台本家族 第一話(脚本)
〇明るいリビング
ナミ「お父さん、日曜はヒマだよね? みんなでスイーツのお店行かない?」
尚子「駅前のビルにできたのよね」
優斗「お姉ちゃんズルイ! 日曜はバッティングセンターの約束だよ!」
七彦「ははっ、そうだったな 優斗と先に約束したんだった」
ナミ「えー野球とか興味ない」
七彦「じゃあこうしよう バッティングセンターに行って 遊んだ後にスイーツだ」
尚子「あらいいじゃない これならナミも優斗も納得でしょ?」
優斗「やったー」
ナミ「しょうがないなぁ お父さん、気が回るんだから」
七彦「そうか? ハハハッ」
尚子「うふふ」
〇学校の校舎
ナミ「弓絵、おはよー」
弓絵「おはようナミ 見たよ、昨日の配信 ナミんちって本当、仲良しだよね」
ナミ「えっ? ああ、まぁね」
弓絵「お母さんは優しそうだし、 お父さんも理解ありそうだし」
ナミ「そうなのかな あは、あははは」
〇異世界のオフィスフロア
同僚「宮園さん、資料できました、」
七彦「ありがとう、確認しておく」
同僚「そういえば見ましたよ 家だと結構フランクにしゃべるんですね」
七彦「ん? ああ、昨日の配信か あれはドラマみたいなもんだよ 娘が台本を作っているんだ」
同僚「台本? なんでまたそんなことを」
七彦「学校の課題なんだとさ 我々家族は、そのまま演じてるだけだ」
同僚「へぇ」
〇明るいリビング
ナミ「ただいまー お母さん、台本読んだ?」
尚子「ちょっと確認させて? お父さんが「頑張れ」って言った後、 何で私が笑ってるの?」
ナミ「それは、キュンとしたからだよ お父さんステキ、って気持ちで 惚れ直す感じで笑顔になるわけ」
尚子「そんなことあるかな 今さらお父さんにキュン、なんて」
ナミ「いいのいいの、台本なんだから それにいざ演じてみたら、 案外そういう気分になるかもよ?」
尚子「そうなのかなぁ もうちょっとわかりやすくならない?」
ナミ「・・・わかった、やってみる」
〇女の子の一人部屋
優斗「お姉ちゃん、急に変更しないでよ!」
ナミ「おかえりー しょうがないでしょ お母さんが変えてほしいって言うから」
優斗「もう配信まで時間ないじゃん」
ナミ「このぐらい覚えられるでしょ 優斗、しっかりしてよ これはあんたのためでもあるんだからね」
優斗「へ?」
〇明るいリビング
ナミ「三者面談があるんだけど・・・」
尚子「高校は一年生から面談があるのね」
七彦「ナミは卒業後のことは考えてるのか」
ナミ「まだ全然・・・ どんな仕事をやりたいかもわからないなぁ」
優斗「僕は宇宙航空研究かいはちゅ機構で 宇宙の仕事をやりたい!」
ナミ「ブフッ ど、どうしようかなぁ」
七彦「やりたいことをやるのが一番だ 大学に行かない選択肢もあるぞ」
ナミ「そうなの?」
七彦「チャレンジするなら早い方がいい どんな道でもいい、頑張れ!」
尚子「ステキ!」
七彦「ずいぶんカッコつけてたな、俺」
ナミ「いいじゃん、たまにはそういうのも お母さん、キュンとしたでしょ?」
尚子「なに、キュンとしたかばっかり聞いて まぁ、そうかな」
ナミ「よし!」
七彦「じゃあ着替えてくる」
優斗「かいはちゅ、かいはつ、開発機構・・・ 宇宙航空研究開発機構・・・」
ナミ「優斗、セリフ噛まないでくれる?」
優斗「ごめんなさい 急いで覚えたからあせっちゃった でもお父さん、前より優しくなったね」
