・・・・・
  何時しか、親に言えなかった我儘を月冴に言っては仕方ないって感じで叶えてくれた。
  其れが、俺の心さえも守ってくれる結果になった。

〇黒

〇洋館の玄関ホール
帝 凛音「・・・・・・我が王の命には逆らえん」
  鎖の音と共に硬直する思考。
  ああ、俺は・・・・・・月冴を・・・・・・
皇 螢「兄上!月冴は僕にとっても大切なんです!だから、傷付けるなら兄上と戦います!」
  ・・・・・・こんなにも、妹が憎らしい程羨ましく思った事は無い。

〇大樹の下
  俺が第一王子じゃなければ、月冴の側に居れたのは俺だったのか?

〇洋館の玄関ホール
陽向「お兄様」
  俺の後ろに来たのは直ぐ下の妹。
  ・・・・・・俺は・・・・・・第一王子だ。
帝 凛音「・・・・・・この場は退くぞ。セイアッドを追わねば」
陽向「はいっ!」
帝 凛音「螢。お前がそちらに居るならば、王家に戻る事は許さない」
皇 螢「っ」
  弟妹を連れて、屋敷を出る。

〇大樹の下

〇睡蓮の花園
帝 凛音「・・・・・・月冴・・・・・・慎理・・・・・・」
陽向「その、お兄様・・・・・・お父様から連絡が・・・・・・」
帝 凛音「何だ?」
理仁「今度こそセイアッドを連れて来い、と」
帝 凛音「・・・・・・分かった」

〇黒
  父上の命令には逆らない。
  幼い頃から、父上の命令は絶対だ。
  其れが弟妹を護る事にもなる。
  あの人は魔術師の言いなりになっている様に見せかけて、俺が皆を率いていると国民に思わせ、自分は水面下で密かに動いていた。
  そして、今回セイアッドの捕獲に動き出した。

〇謁見の間
帝 凛音「セイアッド?」
王「伝説上で語られる弟の方だ」
帝 凛音「あの伝説が本当であると言うのですか?」
王「伝説は本当だ。我が祖先が伝説だと思わせる為に、民の生活を変えた。だが、王となる者には代々伝えられている」
帝 凛音「民の生活を?」
王「初代王はセイアッドの存在を隠す為に、名や文化を変えさせた。故に創造神と我等の名が異なるのだ」
帝 凛音「・・・・・・何故、態々隠したのです?」
王「其れはお前の知る事ではない。王族の力を使い、何としてもセイアッドを連れて来い」

〇黒
  祖先がその存在を隠した理由は何だ?
  利用した事への罪悪感?
  其れとも再度利用する為に?

〇睡蓮の花園
嘉音「兄上、何処に向かわれますか?」
帝 凛音「・・・・・・永久の街へ行こう。彼処には確かセイアッドの遺跡と彼に従う魔族が住んでいる筈だ」
璃鈴「街に襲撃を?」
帝 凛音「・・・・・・相手次第だ」
  月冴なら、反撃はしないだろう。
  だが、セイアッドからは月冴を護ろうとする意志が見えた。
  場合によっては、街の者を・・・・・・
ギュネッシ「・・・・・・手を貸してさし上げましょうか?」
「!?」
  直ぐ後ろから聞こえた声に振り返る。
帝 凛音「慎理・・・・・・いや、最高魔術師ギュネッシ殿」
  俺の言葉に慎理、基最高魔術師がニコリと笑った。
ギュネッシ「我が愛しき弟の元に行くのでしょう?」
帝 凛音「・・・・・・ええ」
ギュネッシ「なら、手を貸してさし上げましょう。貴方方に我が大いなる力を貸し与えて差し上げます」
  ・・・・・・随分上からの言葉。
帝 凛音「・・・・・・我等に手を貸す必要など無いのでは?」
ギュネッシ「貴方方では我が愛しき弟には敵いませんよ。精々惨めに返り討ちにされる程度」
帝 凛音「っ」
ギュネッシ「だから、力を貸すのです」
帝 凛音「何故其処まで?我等は王の命で貴方の弟を捕えようとしているのですよ?」
ギュネッシ「其れは私にも好都合」
ギュネッシ「・・・・・・お前達もまた私の手足。あの男は自分の血筋に呪いを掛けた。其れが私に許される唯一の手段だったから」
帝 凛音「!?」
ギュネッシ「お前達が生き残れるかどうか・・・・・・お前達王族の命は私が握っている。長生きしたくば、精々役に立つことだ」
  この男が元凶・・・・・・!
  最早最高魔術師としての顔すら脱ぎ捨てて、言われた言葉に殺意すら感じる。
  だが、其れも呪縛で絡められ、強制的に抑えられる。
ギュネッシ「さぁ、早く済ませましょう」
帝 凛音「!?」
  彼が言うと同時に彼の手から黒い光が放たれ、俺達の誕生石に収束されていった。
ギュネッシ「此れだけでも十分戦力は上がりました」
ギュネッシ「・・・・・・精々呑まれない事だ」
  呑まれる?
帝 凛音「・・・・・・・・・・・・っ」
  俺の誕生石は元々金色をしていたが・・・・・・真ん中の方が黒く染まっている。
  嫌な予感がする・・・・・・其れに、この誕生石は・・・・・・

