リベンジ・ファイナンシャルプランナー

卜部ランドリー

読切(脚本)

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卜部ランドリー

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〇個別オフィス
叶 直樹「えっ、それってつまり・・・」
久保田「そう、君はリストラ対象だ」

〇開けた交差点
  ふぁーあ・・・
  俺は叶直樹、こう見えて一流の銀行マンだ。
  大学を卒業してから就職した北青原銀行に勤めて6年目になる。この通勤路ももうそんなに通っているのか・・・。
  いつもの道、いつもの風景。駅から出て俺の勤める北青原銀行の本店営業部に向かう。

〇大衆食堂
  その通勤路の途中に「げんき朝一食堂」という古びた建物がある。
  俺が通りかかる頃に、いつもこの店の前で掃除をしている女の子がいる。その子が見えてきたら銀行はすぐそこだ。

〇オフィスのフロア
  ガヤガヤ・・・
高橋「叶、お疲れ様」
叶 直樹「ああ、高橋か。やっと昼休憩になったな。昼飯はどこで食べるんだ?」
高橋「俺はこの銀行の近くにある「げんき朝一食堂」ってところが結構美味いって聞いたんで、そこに行ってみようかと思っているんだ」
高橋「叶も一緒にどうだ?」
叶 直樹「えー、あそこか・・・あの店、だいぶ古そうだけど大丈夫か?」
高橋「大丈夫って何がだ?」
叶 直樹「いや、その・・・清潔感とか・・・」
高橋「何言ってんだ、ああいう昔から続いている店の方が美味かったりするんだよ」
叶 直樹「そうか。俺はパスしておくよ」
久保田「叶君、少しいいかね?」
叶 直樹「あ、久保田主任。お疲れ様です。どうかしましたか?」
久保田「うん、叶君に話があるんだ。昼食後にいいかね?」
  俺に話?何だろう・・・

〇個別オフィス
「失礼します。叶です」
久保田「うむ、入りたまえ」
叶 直樹「はい。それで、話というのは・・・」
久保田「叶君、結論から言おう。現在この北青原銀行では人員整理を行なっている。社内協議の結果、君に退職をお願いしたい」
叶 直樹「えっ、それってつまり・・・」
久保田「そう、君はリストラ対象だ」

〇雑踏
  ・・・それからの俺はどうしていたか覚えていない。気がついたら退社時刻になっていて、茫然自失で帰路についていた。
  俺が・・・リストラ・・・
  こんなに真面目に働いていたのに・・・そんな・・・

〇大衆食堂
「あっ!お兄さんごめん!」
  そう言う声と共に、足に何かかかる感触がした。
  足元を見ると、スラックスの裾が濡れている。水がかかったようだ。
  声のした方を見ると、いつも朝に食堂の前の掃除をしている女の子がいた。手には水の入ったバケツと手尺を持っている。
日向 あかり「ちょっと濡れちゃったみたいだね、大丈夫?」
叶 直樹「・・・・・・じゃねえ」
日向 あかり「え?」
叶 直樹「大丈夫じゃねえ!」
叶 直樹「俺は銀行マンだぞ!こんな格好で客の前に出られるか!」
日向 あかり「銀行マンってことは・・・もう仕事終わってるじゃない。謝ったし、そんなに怒らなくても・・・」
日向 豪一「どうしたんだい?」
日向 あかり「あ、お父さん。私が打ち水をこの人にかけてしまったの」
日向 豪一「おや、それは申し訳ない。この通り」
  そう言ってその男性は頭を下げた。
日向 豪一「店を開ける前ですし、良かったらそのズボンを乾かしましょうか。乾かしている間にうちの飯でも食べていってください」
  そう男性が言った時、俺の腹がグゥ〜っと大きく鳴った。

