『夏の始まり』(脚本)
〇村の眺望
──晴れ渡る空に燦々と輝く陽光が青田を照らす。
その景色を冷えた麦茶を飲みながら眺めていた。
〇実家の居間
蝉の声と扇風機に揺られる風鈴の音が部屋に響く。
みつ子「暑いねぇ・・・」
そう言いながら額から垂れる汗を拭った。
──しばらくして、遠くから音が聞こえて来た。
「──ザッザッザッ・・・」
砂利の上を駆ける複数人の足音。
田園の間にある砂利道を縫うように駆け抜ける5人の影がこちらに近づいてくるようだった。
みつ子「──来たか・・・」
その足音は年寄りの私が過ごす一年のうち、最も忙しくなる時期に入った事を意味していた。
みつ子「・・・はぁ」
覚悟を決めて、深く深呼吸をする。
騒ぎながら近づいてくる足音。
その音はいよいよ玄関の近くまで来た。
〇ボロい家の玄関
「ガラガラパシィ!!」
いつもはゆっくり開ける引き戸がものすごい音を立てて開かれた。
おばあちゃん!来たよー!
5人が声を合わせて入って来た。
・・・今年も5人の孫と私の騒々しい夏が始まった。
渡邊みつ子。64歳。
倅兄妹の仕事の都合で、小学校入学以降、毎年の夏は孫の面倒を見るようになっている。
それが、この5人の子供達だ。
──倅兄の渡邊家3人兄弟。
長女の紬。一番歳上の11歳で、小学6年生。
長男の慎太郎。10歳。小学4年生。
末っ子の結。一番歳下の8歳。小学2年生。
──倅妹の河口家姉弟。
長女の凪沙。慎太郎と同じ10歳の小学4年生。
長男の諒亮。9歳の小学3年生。
年齢も近く、田舎の子供が少ない環境だからと言う事もあってか、この子達は仲が良い。
・・・それ故に騒がしくもある。
〇広い玄関
お邪魔しまーす!!
孫達はそう言って家に上がり、居間の方へ駆けて行った。
玄関には普段見ることのない色鮮やかな靴とサンダルが散らかっている。
みつ子「・・・あんま散らかすんでねーぞ!!」
孫達に向かってそう声を掛けながら、散らかった靴を揃えた。
〇実家の居間
──この子達が生まれ、倅達が連れて来た頃や保育園に預けていた頃はよくいる年寄りのように甘やかしていた。
倅にくっついていて、まだ私に警戒心があったからこそ、こちらから歩み寄って、頭を撫でたり、教え事ができていた。
しかし、小学生になって好奇心が旺盛になり、自分から外に出始める歳頃になった。
それは良い事なのだが、この子達年齢だと危険も顧みないし、少し先のことも考えない。
だから田畑や裏山で怪我して帰ってきたり、
家のものを意図せず壊したりする。
・・・今までも野良の動物以上に畑を荒らされたり、家具や私物を壊されたりしていた。
そこまでされるともう甘やかすどころか、説教じみた声を上げる方が多くなっていた。
そうなったのも、倅達からこの子達を預かっている者として、1人の親としての責任感があってそうなったのだろうと思っている。
そして、何よりこの子達に健やかに育ってほしいと言う自身の思いがあるからだとも。
みつ子「・・・」
孫達の方を見ると、ちゃぶ台を囲って夏休みの宿題をやっている。
今日分の宿題を終わらせて、早く遊ぼうとする所はみんな同じで、根は皆純粋で真面目なんだろうと見て感じられた。
みつ子「・・・」
それを見て、去年よりも少し落ち着いたかと安堵し、台所へ向かった。
バリバリガッシャーン!!
結「ばあちゃーん! お兄と諒亮が襖に穴開けたー!」
みつ子「・・・」
・・・今年の夏も忙しくなりそうだ。
みつ子の心の声による情景描写で物語が進行するので、彼女に共感しながら祖母目線で読み進めました。小さい頃に祖父母の家で過ごした思い出は、後の人生に大きな影響を及ぼすものですよね。おばあちゃんへの感謝の気持ちを改めて感じさせてもらいました。
ヤンチャ盛り×5は、さすがに如何ともし難いですよね。賑々しく大変そうな夏ですが、みつ子さんにもお孫さん達にも思い出になる時間なのでしょうね。