第一回『聖杯伝説』(脚本)
〇映画館のロビー
塩田運平「ワクワクするな 上映前のこの空気!」
塩田運平「それも家族揃っての映画なんて」
塩田運平「な? 子供たちよ」
塩田フィルム「全然」
塩田メグ「メグ眠い 寝ちゃうと思う」
塩田つゆり「その「子供たち」って、私も含まれてますか?」
塩田つゆり「でしたら こうした映画は興味ありませんので」
塩田運平「まゆらさん、ぼくらの子供たちが反抗期だよ!」
塩田まゆら「気にしないの運平さん」
塩田まゆら「両親が楽しんでいれば、自然と子供たちも笑顔になるものよ」
塩田まゆら「ねえ ほらほっぺた出して」
塩田運平「よ よそうよ、まゆらさん みんな見てる」
塩田メグ「グロ画像見せないで!」
塩田つゆり「・・・うんざり」
塩田フィルム「イチャイチャしたいなら二人でどうぞ」
塩田フィルム「そもそも映画鑑賞なんて時間の無駄だろ」
塩田運平「フィルム・・・」
塩田運平「小さな頃はあんなに映画が好きだったのに 一体なぜ映画を毛嫌いするように」
塩田運平「しかもお前 「フィルム」なんて素晴らしい名前を貰っておいて」
塩田フィルム「そんな名前で映画好きでいることが 恥ずかしくなってきたんだよ!」
塩田まゆら「さあさあ まもなく上映開始よ」
塩田まゆら「映画見ない子は 来月のお小遣いから今日の分の映画代引きますからねー」
〇劇場の座席
塩田運平「せっかく二つの親子が、一つの家族になれたんだ」
塩田運平「ぎくしゃくばかりしてないで 今、この時を楽しまないとな」
塩田運平「映画の神様、どうか素敵な映画体験を」
塩田つゆり「ねえフィルムくん あなたのお父さん」
塩田つゆり「今、もしかして「良いこと」言ったつもりなのかしら?」
塩田フィルム「お恥ずかしい限りで」
塩田メグ「メグ吹替え版が良かったなー」
塩田まゆら「ところで、どうしてこの映画にしたのかしら」
塩田運平「いや だって今人気なんだよ?」
塩田運平「きっと面白いんでしょう」
〇ファンタジー世界
映画『聖杯伝説』
〇劇場の座席
塩田運平「さあ 映画が始まる」
塩田運平「きっと映画を見終われば 家族の仲ももっと近づいて──」
塩田フィルム「無いから」
〇黒背景
〇古い本
〇黒
〇黒背景
塩田フィルム「ん・・・うう」
塩田フィルム「やべ、寝ちゃった どんなシーンだったっけ」
塩田フィルム「え・・・?」
〇ファンタジー世界
塩田フィルム「は・・・」
塩田フィルム「はあああ?????」
塩田フィルム「ここ、どこ?」
「うわあ~ん お兄ちゃ~ん」
塩田フィルム「メグ?」
〇密林の中
塩田つゆり「メグちゃん、そこにいるのっ?」
塩田フィルム「あ、つゆりさん」
塩田メグ「お兄ちゃ~ん! つゆりさ〜ん!」
塩田つゆり「メグちゃん、誰かに追われてる!!」
塩田フィルム「ゆ、幽霊⁈」
塩田つゆり「私が囮に──」
塩田フィルム「ダメだ!」
塩田つゆり「痛たっ! ちょっと離して」
塩田メグ「わあ~!!」
塩田フィルム「消えた・・・そんな」
塩田つゆり「どうして私を引き留めたの 大事な妹さんでしょ!?」
塩田フィルム「そうだけど!」
塩田フィルム「つゆりさんだって もう大事な家族じゃないか・・・」
塩田つゆり「・・・フィルムくん」
〇山中の川
塩田つゆり「中世の騎士っぽい人たちにお父さんと母が連行されるのを見たわ」
塩田フィルム「オヤジ・・・見事に使えない」
塩田つゆり「ねえ ここが夢じゃないとしたら」
塩田フィルム「うん やっぱりここは──」
「映画の中」
〇ファンタジー世界
私たち、『聖杯伝説』の世界に入り込んでしまったのね
〇山中の川
塩田つゆり「どういう映画なの? これって」
塩田フィルム「そんな事聞かれても、俺はもう映画なんて──」
塩田つゆり「ウソ」
塩田フィルム「え?」
塩田つゆり「お父さんの映画好きに反抗して、嫌いって事にしてるだけ」
塩田つゆり「こっそりサブスクで映画見てるの知ってるから」
塩田フィルム「えっ、バレてた」
塩田フィルム「でも、つゆりさんこそ映画に詳しいじゃないですか」
塩田つゆり「単館系だけよ こういう派手なのは趣味じゃないの」
塩田つゆり「あなたのお父さんと一緒に暮らすようになってから、尚さらね」
塩田フィルム「オヤジ、派手な映画ばっか好きだもんなぁ」
〇ファンタジー世界
『聖杯伝説』
それは伝説の聖杯を手に入れたアーサー王が、自ら聖杯を破壊する為に旅する物語
道中襲いくる数多の敵たち そして己の中にある誘惑
果たしてアーサーは、無事に聖杯を破壊出来るのか? 超大作ファンタジー・アドベンチャーの幕が開く!
