明日への祈り(脚本)
〇洞窟の深部
俺「本当に、よろしいのでしょうか」
ろうそくの炎のみが光源の、薄暗い洞窟の中で、背筋を伸ばした背中に問う。
俺「本当に、明日、子どもたちを全員殺すおつもりですか」
上司「仕方ない」
上司「明日、1人残らず殺す。1人も残してはならない。絶対に、だ」
俺「・・・人の命です。私たちが勝手に奪ってはなりません」
上司「・・・・・・下がれ」
俺が反論しようとした雰囲気を察してか、上司は振り向きざまに銃を向けた。
俺は何も言えず、ただ頭を下げて洞窟の外へ向かった。
俺(元々はこんな人じゃなかったし、こんな国じゃなかったのに)
強い後悔の中で、尊敬する上司と、好きだった国が変貌していく様子を思い出していた。
〇壁
きっかけは、俺の国の住民が、アステリ国の唯一の特産品である小麦を盗んだことだった。
軍は一度も対話に応じることなく、アステリ国へ兵隊を派遣した。
上司「今までの小さなトラブルとか、溜まりに溜まった鬱憤が爆発したのだろうな」
俺「お止めすることはできなかったのですか」
上司「指揮官の親父は、一度決めたら話を聞いてくれない。何度も交渉したが、ダメだった。せめて子どもたちの命は救いたい」
そして、アステリ国はあっさり軍に支配され、
医者や教師たちは、全員殺された。
俺「どうして殺したんだ!僕たちは何も悪いことをしていない!」
指揮官「何か、文句でもあるか。口答えしたら、わかってるな」
指揮官は住民を脅しながら、軍が作った建物に住まわせ、働かせた
しかしある日、事件が起きた。
後輩「指揮官!大人が1人、脱走しようとしています!」
指揮官「早く捕まえろ。そして、大人たちには罰を与えないといけないな」
そして、子どもたちが寝静まった夜、15才以上の住民は静かに殺された。
どうやって殺したのかはわからないが、死体がそのまま建物の周りに放置されていることは、知っている。
土葬するのを面倒臭がったのだろう。
あまりの悲惨さに、自殺しようか軍から抜け出すかで迷ったときに、指揮官が亡くなった。
空いた指揮官の席が、上司に回ってきた。
そして、指揮官になって一週間が経った頃、”子どもたちを全員殺す”と言った。
〇地下室
それで、今日に至る。
俺は洞窟を出て、子どもたちが収容されている建物に向かう。
俺(年上の2人は、俺たちのしたことを全部わかっているのかもしれない)
俺「全員そろっているか? 今日も、昨日と同じ作業をやってくれ」
「わかりました」
俺(まさか、自分たちが死ぬ前日、なんて思ってもいないだろうな・・・)
〇洞窟の深部
そして、夜。
俺は再度、説得を試みる。
俺「子どもたちだけはどうか、助けてやりませんか」
上司「またその話か」
俺「子どもたちを殺すと、我々を非難するものはいません。また、将来同じことが起きてしまいます」
上司「この国には、教師も医者も、親もいない。生き残っても悲しいだけだ」
俺「それは彼らが感じ、決めることです。彼らを生かし、育てることが、我々にできることではないでしょうか」
上司「この国は比較的発展が遅れている。生き残って他の国へ行っても、差別されるかも知れん」
俺「子どもたちの命を助けたい、とおっしゃってたじゃないですか。そのことをお忘れですか」
俺「・・・俺は短い間でしたが、教師をしていました。勉学なら、俺が教えます。医者も、軍医がいます」
上司「・・・・・・ふぅ。 歴史に残る日の前日として、祝杯でもあげるか?」
遠慮しておきます、と吐き捨てて俺は洞窟を出る。
上司「おい、待て」
そう言って、上司は俺にスコップを渡す。俺は意味を察して、上司と共に、あの建物へと向かった。
〇海沿いの街
女の子「ねえ!ねえ!明日の、星の日ってなあに?」
男性「お父さんが子どものとき、この国では悲しいことがあってね。たくさんの人が亡くなたんだ」
女の子「え、そうなの??」
女性「そうだよ。でもね、お隣の軍が、お父さんとお母さん、そしてお母さんのお友達たちを助けてくれたの」
女性「それに、学校や病院まで作ってくれた。怖くて悲しい時代を、終わらせてくれたのよ」
男性「それで、あんなに痛ましいことを二度と起こさない、という誓いと、亡くなった方へお祈りするために、」
男性「全部の建物の電気を消して、お星さまを眺めるんだよ」
女の子「どうして、明日なの?」
女性「20年前の明日、私たちが助かったから。ずっと牢屋みたいなところで働かされてたのよ。そこから解放された」
女の子「そっか。だから、みんな色々準備してたんだね」
男性「この国のこと、ちょっと怖いかい?」
女の子「んー、わからない」
女の子「でも、私はお父さんとお母さんのところに生まれてきて、よかったよ!」
男性「そうか。こちらこそ、ありがとう」
盗み聞きしたかったわけではない。偶然、居合わせただけだ。
笑っている3人の顔を見ようとしたが、涙で前が見えなかった。
いつから、涙もろくなったのだろう、俺は。
今も悲しい出来事が世界で起こっていますが、こんな悲しいことがない世の中になってほしいものです。
みんなが軍司さんのような優しい考えを持っていればいいのになあ。
歴史は繰り返す、だから生き証人は絶対必要。この正義感のある軍司のような存在が、どの時代でもどの国にも存在すると信じたいです。
あの日の子どもたちが助かって、あのときのような出来事がもう2度と起こらないように伝えていく場面が見られてよかったです。
日本でも戦後同じように語り継がれていましたが、今は戦時中に生きていた方はもうほとんどおられない。それでもなお、私自身も自分の子どもたちに、祖父祖母からきいた話を語りついで、平和への願いを繋いでいます。