終わりの前日

砂糖のカタマリ

終わりの前日譚(脚本)

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〇教室
  ──キーンコーンカーンコーン
  いつも通りに朝のチャイムが鳴り、俺は自分の席につく。
  不気味なほどに静かな教室。
  いつも騒がしいクラスメートも、担任の数学教師も、ここにはもう誰もいない。
彼女「ギリギリセーフ!!!」
俺「いや普通にアウトだろ」
彼女「えぇ!?」
  俺と彼女以外は。
彼女「ごめんごめん!今日寝坊しちゃってさー」
俺「ったく・・・・・・今日の1限目はお前の番だろ」
彼女「わかってるよー」
彼女「もう・・・・・・君っていっつもせっかちだよねー」
俺「いいからさっさと授業始めろよ」
  少し不満そうな顔をしながら荷物を席に置き、彼女は教壇へと上がっていく。
  そしてこちらを振り返り、いつものような笑顔で、
彼女「それでは授業を始めます!」
  彼女は得意気にそう言った。

〇高い屋上
  昼食の最中、彼女は唐突に切り出した。
彼女「ねぇ、あのさ」
俺「ん?」
彼女「海見に行かない?」
俺「・・・・・・・・・・・・」
俺「は?」
彼女「だからさ、『海を見に行かない?』って言ったんだけど」
俺「いや、別に聞こえなかったとかそういうことじゃなくて」
俺「海ってあの海か?あの『広いな大きいな』のやつ?」
彼女「それ以外に何があるの?」
俺「一応理由を聞いてやる」
彼女「ほら、私って昔から都会っ子だったから、海って見たことないんだよね」
俺「ふむ。それで?」
彼女「以上です」
俺「以上!?」
彼女「うん」
俺「『うん』って・・・学校はどうすんだよ」
俺「言っとくけど、明日は別に休日でも祝日でもないからな」
彼女「んー・・・」
彼女「まあいいんじゃないかな!」
俺「えぇ・・・」
彼女「一度きりの人生、楽しまなきゃ絶対損だよ!」
彼女「だから海行こ!ね!」
俺「『ね!』で押し切る気かよ!」
  彼女の気まぐれは何も今に始まったことじゃない。
  俺が今ここにいることだって、その"気まぐれ"のせいだ。
彼女「海を見に行ってー、それからー・・・」
彼女「あ!夜は星を見るの!」
彼女「素敵だと思わない?」
俺「ハイハイソウデスネ」
彼女「もー!ちゃんと聞いてよー!」
  ・・・けれど、嫌々って訳でもない。
  俺も好きで彼女と共にいる。
  彼女はどうなのだろう?
彼女「それで星を見て・・・その後・・・」
俺「で?海ってどこの海に行くんだよ」
彼女「え?」
俺「それにどうやって?」
俺「電車なんか動いて無いのに、どうやって海まで行くつもりなんだよ」
彼女「そ、それは・・・・・・」
俺「はぁ・・・・・・」
俺「何も考えてなかったんだな」
彼女「うぅ・・・・・・」
  今にも泣きそうな顔で凹む彼女。
彼女「やっぱり無理なのかな・・・」
俺「そんな目で見るなよ」
彼女「・・・・・・一回でいいから」
彼女「一回でいいから君と海を見てみたかったのに」
彼女「できないのかなぁ・・・」
俺「・・・・・・・・・・・・」
  本当に、仕方ない奴だ。
俺「別に、できないことじゃないだろ」
彼女「え?」
俺「俺の知ってる場所、海もあるし夜は星も見える」
俺「ちょっと遠いけど自転車で行けないこともない」
彼女「〜〜〜!!!」
  はは、面白いくらい笑顔になった
俺(本当、仕方ないな・・・俺って奴は)
彼女「やったあああ!!!」
彼女「さすが君だね!ありがとう!」
  いつも彼女に振り回されっぱなしだ。
彼女「それじゃあ行こっか!」
俺「・・・・・・・・・・・・」
俺「今から!?」
彼女「思い立ったが吉日だよ!」
彼女「それにそこまで行くのに時間がかかるんでしょ?」
彼女「なら尚更早く行かなきゃ!」
俺「でもまだ午後の授業が──」
彼女「早退しまーす!」
俺「お・・・」
俺「お前なあああ!!!」
彼女「あははははは!」
  そして俺達は誰もいない学校を早退し、自転車で旅出った。

〇開けた交差点
彼女「ねぇ!二人乗りしよ?」
俺「いいけど・・・」
俺「落ちるなよ?」
彼女「大丈夫大丈夫!」
彼女「ほら!じゃあ私の後ろに乗って!」
俺「お前が漕ぐのかよ!」
  海を目指す、彼女との小旅行。
  最初で最後の、旅。
  空を見上げれば、雲ひとつない青空の中に一つの星が見える。
彼女「・・・・・・」
俺「やっぱり、変な感じがするよな」
彼女「うん、まだ信じられないよ」
  明日、あの星が俺達に向かって落ちてくる。
俺「『思い立ったが吉日』だろ?」
俺「悩んでる暇はないみたいだな」
彼女「・・・うん」
彼女「君の言うとおりだね!」
  そう明るく振る舞う彼女は
  少しだけ、震えていた。
彼女「それじゃあいっくよーーー!!!」
俺「結局お前が自転車漕ぐのかよ!!!」
  そうして俺達は出発した。
  世界の終わりの前日に。

コメント

  • 読んでいて違和感を覚えることばかりの”日常”風景、それが明らかになることでの切なさ、寂しさ、そして2人きりのトキメキが襲ってきました。素敵な物語ですね。

  • 終末のもの悲しさを感じる作品でした。
    彼女の明るい言動が、それをさらに加速させてるんですよね。
    最後まで明るい彼女と彼は、無事海を見られたんでしょうか…。

  • 砂糖のかたまり氏が描くキュンな作品でした。星が落ちてくる前に甘酸っぱい青春を二人乗りの自転車で駆け抜けていって欲しいです!

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