隠された二人

三波喜田

エピソード1(脚本)

隠された二人

三波喜田

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〇古いアパートの部屋
岸田 幸恵「行ってきまーす!」
母「はーい行ってらっしゃーい!」
岸田 幸恵「お母さん 行ってきますのチューする?」
母「ふふっ、早く行きなさいってば」
岸田 幸恵「はーい! じゃ、行ってきまーす!」
岸田 政幸「ふわぁぁ・・・・・・ でっかい声だな・・・」
母「おはよう政幸 また幸恵が出掛ける声でお目覚め?」
岸田 政幸「おやすみ・・・」
母「早く起きなさいっての 今日、日直なんでしょ?」
岸田 政幸「あーそうだったっけ・・・」

〇古いアパートの部屋
母「ご飯、美味しい?」
岸田 政幸「眠い・・・」
母「まったく・・・ 幸恵みたいに早起きしてくれると お母さん嬉しいのになぁ」
岸田 政幸「ギリギリまで寝ないと損だろ」
母「早起きは特をするものでしょ!」
岸田 政幸「あんなふうに遊び行くテンションで 学校行く奴なんてあいつだけだって」
母「もう・・・昔は片方起きれば もう片方も起きて面倒だったくらいなのに」
岸田 政幸「やっぱり双子って 連鎖泣き赤ちゃんだったり?」
母「そりゃあもう・・・ 私まで泣いちゃうくらいで」
岸田 政幸「ごちそうさま。 行ってきます」
母「え~? ここからの話が面白いのに」
母「これ持ってって 幸恵の」
岸田 政幸「は? また忘れてったの?」
母「うん、お願い」
岸田 政幸「幸恵の教室行くの嫌なんだけど・・・」
母「え? なんで?」
岸田 政幸「・・・なんとなく」
母「必ず届けてね?」
岸田 政幸「・・・」

〇学校の廊下
岸田 政幸「幸恵の教室は、この先の・・・ ここだ」
岸田 政幸「えーっと、幸恵は・・・」
柏田 凜「あ、政幸くんだヤッホヤッホ~!」
岸田 政幸「あ、どうも・・・」
柏田 凜「また幸恵のお弁当?」
岸田 政幸「・・・まあ、はい」
柏田 凜「そっか~。幸恵トイレ行ってて 私預かっとこうか?」
岸田 政幸「え? あー・・・」
柏田 凜「こういう所って居づらいでしょ?」
岸田 政幸「・・・じゃあ、お願いします」
柏田 凜「いいのかな~? 私が勝手に食べちゃうかもよ~?」
岸田 政幸「え? ・・・まあ、それでもいいですけど」
柏田 凜「あらま、そうきちゃう?」
柏田 凜「どうしよ~ 二人分食べたら太っちゃうなぁ~」
岸田 幸恵「・・・あれ? 政幸なんでいるの?」
岸田 政幸「・・・ほらよ、弁当」
岸田 幸恵「あー私またやっちゃってた?」
岸田 政幸「次忘れたら もう届けないからな」
岸田 幸恵「お、先輩に向かってなんだ その口の利き方は~?」
柏田 凜「幸恵、いい加減にしなよ 弟くんのことも考えてあげなって」
柏田 凜「校舎の上級生エリアが後輩にとって どんな居心地か考えればわかるでしょ?」
岸田 幸恵「いや、後輩っていったって、 生まれたときに日が変わってただけだよ?」
岸田 幸恵「なのに後輩面してくれちゃって むしろ私が後輩になりたかったし!」
岸田 幸恵「政幸、ジュース買ってこいよ」
岸田 政幸「この中学ジュース売ってないし・・・」
柏田 凜「ふふっ、幸恵が先輩面しちゃってる」
岸田 幸恵「あらホント、驚き」
岸田 政幸「・・・じゃあ俺、日直だから」
岸田 幸恵「ほーい、今日もありがとね~」
柏田 凜「やっぱイイなぁ~、双子で学年違うって」
岸田 幸恵「・・・どうなんだろ? 変な感じだけどね」
柏田 凜「絶対いいよ~。双子ってだけですごいのに 4月1日と2日生まれで 学年まで違うんだから」
岸田 幸恵「うーん・・・まあそうなのかなー・・・」

