祈りを胸に。波乱を他所に。(脚本)
〇シックなリビング
マキ「又、就活駄目だった。6社全滅。ホント泣きたくなる。落ちるたび死にたくなるな。これが社会の荒波か」
ぴあこ「だから放送大学にでも進学すれば良かったでしょ。ちょっと勉強して後は遊び放題なのに。お姉ちゃんの言う事聞かないから」
マキ「勉強これ以上したくない。家でアニメと漫画三昧も羨ましくないことはないけど、金欲しいし。いっそ転生できればな」
ぴあこ「この間、転生方法載ってるサイト見つけたからやってみたら?」
マキ「さすが転生もの読み漁ってるだけあるな。どうせ都市伝説だろうけどさ」
ぴあこ「都市伝説の何が悪いの?夢とロマンは宝くじ以上のプライスレスなのに。暇なんだからやってみなさいよ」
マキ「まあ就活の息抜きにやってみるか。で、どうやるの?」
ぴあこ「素直でよろしい。サイトのURL送るね」
マキ「これって。ほぼ履歴書じゃん。志望動機が死亡動機になってるし。希望勤務先が希望転生先とかどう見てもアウトだろ」
ぴあこ「さすが分かってるね!すねかじりでバイト経験ないお姉ちゃんは履歴書書いたことある弟を誇らしく思うよ」
マキ「転生書書いて家族全員の同意の署名が必要。役所に持参して面接。面接に合格すれば晴れて転生できます。面接は年4回か」
ぴあこ「来週に面接あるね。自殺対策NPOと出版社がコラボした企画なんだね」
マキ「現実と空想の区別がつかなくて転生するって事件聞いたことないけど、少なからずあるのかな。面接して生きるよう説得されそう」
ぴあこ「釣り広告ってこと?でも実績ありって書いてあるしマキの考えすぎじゃない?とりあえず面白そうだから、やってみたら」
マキ「書いたとして、じいちゃんはまだ良いけど両親に見せるの絶対嫌だ」
ぴあこ「そこはお姉ちゃんも手伝って上げるから。まずはパパッと書いちゃえ」
マキ「テキトーにお遊び感覚で書いてみるよ。就活も疲れたし」
〇学生の一人部屋
マキ「まずは生年月日、名前、住所、性別、電話入力して、、資格はないから飛ばして と」
マキ「転生先は美女9割のハーレム世界が良いな。あっ後で家族に見せなきゃいけないのか。妄想全開は黒歴史作ることになるな」
マキ「仕方ない。誰からも慕われる世界にするか。大した苦労もせずに無双して活躍すると。やっぱヌルゲーが良いよな」
マキ「後は死亡動機か。就活に疲れたから、と。後は印刷して家族の署名でおしまい。こんなので転生できたら最高だよな~」
〇シックなリビング
マキ「もうできたぜ」
ぴあこ「おっ早い。見せて見せて。 って雑過ぎでしょ。せっかくなんだから、もっと面白くしなさいよ」
マキ「俺文才ないから無理。ぴあこ代わりに書いてくれない」
ぴあこ「私だって無理だよ。異世界物読むの好きだけど、作文はからっきしだもん」
「よしッならかわいい孫の為ワシが書いてやる。話も全部聞いてたから大船に乗った気持ちで任せろ」
マキ「おおっさすがじっちゃん。地獄耳と瞬間移動の持ち主。ホント助かるよ。文才あるか知らんけど」
ぴあこ「テレビの後ろの空間、本当におじいちゃん好きだよね」
じっさん「そもそもマキは付き合ったことないだろ。ならモテる世界に決まってらぁ。不倫におおらかな多夫多妻の世界にしておこう」
マキ「さすがじっさま。血は遺伝してるよ」
ぴあこ「おじいちゃんが書いたならパパママ口出せないしね。良かったねマキ。欲望の世界にダイブできるかもよ」
マキ「他にも強烈なの書いてよ」
じっさん「犯罪が無い世界にするか。ヌルゲーにしたいんだろ。何しても許される。自堕落に暮らそうがとやかく言われない。これでどうだ」
ぴあこ「いいねぇ。けど余白まだあるからもうちょっと付け足そうよ」
じっさん「こんな楽しければ人生あっという間じゃ。なら死んだら復活OKと加えとくか」
マキ「完璧だよ。両親の承認の欄の代筆もお願い」
じっさん「そんなの簡単じゃ。ほらこれでどうだ」
マキ「助かった。明日役所に持っていくよ。この件は親には秘密で頼むよ」