〇牛丼屋の店内
  店の中は古びた感じはするものの、掃除は行き届いているようだった。
  この店に入るのは初めてだな・・・。こんな店だったのか。
  トイレで貸してもらったスウェットに着替えた俺は、店のカウンターに腰掛ける。
  すかさず娘さんがよく冷えたお冷と温かいおしぼりを持ってきてくれた。冷たい水が美味しい・・・。
日向 あかり「メニューは何にしますか?今なら出来立ての豚汁が食べられますよ」
叶 直樹「じゃあ、それで」
日向 あかり「はいよー。豚汁一丁ー」
  しかし・・・妙なことになったな。俺はぐるっと店内を見回す。
  店の半分はカウンター式の席、もう半分は座卓になっていて、どちらも年季の入った感じだ。
  壁の上に取り付けられて夕方のニュースを流しているテレビだけが新しい。
日向 あかり「はい、豚汁定食お待ちー。熱いから気をつけてね」
  そう言って娘さんが定食を運んできた。白く輝く炊き立てのご飯に、黄色のたくあんと丼程の器に入った豚汁が付いている。
  俺はまず並々と注がれた豚汁をすする。豚肉の旨みと野菜の甘み、それにホッとする味噌の味に懐かしさを感じる。
  考えてみれば、こんな食事を摂るのはいつぶりだろうか・・・。就職してからは仕事に明け暮れて一度も実家に帰っていなかった。
  それなのに・・・リストラ・・・
日向 あかり「ちょ、ちょっとお兄さん!どうしたの?」
  娘さんがそう言って新しいおしぼりを持ってきた。
叶 直樹「え?」
日向 あかり「お兄さん、泣いてるよ?」
  娘さんにそう言われて自分の頬に触れてみると、本当に涙で濡れた感触がした。
叶 直樹「・・・いや、何でもない」
  そう言って娘さんからおしぼりを受け取り、頬を拭う。
日向 あかり「もう、男の人はすぐそうやって格好つけるんだから。仕事で嫌なことがあったんじゃないの?」
叶 直樹「何で分かるんだ?」
日向 あかり「ふふーん。この食堂に来るお客さんは色んな人がいるからね。見てるうちに何となく分かるようになっちゃった」
  その時、店の奥からこの店の奥さんらしい人が綺麗になった俺のスラックスを持って出てきた。
日向 さゆり「まあそれもいつまで見ていられるか分からないんですけれどね」
叶 直樹「え?どういうことですか?」
日向 さゆり「もしかしたら店を畳むことになるかもしれないんですよ。この一帯の土地を開発しようって動きがあるらしくて」
日向 あかり「お母さん、それはお客さんにする話じゃないよ」
日向 さゆり「そうですね、ごめんなさい」
叶 直樹「そんな・・・」
  俺は同僚の高橋の言っていたことを思い出していた。昔から続いている店の方が美味い・・・
日向 豪一「まあここは場所も良いしな。そういう話が出てきてもおかしくはない」
日向 あかり「もう、お父さんまで・・・」
日向 豪一「でもまあ、出来るなら今まで通りこの店をやっていきたいなあ・・・」
  それを聞いて俺の中でひとつの考えが固まってきた。
叶 直樹「あの、ご主人だけでなく皆さんこのお店を続けていきたいんですか?」
日向 あかり「? ええ・・・」
日向 豪一「そりゃそうだよ。色んな思い出が詰まった場所だもの」
叶 直樹「それなら・・・俺にこの店をファイナンシャルプランニングさせてください!」
日向 豪一「ファイナンシャル・・・」
日向 あかり「・・・プランニング?何それ?」

コメント

  • 主人公がリストラを突きつけられたシーンから、なんとも暗く侘びしい雰囲気だったのが、食堂で豚汁を食べたあたりからストーリーが柔らかく温もりを感じるところがすごく良かったです。

  • 登場人物が魅力的なので、叶がファイナンシャルプランナーとしての手腕を発揮して食堂を救う過程や、あかりといい仲になっていく様子、最後にリストラした銀行に一矢報いる、なんてところまで連続物の長編で見たかったです。

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