カウントダウン

樹木義記

カウントダウン(脚本)

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〇簡素な一人部屋
  ピッ
  表示された数字を見てタケルはため息をついた。
タケル「何回測ってもダメか・・・」
  36.6℃
  手に持った体温計がひどく無情に感じる。
  せめて熱でもでれば・・・。
  そう考えていろいろやった。

〇裏通りの階段
  雪がチラつく寒空の下、薄着で外に立った。
  寒すぎてすぐシャワー浴びたけど。

〇清潔な浴室
  冷たいシャワーも浴びた。
  実際はぬるま湯だったけど。

〇簡素な一人部屋
  寝るときは布団をかけずに・・・
  毛布にくるまったけど。

〇簡素な一人部屋
タケル「はぁぁぁぁぁ」
  タケルは自分の意志の弱さが嫌になった。
  すぐ諦めるならやらなきゃよかった。
サヤ「まだ悩んでるの?」
  ふいに声がして、タケルは顔をあげた。
  いつの間にか、妹のサヤが立っていた。
サヤ「相変わらずヘタレだね~」
  サヤは呆れながらバカにしてくる。
  しかしタケルは何も言わずにまた下を向いた。
サヤ「あれ?無反応?」
  サヤはタケルの顔を覗き込んでくる。
  そんな妹がかわいすぎて思わず顔をそらす・・・
  ことはなく、タケルはじっと俯いたままだった。
  昨日まではこんなサヤの行動に苛立って部屋から追い出していた。
  しかし、今はもうそんな余裕すらない。
タケル「明日だからな・・・」
  そう呟くと、急に実感が湧いてきてタケルは思わず身震いした。
タケル「あー何でこんなことになっちゃったんだろうなぁ」
タケル「いや、そもそも何でYouTubeなんて始めちゃったかな」
サヤ「YouTubeはユーキくんが言い出したんだよ」
サヤ「でもお兄ちゃんだって楽しかったでしょ?」
タケル「そりゃ楽しかったし、これからだって楽しいと思うよ」
サヤ「じゃあ問題ないじゃん」
タケル「楽しいのとこれはちょっと違うだろ」
サヤ「そうかもしれないけど、もう始まるんだよ」
サヤ「あと12時間で」

〇田舎の公園
  12時間。
  明日へのカウントダウンは10年前から始まった。
  幼馴染のユーキとオレ、たまにサヤ。
  3人で始めたYouTubeは、世界を滅ぼそうとする魔王と魔王を倒そうとする勇者のチャンネルだった。
  ふざけてはじめたつもりだったが、いつしか本物になった。
  平凡な小学生がなぜ魔王になるのか。
  親友はなぜ勇者になり魔王を倒しに行くのか。
  10年間かけて、少年が魔王になっていく様子と、変わっていく親友を見て苦悩する勇者の様子を配信してきた。

〇SNSの画面
  オレたちのチャンネルはどんどん人気になっていった。
  だからこそと言うべきか、コメント欄は応援以上に誹謗中傷が溢れ、常に荒れていた。
  家を調べられ、落書きされたりガラスを割られたりすることもあった。
  アカウント情報は盗まれ、家や学校などのプライベートも勝手に配信されていた。

〇赤(ダーク)
  そしてサヤの体が大人びてきたある日、事件は起こった。
  勝手に始められたライブ配信で、サヤはマスクをつけた男たちから乱暴された。
  ネタだとでも思ったのか、人の不幸が楽しいのか、視聴者は大喜びだった。
  許せなかった。
  何もかもが許せなかった。
  部屋に駆け込んだオレの両手は、血で染まった。
  ユーキに止められたけれど、オレは足りなかった。だってこんなヤツら、この世にいらないだろう?

〇炎
  やがて魔王という存在がリアルになってくると、人々は恐怖を感じ始めた。
  恐怖に怯えた人々は、夜中に集団で家に侵入し、両親を殺して家に火をつけた。
  ユーキの家にいたオレとサヤは急いで駆け付けたが、燃え上がる炎に立ち尽くすしかなかった。
  その様子はライブ配信され、燃え上がる炎に視聴者は歓喜した。
  怒りで我を忘れたオレは、そいつらを殺したんだと思う。
  記憶が曖昧だけれど、あの時はユーキが止めに入っても止まらなかった。
  止まれなかった。
  痛む拳と目の前に広がる血の海。
  ピクリとも動かない男たちを見下ろしていると、遠くからサイレンの音が聞こえた。
ユーキ「・・・行け」
  ユーキとはそれっきりだ。
  オレはサヤとこの城に住みだした。
  この魔王の城に。

〇簡素な一人部屋
サヤ「わたしたち、ユーキくんに倒されちゃうのかな?」
サヤ「それとも、お兄ちゃんがユーキくんを倒して世界を滅亡させるのかな?」
タケル「・・・さあな」
  魔王であるオレと、妹のサヤ。
  勇者であるユーキ。
  3人の結末は決まっていない。
  ただ明日、魔王の前に勇者が立ちはだかる。
  それだけは決まっている。
  その為のカウントダウン。
  明日になればすべてが終わる。
  終わる?
  本当に明日で終わるのか?
  この10年間の物語が。
  それとも、この10年は単なる序章に過ぎないのか。
  人々が配信開始を待っている。
  熱でもでれば延期できるかと思ったけれど、どうやら無理そうだ。
  ただ見て好き勝手言ってるだけのやつらなんて、どうなったって構わない。
  オレやサヤに手を出してくるヤツらは殺してやる。
  サヤが傷つけられ、両親が殺されたのを見て喜んでいたヤツらを許すつもりもない。
  そこに迷いはない。
  ユーキと戦うのは正直、楽しみだ。
  戦うためにこのYouTubeを始めたのだから。
  ただ、ユーキを殺したくはないし、殺されたくもない。
  サヤだって守りたい。
  その方法が見つからない。
  終わり方がわからない。
  それだけが憂鬱だ。
  どんなに悩んでも、物語の結末はわからない。これから作るしかないのだから。
タケル「悩んでてもしょうがないな」
  タケルはそう呟き、ユーキを迎える準備を始めた。
  全ては明日・・・。

コメント

  • 仲良しではじめたことだったのに、こんなことになるとは悲しいですね。彼は特にやるせなさを感じているようなので、まわりの人間や視聴者の予定外の介入のよってどんどん望まない結果にはまっていってしまったんでしょうね。

  • 最初はごっこ遊びだったはずなのに、だんだんと本物に近づいていくところに恐ろしさを感じます。
    その後どうなるのか?の余韻を残したラストでしたが、そこが良かった気がします。

  • 10年かけた物語が終わるのか、新たに始まるのか…
    人が魔王になる過程で、誰もが魔王にも、勇者にもなりえるのでは?と思った。

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