じっさん「煎餅もバリバリの硬い口だ。心配するな」
〇警察署のロビー
マキ「書類書いてきましたので提出したいです」
受付嬢「転生希望の方ですね。面接は後日ですが、記載漏れないかチェックしますね。 ご家族の方の署名代筆してませんか?」
マキ「してません」
受付嬢「ちなみにお父様はなんと仰ってましたか?」
マキ「えっと、頑張れと」
受付嬢「ではお母様は?」
マキ「あ~えーとー病気に気をつけなさいと」
受付嬢「スタッフが直接確認に行く場合ありますけど嘘でしたら公文書作業罪になるけど大丈夫ですね?牢屋行きですよ」
マキ「ごめんなさい。でも代筆ってよくわかりましたね」
受付嬢「舐めてんのか、クソガキ。カマかけただけに決まってんだろ。それに死亡動機が就活に失敗しただけって受付拒否るわ」
マキ「就活失敗は本当に自殺したくなるんですけど」
受付嬢「就活で受かりたいんじゃなくてお金が欲しいだけでしょ。大抵の人なら採用してくれるバイトあるけど紹介しようか?」
マキ「いやでも転生の方が面白そうなので」
受付嬢「ならまずご両親説得して出直しなさい」
〇シックなリビング
マキ「二人に話があるんだ」
ハハ「おじいちゃんから聞いてるわよ。異世界行きたいんでしょ。どんな病気にかかるかわからないから気をつけて行ってきなさい」
父「俺も仕事がなければ行きたいけど、忙しいからな。就活の気晴らしになるだろうし、やりたいことあるならやってみろ。頑張れよ」
マキ「まさかこんなスムーズに話が展開するとは」
じっさん「何事も根回しを事前にすることが肝心よ。ワシも同行するって言ったら厄介払いできると思って喜んで話に乗ってきたわい」
マキ「ついでに死亡動機が駄目だったんだけどなんて書けば良いかアドバイスない?」
じっさん「好きだった娘に告白したら気持ち悪がられて唾吐きつけられたとでも書いとけ」
マキ「死亡動機にしてはまだ足りない気がしなくもないなあ」
ぴあこ「振られた腹いせに受付のお姉さんにあんなことしてしまいそうって付け足そうよ。実際やったら姉弟の円切るけど」
マキ「受付のお姉さんに殺されるか心配だよ」
ぴあこ「受付嬢に殺さる程度じゃ異世界でやっていけないぞ。高スキルと呪文なんでも使えるよう異世界特典つけてもらいなよ」
マキ「そんな何でもかんでも都合よく行くかな?」
じっさん「ワシが同行するんだ。難癖つけてでも叶えてやるよ」
ぴあこ「根拠のない言い分なのにおじいちゃんが言うと重みがあるな」
〇警察署のロビー
マキ「書き直しました。これでどうですか」
受付嬢「良くなったじゃない。犯罪者になる前に処分しなくちゃいけないもんね。か弱いお姉さん怖くて外歩けなくなっちゃわないように」
マキ「まるで犯罪者を見る目で見てきますね。両親の承認もできてます」
受付嬢「いかれた家庭環境。楽しそうで羨ましいわ。では受理しますので、面接当日お待ちしてます」
マキ「じいちゃんも同行するって言って聞かないので、連れてきて良いでしょうか?」
受付嬢「面接で祖父を連れて来るんですか?そりゃ就活失敗し続ける理由が納得です。世の中の会社は見る目がありますね」
マキ「連れてきちゃまずいですか?」
受付嬢「別に構いませんよ。ではお引取り下さい。童貞犯罪者予備軍の方と話してるの苦痛ですので」
マキ「こんな人でも役所で働けるんだもんな。転生できなかったら就活頑張ろ」
受付嬢「女性は猫かぶり上手いんですよ。童貞には辛い現実でしょうけど」
マキ「絶対異世界行って、モテまくってやる」
受付嬢「異世界行きの面白そうなのが来たのに就活なんかさせねーての」
「死亡」動機という言葉遊びに感心してしまいました。そして「自殺対策NPOと出版社のコラボ」には笑ってしまった。ぴあことおじいちゃんがいい味出してますね。こんな面白い家族がいるなら転生しなくても面白い人生送れそうなのになあ。
これは続きが読みたくなる展開。死亡動機ってことは、面接受かったら死ぬってことか...。それで、希望通りの異世界に行けるんだったらそれもアリかもしれない。笑