〇山中の川
塩田つゆり「何? 今、頭の中に映画の情報が流れた」
塩田フィルム「誰かに遊ばれてる。。。早くみんなで合流して、映画の世界から脱出しなくちゃ」
〇ファンタジー世界
塩田つゆり「あそこがアーサー王の城 二人が捕まってるのね」
塩田フィルム「メグ、大丈夫かなぁ アーサー王なら幽霊のこと知ってるかも」
塩田つゆり「ダメよ、ここでは完全に私たちは奇怪な異人」
塩田つゆり「直接会っても怪しまれるに決まってるわ」
塩田つゆり「私たちは、映画の主人公じゃないんだからね」
塩田フィルム「でも 俺はメグ救出への最短距離を選びたい」
塩田フィルム「血の繋がった家族なんだ──」
塩田つゆり「何それ 血の繋がってない私はメグちゃんの心配してないとでも?」
塩田フィルム「だって 普通に考えてイヤだろ こんな大きな弟と妹、急に増えてさ」
塩田フィルム「いつも不満そうにしてて、申し訳ないなって」
塩田つゆり「・・・ちゃん」
塩田フィルム「え?」
塩田つゆり「『お姉ちゃん』って呼んで欲しかったのに、二人とも呼んでくれないから!」
塩田つゆり「私は、新しいお父さんは苦手だし、母のことも呆れてる」
塩田つゆり「それでも、弟と妹はずっと欲しかったの」
塩田つゆり「だから、嬉しかったよ・・・」
塩田つゆり「メグちゃんの事も、必ず助ける」
塩田フィルム「そうだったんだ・・・」
塩田フィルム「お お姉ちゃん」
塩田つゆり「・・・フィルム」
塩田メグ「お姉ちゃん・・・」
塩田フィルム「メグ! 逃げ出せたのか、お前 どうやって──」
塩田メグ「フッフッフー これ!」
塩田メグ「文明の利器をひけらかしたら、私を連れ去った幽霊も怪物も、みんな私を崇めてくれた」
塩田メグ「私を悪魔の使いと見なし、共にアーサー達を滅ぼそうって」
塩田メグ「スゴいでしょ 褒めて? お姉ちゃん」
塩田つゆり「スゴい・・・」
塩田つゆり「よし イイ子イイ子」
〇西洋の城
門番「待て そこの見かけぬ顔 アーサー王の城にいかなる用か」
門番「言葉は慎重に選べよ 返答次第では・・・」
塩田フィルム「忠義ご苦労」
塩田フィルム「しかし私は王直々に招聘を受けた魔術師」
塩田フィルム「日中、面妖な異人を二名捕えただろう? その仲間を連行したのだ」
門番「仲間だと?」
塩田つゆり「──」
門番「・・・たしかに 面妖な美しさだ」
門番「よし 通れ」
〇洋館の廊下
塩田フィルム「『面妖な美しさ』だってえ お姉ちゃん」
塩田つゆり「あまり調子に乗るんじゃないわよ 弟」
〇牢獄
塩田運平「助けてくれえ~ 俺には大切な子供たちがぁ」
塩田まゆら「ずいぶんと長くてリアルな夢ねえ」
塩田フィルム「まさか無策で泣き叫んでるだけとは思わなかったよ オヤジ」
塩田運平「ふぃ、フィルム~ 無事だったのか」
塩田つゆり「ママ、大丈夫だった?」
塩田まゆら「ええ ママはなんともないわ」
塩田運平「ママ・・・?」
塩田フィルム「『母』じゃなくて、『ママ』って呼んでたんだ、本当は」
塩田つゆり「・・・」
〇洋館の廊下
塩田フィルム「早くしないと 外で怪物たちが城を攻めたくてうずうずしてる」
塩田つゆり「今はなんとか、私の可愛い妹メグちゃんが押えてくれてるけれど」
塩田まゆら「急にデレたわね!?」
〇ファンタジー世界
塩田メグ「うずうず・・・うずうず・・・」
塩田メグ「みんな言うこと聞いてくれるし お兄ちゃんと私の魔法服も仕立ててくれたし」
塩田メグ「ああ 早くあの城に攻め込んで、聖杯を手に入れたいなあ!」