〇大樹の下
帝 凛音「月冴、慎理、二人は成人式後の誕生石、どうするか決めたか?」
湊 月冴「いや、まだだ。俺は騎士だから、出来れば動きに制限しない・・・・・・手周りは止めておこうと思っている」
漣 慎理「僕は何処でもいいかな」
帝 凛音「なら、お揃いにしないか?」
「お揃い?」
帝 凛音「ああ。皆で同じ物にしよう・・・・・・そうだな、ペンダントとかは?」
湊 月冴「それなら・・・・・・なぁ、慎理」
漣 慎理「?」
湊 月冴「もしお前さえ良ければ、装飾の部分を作ってくれないか?」
漣 慎理「ぼ、僕が!?」
帝 凛音「それはいい!慎理はそういうの得意だからな」
漣 慎理「うぅ・・・・・・後で文句は受け付けないよ」
  この誕生石は、三人の思い出の物。

〇睡蓮の花園
  其れを穢された様な気がして、不愉快だった。
ギュネッシ「では、失礼させて貰おう」
  そして、最高魔術師は姿を消す。
帝 凛音「・・・・・・クソ野郎」
陽向「お兄様・・・・・・」
帝 凛音「行くぞ」
陽向「・・・・・・ええ」
  何故よりによって月冴と慎理だったんだ・・・・・・!

〇黒
  俺の心を見せた二人が・・・・・・

〇睡蓮の花園
帝 凛音「・・・・・・・・・・・・」
  任務は遂行する。
  だが、月冴を奴に渡さない。
  “生かして”捕えはしない。
  月冴を殺してでも解放し、その体だけ捕えて渡す。
  こればかりは・・・・・・弟妹にも伝えられないな。俺の事情に巻き込んで悪いとは思うが・・・・・・な。

〇祭祀場
セイアッド「・・・・・・・・・・・・」
  降り立ったのは、嘗て俺が拠点としていた場所。
エリック「セイアッド様?」
セイアッド「・・・・・・・・・・・・」
  声に振り返れば、嘗ての仲間の子孫らしい男が立っていた。
エリック(この空気・・・・・・間違いない、伝えられているセイアッド様ご本人だ)
セイアッド「怪我はどうだ」
エリック「ハッ、大した事ありません」
セイアッド「そうか・・・・・・直に此処に兄上様の息が掛かった者達が攻めて来る」
エリック「!!」
セイアッド「お前達が闘いに向いているとは思えない。身を隠すなら、早く隠せ」
エリック「分かりました。子供達を隠しておきます」
セイアッド「?お前達はどうする」
エリック「我々は貴方様と共に」
セイアッド「・・・・・・好きにしろ」
  頭を下げた男を見送り、遺跡と化した家に入る。
セイアッド「・・・・・・月冴」

〇水の中
  呼び掛けに応える声は聞こえない。
  今尚、彼は彼処で眠っている。
  この世界を終わらせる。お前を傷付けているこの世界を・・・・・・
  お前は俺を恨むか。お前を傷付ける原因となり、お前自身を更に追い込もうとする俺を
  もし、お前が本当に望むなら、俺はお前に───を渡す。
  其れまでゆっくり休め。
  世界は終わらせておくから。

〇綺麗な部屋
桔梗「・・・・・・あれ・・・・・・?」
帷 翡翠「!桔梗!」
空 鈴芽「起きたの・・・・・・?」
  僕、何時の間に寝ちゃったんだろ。
  其れに、どうして翡翠に抱えられてるんだろ?
帷 翡翠「大丈夫か?意識がぐらつくとかあるか?」
桔梗「ううん。ないよ」
  どうしてそんな事聞くんだろ?
  ええっと、寝ちゃう前は・・・・・・

