処刑日前日の囚人の回顧録

ゆう羅

夜明け前の牢獄で(脚本)

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〇牢獄
  いよいよ明日だ。
  ここはとある国の刑務所。
  私は今、無実の罪で投獄された。しかも、冤罪によって死刑が確定している。
  刑の執行は明日だ。
  
  ???「そうだ、明日の朝に刑は執行される」
  
  私の罪状は国王暗殺未遂というものだ。
  どうやら私の「生霊」が王の命を狙ったらしい。
  
  ???「幸いにも国王は占い師によって救い出されたらしいな」
  この国では王宮占い師というのがいて、国王よりも政治力を持つ。その占い師曰く、私が不敬にも国王の命を狙ったというのだ。
  しかし私は国王のことを深く知る由もない一般市民である。職業と言えば街の食堂でデザートの菓子を作る者。
  もちろんその店は庶民向けで、王室御用達の店が並ぶ場所とは程遠いところにある。
  明け方には野良猫が残飯をあさりに来るような店だ。
  
  ???「色んな菓子を作ったが、チェリーパイが最高だな」
  さて、そんな王室と関わりも何もない私が、何故か生霊で王の命を狙い、逮捕されなくてはならないのか。
  ???「罪状は言われた通りだ、お前が生霊を飛ばしたんだ」
  
  しかも処刑は裁判という名の一方的な吊るしあげで終了。
  しかし不幸中の幸いというものか、私は孤独な人間で、身内と呼べる者はいない。おそらく私が死んでも哀しむ者はいないだろう。
  幼い頃に家族を喪い、必死に働いて生きてきたのである。
  そのため友人を作る時間もなく、ただ孤独に生きていた。
  勤め先の店主はそれでも一度は面会に来てくれたが、下手に私を庇うと店や家族にまで責が及ぶのは目に見えていた。
  だからそれ以上の気遣いは断らせてもらった。
  
  ???「ああ、良い判断だ。お前はひとりになるといい」
  そう、死ぬのが怖くないと言えば嘘だが、生きていたい理由もない。
  しかし汚名を着せられ、殺されるのは正直釈然としない。
  それも明日の話。
  だからと言って、私にできることはない。
  石造りの室内で、高い天井の上に小さな明かり取りの穴があるだけ。
  その穴にも鉄格子が嵌められている。
  幸いにも暑くも寒くもない季節だから、この部屋は静かで快適とも言える。
  子どもの頃に比べたらは屋根のある場所で寝られるだけマシだ。
  菓子職人になったのも、菓子のおこぼれにあずかるためだ。
  ???「今は買えないものはあるのか? 今の立場になって、何でも手に入っただろう?」
  ああ、何と言う人生だったのだろう。
  明日にはもう、理不尽な死を迎える。そんな明日は次期国王の戴冠式だというのに!
  そう、私は国王のことは何も知らない。
  聞いた話だと菓子が好きだとか、街の女との間に前国王が為したご落胤で、
  早くに身寄りを亡くし、孤児だった国王はとある料理屋で働いていた。そんな現国王は占い師によって見つけ出された子だとか、
  その占い師が暫くしてから姿を見せなくなり、また別の占い師が王宮に出入りするようになったとか、そんな噂を今思い出す。
  そうだ、確か国王は前宮廷占い師を抹殺し、自ら占い師になった。そう、今の国王と占い師は同一人物で、二つの顔を使い分けながら
  国を我がものにした。
  占い師の予言は人々にとって「絶対」であった。
  ???「この国の連中は、本当に迷信深いな。こんな嘘を簡単に信じ込んでしまうとは」
  もの想いに耽っていたら、窓からはいつの間にか朝日が差し込んでいた。
  そう言えば、私は誰に話しかけられていたのだろう?
  先ほどからいちいち私の言葉に反応する声があったが、気にしないでおいた。
  だが――。
  ???「そりゃ、お前の生霊だよ」
  処刑台に向かう扉の前にあった鏡の中で、国王が、占い師が、しがない菓子職人がにやりと笑った。

コメント

  • 冤罪を課せられて死刑宣告とは、なんとも不幸な人物ですね。ただ彼自身が大して無駄な抵抗もせずにその時を静かにまち、こうして語る一つ一つの言葉がとても濃いです。

  • タイトルに惹かれて読ませて頂きました。何だか独特ね世界感で、不思議な感覚にさせられました。短いお話しですが内容が濃い、考えさせられるお話しでした。

  • みんな生霊だったのでしょうか?それとも嵌められたのか?真相は書かれていなかってので、いろいろなパターンが想像できて、面白かったです。

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