〇洋館の廊下
塩田運平「な、なあ お父さん、 元の世界に戻る方法わかった気がするんだが」
塩田運平「アーサー王の聖杯に、願いを叶えてもらえばいいんだ」
塩田フィルム「聖杯なんかどこにあるんだよ」
塩田フィルム「この広大なお城をしらみ潰しに探す訳?」
塩田運平「いや アーサーの寝室に隠してある」
「・・・」
「どうして なんで 何故」
「知ってるの!?」
〇映画館のロビー
実はお父さん、この映画一度見たんだ
それどころか、今この映画館でかかってる作品は大体見た
〇オフィスのフロア
実は、会社ではもう時代遅れの人間だと言われて、リストラされてな
〇劇場の座席
それから映画館に入り浸って、あらゆる映画を観たよ
そして今まで見向きもしなかった作品 知りもしなかった感情を沢山学んだ
〇洋館の廊下
塩田運平「だから、お父さんなりにみんなにももっと向き合おうと──」
塩田フィルム「唐突な親の無職宣言きちーよ」
塩田つゆり「回想シーンもう終わった? じゃアーサーの部屋乗り込めばいいのね!!」
塩田つゆり「メグ 攻め込んでいいわよ! パニックに乗じて聖杯奪うわ!」
〇ファンタジー世界
塩田メグ「やったあ~~~」
塩田メグ「城攻めじゃあ~!!」
〇洋館の廊下
〇宮殿の部屋
アーサー王「な、何事だ!?」
塩田つゆり「おっとゴメン、動かないでねアーサー王 さもないと──」
塩田つゆり「あなたのエクスカリバーが その喉を貫くわ」
塩田まゆら「きゃあーっ、マシューよ 本物のマシュー・クリフだわ」
アーサー王「? マシューではない 私はアーサー・・・」
塩田まゆら「うんうん アーサー役で、今度こそオスカー獲ろうね」
塩田フィルム「アーサー脅して、城を攻めて」
塩田フィルム「僕ら、完全に悪役の側に回ってる」
塩田フィルム「この映画をブチ壊しちゃった」
塩田つゆり「私好みの映画になったわね」
塩田運平「あったあ──!!」
塩田運平「聖杯だ」
塩田メグ「イエーイ メグさま登場 城は大方制圧したぜ!」
アーサー王「くっ!! 悪魔の使い魔共め よくも」
塩田フィルム「塩田家全員集合、か」
塩田運平「みんな 今回はすまなかった よくわからんが、原因は俺にある気がする」
塩田フィルム「まあ、いいよ 全員無事だし これで元の世界に帰れるなら」
塩田フィルム「今度は、ちゃんと話し合って決めよう みんなで見る映画」
塩田運平「ああ・・・だな」
塩田運平「聖杯よ 願いを叶えたまえ」
アーサー王「よせっ!!」
塩田運平「私たち一家を 元いた世界へ──」
〇幻想
〇魔物の巣窟
塩田フィルム「は・・・?」
塩田運平「へ・・・?」
「ワクワク ワクワク」
塩田つゆり「それで?」
塩田つゆり「お次はどんな映画が始まるの?」
極限状態に陥った家族が助け合うことで互いの理解を深めていく王道ストーリーではあるけれど、それぞれのキャラクターが立っていて見応えあります。それにしても、映画の中に入ったことよりもサラッと告白された運平のリストラ話の方がゾッとしたなあ。奥さんの肝が据わってそうだからなんとかなるか。
映画の知識だったり、他の解決策を取ることで映画の中から助かる、という流れのテンプレート、面白かったです。お姉ちゃんがツンデレだと毎回表現するのは難しそうですね。
面白かったです😆
一旦帰るのではなく、どんどん違う世界へ行ってしまうのですね。
それはそれで大変だー💦
フィルム、つゆり、メグが仲良くなって良かったです☺️