〇線路沿いの道
岸田 幸恵「おかーさん抱っこ!」
母「ごめんね 寝ちゃってる政幸抱っこしてるから 二人はちょっと・・・」
岸田 幸恵「そっかー、こんな時・・・ おとーさんがいればいいのに・・・」
岸田 幸恵「おかーさん どーしてウチにはおとーさんはいないの?」
母「えーっと・・・それは・・・」
母「お父さんはね 二人が生まれる前に天国へ行っちゃったの」
岸田 幸恵「・・・そっか」

〇古いアパートの部屋
母「ねーんねーん、ころーりーよ~」
岸田 政幸「もう、食べれないよ・・・」
母「定番な寝言いっちゃって・・・ ら抜き言葉はいけませんよ~」
岸田 幸恵「おかーさん! おかーさんと一緒に写ってる この写真の人だーれ!?」
母「へ? あー、それ見つけちゃったの・・・」
母「その写真の人は・・・」
母「ふたりのお父さんだよ」
岸田 幸恵「そーなんだー!」
岸田 幸恵「そっかー、この人がお母さんかー!」

〇商店街
母「晩ご飯、何がいい?」
岸田 政幸「ひつじ」
母「・・・ジンギスカンがいいってこと?」
岸田 政幸「オモチャ屋のひつじ、寝てる・・・ いいなぁ・・・」
母「あ、お店にある ぬいぐるみのこと・・・」
岸田 幸恵「お、おおおおかーさん! 電気屋さんのテレビ見て!」
岸田 幸恵「おとーさんとソックリな人出てる!」
母「え・・・」
岸田 幸恵「なんで! どーしてこっかいちゅーけいに出てるの!?」
母「あ、あー、それはねー、えーっと・・・」
岸田 政幸「ふたご・・・?」
母「そ、そう! 二人と一緒で双子なの!」
岸田 幸恵「そっか、双子なのかぁ~ そっかそっかぁ~」

〇古いアパートの部屋
岸田 幸恵「お母さん・・・国会中継がレコーダーに 大量保存されてるんだけど、なんで?」
母「え? あー、間違っちゃって・・・?」
岸田 幸恵「間違って? でも、お父さんそっくりの人の部分だけ 綺麗にまとめられてるけど・・・」
母「・・・」
岸田 幸恵「お母さん・・・寂しいの? 死んだお父さんに会いたいの?」
岸田 幸恵「それで・・・」
母「うぅぅ、胸が痛い・・・もう限界!」
母「あのね、幸恵・・・」

〇教室
岸田 政幸「黒板に明日の日付を書いて・・・」
岸田 政幸「これで日直の仕事は全部終わり、と」
岸田 幸恵「それじゃあ帰ろっか」
岸田 政幸「うん」
岸田 政幸「って、うわぁぁっ!」
岸田 幸恵「うわびっくりしたぁ~ 急に大声出さないでってば」
岸田 政幸「おい、教室来るなって いつも言ってるだろ! 一人で帰れって!」
岸田 幸恵「いいじゃ~ん なに、思春期か~?」
岸田 政幸「・・・」
岸田 幸恵「あ、待ってってば~」

〇線路沿いの道
岸田 政幸「ついてくるな」
岸田 幸恵「反抗期きちゃったの~? ヤダ私ですらまだなのにぃ」
岸田 政幸「ついてくるなっての!」
岸田 幸恵「政幸が私の前を歩いてるんでしょ~」
母「あ、政幸。幸恵もいる? 今日は二人で帰ってるの?」
母「あらら、行っちゃった・・・」
母「ケンカでもしたの?」
岸田 幸恵「反抗期みたいだよ」
母「もうそういうお年頃か~」
母「その内『うっせーババア!』とか 言われちゃうのかな~?」
岸田 幸恵「かもしれないね」
母「それじゃあ幸恵 買い物袋を持ってくれる?」
岸田 幸恵「ほいほーい」
岸田 幸恵「何買ったの~? 中身はなんでしょね~」
岸田 幸恵「こ、これは・・・!」
岸田 幸恵「政幸~! お前の好きな アイスミルクがあるぞ!」
岸田 幸恵「アイスクリームじゃなくて アイスミルクだぞ!」
岸田 幸恵「憧れの下校中買い食いが 合法的にできるぞー!」
岸田 政幸「・・・ちょうだい」
岸田 幸恵「は? 嘘だけど?」
岸田 政幸「おい・・・」
岸田 幸恵「ほら私って4月1日生まれじゃん? だからいつでも嘘ついていい権利があんの」
岸田 政幸「・・・この泥棒が」
岸田 幸恵「えー! 嘘ついて泥棒始まるどころか もう泥棒なっちゃったの!」
岸田 幸恵「きゃー! ルパン弱酸星人になっちゃう~!」
母「二人の会話についていけない・・・ なんで双子ってこうなの・・・」

