明日の天気は水龍ミズチにしました

Too Funk To Die

川裂は今日も雨だった(脚本)

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〇屋上の隅
絵師「「川裂(かわさき)市は今日も雨」、か・・・」
絵師「自分で描いててなんだけど」
絵師「本当、どんよりする天気だ」
灰塚気象予定官「今日の天気も予定どおり」
灰塚気象予定官「さすがは川裂市唯一の絵師サマじゃないか」
  後ろから現れたのは、いつも僕に「明日の天気」を伝えに来る気象予定士の灰塚だ。
絵師「明日はもっと面白い天気だと嬉しいですね」
絵師「虹の空から雹が降ってくるとか」
灰塚気象予定官「そいつは面白いが、この『天蓋都市』ではありえないな」
灰塚気象予定官「だいたい、明日の天気は今も昔もお上が決めるものと相場が決まっている」

〇東京全景
  この川裂市が「天蓋」と呼ばれるドームで覆われたのは、21世紀の中頃だと聞いている。
  度々人間を襲う自然災害──地震、津波、土砂崩れ、豪雨など──から人々を守るため、らしい。
  それで困ったのは、天気についてだ。
  代わり映えのしない人工光が続くと、人間は体調を崩す。変化が必要なのだ。
  だから天蓋に毎日天気を描く僕のような「絵師」が必要というわけだ。

〇屋上の隅
  僕の描いた通り、雨が止んだ。
灰塚気象予定官「こいつが明日の天気の指示」
  大雨のち曇り
絵師「こんな雨続きじゃ市民の気が滅入ってしまう」
灰塚気象予定官「俺に言っても仕方ねーだろ」
灰塚気象予定官「言われた通りの天気を作るのが、俺たちの仕事だ」
灰塚気象予定官「そんじゃあな」
絵師「「俺たちの」・・・か」

〇雲の上
  ──その夜、川裂市上空
絵師「・・・大雨から描くか」
  結局言われた通り、僕は絵筆を取り、大空に向かって押し当てた。
  明日の天気は、前日の夜のうちに仕込んでおく必要がある。
  気が進まないが、仕方ない。
絵師「あっ!!」
  しまった、絵筆を地上に落とした!!

〇入り組んだ路地裏
ソラ「いや!! 来ないで!!」
着ぐるみの男「もう逃げ場はないクル!!」
  ヒュウ──
着ぐるみの男「クル?」
  ゴンッ!!
着ぐるみの男「ゴブハっ!?」
  ──ドサッ
ソラ「気絶しちゃった・・・何か落ちてきた?」
ソラ「これ、絵筆・・・? もしかして・・・!!」
絵師「やばい、どこに落としたかな・・・」
絵師「あっ!? それ!!」
ソラ「ひょっとして、あなたは絵師さん?」
絵師「ど、どうしてそれを・・・?」
ソラ「お願いします絵師さん!!」
ソラ「明日の天気を・・・変えてください!!」
絵師「・・・なんだって!?」

〇雲の上
絵師「どういうことだよ、天気を変えてほしいだなんて」
  「ソラ」と名乗る彼女は、天蓋のアトリエまで強引に着いてきた。
ソラ「なんでもいいんです!!」
ソラ「明日の予定が大雨なら、晴でも曇りでも槍でも!!」
ソラ「天気を予定とは変えてください!!」
絵師「・・・決められた天気を勝手に変えるのは重罪だ」
ソラ「決められた通りの天気で、本当に良いと思いますか!?」
絵師「・・・・・・」
ソラ「雨が続いたり、晴ればかりだったり、代わり映えしない天気ばかり」
ソラ「絵師がいるのは、毎日の天気を変えることで、人間に変化を促すためなのに」
ソラ「私は人々にもっといろいろな天気を見せたいんです!!」
  少女の目には、義憤の炎が燃えている。
  なぜこの子はここまで天気にこだわるんだ・・・?
絵師「それは僕も思うけど・・・言われた通りにやるしかないじゃないか」
ソラ「あんなに綺麗な鉛白色も、言われた通りなんですか?」
絵師「────!!」
ソラ「昨日の雲はサフラン、おとといの雲は薄墨色」
ソラ「同じ雲でも、あなたは日によって描き方を変えてる」
絵師「どうしてそれを・・・!?」
  ずっと空を見続けでもしなければわからない、ささやか過ぎる違いだ。
ソラ「さあ、明日の天気を一緒に考えてください」
ソラ「言うことを聞いてくれないなら私、あなたのことを告発しちゃいますから」
  色を勝手に変えることは、市への背任だ。しかし明日の天気を変えることも同じ。
  ──彼女がここに来た時点で、僕は詰んでいたのかもしれない。