〇綺麗な部屋
セイアッド「・・・・・・来たか」
桔梗「?どうしたの?」
セイアッド「幼きセオ、目覚めたら俺の遺跡においで。そうすれば、お前達だけでも次の世界に残せる」
桔梗「え?」
セイアッド「行かなくては、な」

〇綺麗な部屋
  そう言ってセイアッドが僕の目を覆って・・・・・・そしたら急に眠くなって・・・・・・
  椿桔達の慌てたみたいな声を聞きながら寝ちゃったんだ。
桔梗「ぁ、月冴は?」
帷 翡翠「行ったよ。どうなったかはまだ分かんねぇ」
桔梗「行った?」
  翡翠は僕を抱え直して、部屋を出た。
  僕達の後を鈴芽がついて来る。

〇洋館の玄関ホール
帷 翡翠「椿桔!」
椿桔「!翡翠、桔梗様・・・・・・」
桔梗「月冴は?」
椿桔「去られてしまいました」
  椿桔は何か耐える様な顔をした。
桔梗「椿桔・・・・・・大丈夫?」
椿桔「っ・・・・・・申し訳ありません。二度も、あの方を易々と・・・・・・」
  椿桔は月冴の事が凄く大事だから、護れなくて辛いんだろうなぁ。
  僕も、其れは同じだから。
桔梗「椿桔、あのね」
椿桔「はい」
桔梗「僕をセイアッドの遺跡に連れてって」
椿桔「セイアッドの・・・・・・?」
桔梗「うん。セイアッドがおいでって言ってた。僕はもう一度、セイアッドにも月冴にも会いたい」
椿桔「・・・・・・御意」
  椿桔が翡翠の腕から僕を抱き上げる。
桔梗「僕、自分で歩くよ」
椿桔「そうですね」
  下ろしてくれた僕の手を椿桔が握った。
椿桔「共に参りましょう」
桔梗「うん!」
帷 翡翠「俺も行くからな」
空 鈴芽「私も」
皇 螢「僕も行く。此れ以上兄上の好きにはさせない」
湊 月夜「・・・・・・劔」
梵 劔「はい?」
  月冴のお父さんが男の人を呼び寄せ、胸に何か着ける。
梵 劔「・・・・・・いや、無言で何を団長の証を着けてるんですか?」
湊 月夜「此れからはお前が騎士団長だ」
梵 劔「・・・・・・はい?」
梵 劔「いや、今では無いでしょう?何混乱を巻き起こしてるんですか!?」
湊 月夜「元々騎士団長としてはお前の方が器だった。私は嫡男で剣術がお前よりも上だから騎士団長に選ばれたに過ぎん」
  言いながら月冴のお父さんは上着を脱いだ。
梵 劔「いや、其れは今関係ない」
湊 月夜「私は此れから父親として動く。其れに騎士団長の座は重荷だ」
梵 劔「!・・・・・・本気なのですか」
湊 月夜「ああ」
梵 劔「・・・・・・だから、其処まで入れ込むなと言ったのに」
桔梗「・・・・・・?」
  入れ込むな・・・・・・?
  月冴のお父さんは何処か困った様に笑っている。
湊 月夜「其れは無理な話だ。彼女が愛したんだ」
梵 劔「・・・・・・はぁ。承知しました」
  その言葉を受けて、月冴のお父さんは僕の方に向き直った。
湊 月夜「私も共に行かせてくれ」
桔梗「は、はい」
湊 月夜「では向かおう」
  月冴のお父さんが歩き出し、僕達も其れに続く。

〇立派な洋館
湊 月夜「・・・・・・桔梗」
桔梗「はい」
湊 月夜「月冴の事を教えてくれ」
桔梗「月冴の?」
湊 月夜「ああ。旅をしている間の月冴の事を」
桔梗「・・・・・・えっとね、僕と出会ったのはお屋敷だった・・・・・・でした」
湊 月夜「敬語は要らん。其れで?」
  僕の話を聞くお父さん。
湊 月夜「そうか・・・・・・やはり、あの子はいい子に育った」
  そう呟いて、お父さんは僕の頭に手を置いた。
湊 月夜「どうか、あの子を頼む」
桔梗「え?」
椿桔「旦那様?」
湊 月夜「兎に角、行くぞ」

〇祭祀場
  月冴の為に世界を制し、壊す事を望むセイアッド。

〇豪華なベッドルーム
  そのセイアッドを欲するギュネッシ。

〇睡蓮の花園
  ギュネッシの駒として動きながらも、月冴を解放しようとする凛音。

〇草原の道
  月冴の元へ向かう桔梗達。

〇水の中
  運命が交差する。

次のエピソード:13.戦い

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