〇古いアパートの部屋
岸田 幸恵「じゃんけんポーン!」
岸田 政幸「くっ、俺の勝ち・・・」
母「今日は政幸が真ん中のお布団! おめでと~!」
母「うふふっ、政幸ったら両手に花」
岸田 幸恵「政幸よかったね~」
岸田 政幸「別に・・・」
岸田 幸恵「ま、片っぽの花は ドライフラワーみたいなもんだけどね」
母「え・・・どういうこと?」
岸田 幸恵「ねえお母さん 寝る前にテレビ見たいんだけどいい?」
母「う、うん・・・夜更かししない程度なら」

〇荒廃した国会議事堂の大講堂
国会議員A「総理、わかっているのですが?」
国会議員A「これでは税金をただ無駄するだけですよ」
国会議員A「総理として 人として恥ずかしくないのですか!」

〇古いアパートの部屋
岸田 幸恵「・・・」
岸田 政幸「最近、寝る前にニュース番組見てるけど なんで?」
母「さ、さあ・・・」
岸田 幸恵「ねえ政幸、 人として恥ずかしい税金の使い方って なんだと思う?」
岸田 政幸「は? 別に、そんなの どうでもいいけど・・・」
岸田 幸恵「私はさあ、隠し子に養育費を 払ってることが一番キツイと思うんだよね」
岸田 政幸「隠し子? 急にどうした?」
岸田 幸恵「だって隠し子いるとか議員として というか人としてアウトだと思わない?」
岸田 幸恵「しかも隠し子一家は何もせず税金で 暮らしてるわけだし、 それって完全にムダ金だよ」
岸田 幸恵「そもそも、双子だからって おろしてと頼めなかったなんてアホだよね」
岸田 政幸「さ、さっきから何言ってるんだ?」
母「幸恵、そろそろ寝ましょ?」
岸田 幸恵「うっせーババア!!」
母「バっ──」
岸田 政幸「ど、どうした幸恵・・・? 反抗期か?」
岸田 幸恵「よく聞け政幸、私たちは・・・」
母「幸恵、やめなさい!」
岸田 幸恵「うるさーい!」
岸田 幸恵「私達はなあ、 あの国会議員の隠し子なんだー!」
岸田 幸恵「国民の血税で暮らしてるんだあぁぁあ!!!!」
岸田 政幸「え・・・」
母「・・・」
岸田 幸恵「はぁ~すっきりした! めでたく政幸が 反抗期になったみたいだし、 私も今日から反抗期解禁!」
岸田 幸恵「お弁当いらないからね~」
岸田 幸恵「じゃ、明日もとっとと家から出て 学校行くんで」
岸田 幸恵「おやすみ~」
岸田 政幸「・・・あ、あのさぁ」
母「・・・」
岸田 政幸「本当、なんだな・・・」

コメント

  • 幸恵が「議員が自分たちに支払う養育費は税金の無駄遣い」と一刀両断したのは、正論だけれど切ない。大人の勝手な都合が子供たち自身の存在意義やアイディンティティを危ういものにすることがあるんですね。一筋縄ではいかない複雑なお話でした。

  • やっぱり本当の親子だと肌でこの人がお父さんだと感じるんでしょうね。彼女達の母親は大変な思いで2人を産み育てたんですね・・。早く2人の反抗期が過ぎるといいですね。

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