〇朝日
ソラ「なんてきれいな朝日・・・」
  大雨の予定だった天気を快晴に変えて──
  確認のため、僕たちは浜辺に来ていた。
???「やってくれたじゃねえか・・・」
灰塚気象予定官「予定通りの天気にしてりゃ、市民は悩まずに済んだというのに」
絵師「灰塚・・・!!」
  灰塚は拳銃をこちらに向けている。
灰塚気象予定官「ようやく見つけたぜ」
灰塚気象予定官「全国に曖昧な予報を流し、惑わせていた『お天気お姉さん』の一族・・・」
灰塚気象予定官「キサマがその末裔だな、天原ソラ!!」
絵師「この子が・・・?」
  かつて、お天気お姉さんとは、天気を予測し、国民に伝える巫女のような存在だったと聞く。
ソラ「先のわからない未来はそんなにいけないことですか?」
ソラ「思い通りの天気になって喜ぶことだってあるはずなのに」
灰塚気象予定官「かつて天気を思い通りにしていたキサマらが言うか!?」
ソラ「ですから、私もあなたも味わうべきなんです。思い通りにいかない苦しみを」
  バリバリバリッ!!

〇雷
  ズガァーンッ!!
灰塚気象予定官「ぐあああーー!!」

〇朝日
  ──ドサッ
絵師「今日の天気は、晴れのち落雷、です」
ソラ「すごい、時間ぴったり・・・」
絵師「予定通りの天気を描くのは得意だからな」
ソラ「さすが絵師さん!!」
???「クルルル!!」

〇朝日
「クルルルー!!」

〇朝日
絵師「何だこいつら!?」
ソラ「灰塚の私兵です。私を追ってきたのでしょう」
ソラ「でも、大丈夫ですよ」
  ドドドドドドッ!!
絵師「──えっ?」
ソラ「今日の天気は、晴れのち、落雷のち──」
ミズチ「アオーン!!」
ソラ「水龍ミズチが、降るでしょう♪」
絵師「まさか君・・・勝手に絵を描き足したのか!?」

〇幻想
  水龍は僕たちを背に乗せて、どんどん天蓋の壁へと進んでいく!!
ソラ「ねえ絵師さん、天蓋の外ってどんなお天気でしょうね?」
絵師「なにを呑気なことを・・・」
  ぼやきながらも、未知の世界への好奇心で、僕の胸は高鳴っている。

〇白
「アオーン!!」
  そしてまさに今、水龍が天蓋の壁を破壊し、僕たちを外の眩しい光が包み込んだ。
  おわり

コメント

  • とても情感豊かなファンタジーですね。世界の描写も物語も細やかな描写で。気象が定められているから”気象予定官”なのですね。”お天気お姉さん”の説明には吹きましたが。。。

  • 天気は人間が支配出来ないものだと思ってましたが、未来だとこんなふうにできるんだなぁと。
    市民にとっては支配出来ないものですが、災害が起きるよりだいぶマシな気がします。

  • 空を扱ったテーマ、私の大好きな物語でした!!
    タップノベルでここまで表現できること、勇気をもらいました🌟
    これからも素敵な物語を楽しみにしております🎶

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