ナミ「だねー」
優斗「お姉ちゃんの台本のおかげかな」
ナミ「お父さんも嫌いじゃないみたいだよね 若い頃、俳優を目指してた時期もあった らしいし」
優斗「へぇ、意外」
〇学校の校舎
池田「宮園の父ちゃんて、宮園七彦って名前?」
ナミ「そうだけど・・・何で知ってるの?」
池田「映画のレビューサイト見てたら 出演者のところに名前見つけてさ もしかしてと思って」
ナミ「むかーし、ちょっと活動してたみたい」
池田「やっぱりな 昨日の配信も、経験者って感じだった」
ナミ「見てたんだ・・・あっ 池田くんて演劇部だよね? ちょっと相談したいことがあるんだけど」
弓絵「・・・・・・」
〇広い公園
優斗「クレープちゅちゅっと・・・ クレープちゅじぇっと・・・」
尚子「優斗、まだ帰らないの?」
優斗「お母さん! まだ台本覚えられてないんだよ クレープシュゼット、言えた!」
尚子「今日も難しいセリフがあるね」
優斗「難しいのばっかり 僕もお父さんみたいに カッコいいセリフ言いたいのにさ」
尚子「でも、台本のお父さんは お父さんぽくないよね」
優斗「ペラペラしゃべらなくてもいいのにね 無口だけど頼りになる いつものお父さんがカッコいいのに」
尚子「優斗にはそう見えるんだ でも、無口な人を物足りなく感じる時が 女の人にはたまにあるんだよ」
優斗「ふぅん」
女の子「優斗くん、バイバーイ」
優斗「バイバーイ 倍の倍のバイバイで バイバイバイバーイ!」
女の子「アハハ! 計算違うよ!」
優斗「ダハハハ!」
尚子「優斗は違うみたいね」
優斗「?」
尚子「優斗はお父さんが大好きなんだね」
優斗「うん!」
尚子「お母さんと比べると、どっちがいい?」
優斗「・・・え?」
〇学校の昇降口
ナミ「あっ、弓絵もいま帰り?」
弓絵「・・・・・・」
ナミ「え? 弓絵?」
弓絵「ハァハァ・・・」
ナミ「なんで・・・逃げるの・・・」
弓絵「ハァ・・・ハァ・・・」
ナミ「気に入らないことがあるなら」
ナミ「ちゃんと、言葉で、伝えてよ!」
〇ファミリーレストランの店内
弓絵「お父さんのセリフについて相談? ・・・いやわかんないわかんない」
ナミ「あのね・・・配信の内容は全部台本なの 私が全部書いてる それで演劇部の池田くんに相談しただけ」
弓絵「お父さんをカッコよく見せたいって それはどういうこと?」
ナミ「それがさ・・・誰にも言わないでよ? お母さんが電話してるの聞いちゃって」
〇明るいリビング
尚子「下の子が高校に入る頃かな そのぐらいのタイミングで 離婚しようと思って」
〇ファミリーレストランの店内
弓絵「ええええ!?」
ナミ「弟が高校に入るまで、4年しかない だからどうしても引き留めたくて」
弓絵「それでお父さんをカッコよく見せたいの?」
ナミ「お母さんを惚れ直させようと思って、 だからそういう台本作ってるんだよ」
弓絵「そうだったんだ なーんだ、勘違いしてた」
ナミ「うん、だろうなと思ったよ 弓絵、池田くんのこと・・・」
弓絵「・・・うん、そう ぶっちゃけどう思う? 池田くんのこと」
ナミ「いやぁ・・・彼、結構無口でしょ しゃべらない人って苦手なんだよね」
〇明るいリビング
優斗「給食でおいしいデザート食べたんだ クレープシュゼットって知ってる?」
ナミ「へぇ、おしゃれじゃない オレンジジュースでクレープを煮るんだよね」
尚子「フランスのデザートよね 最近の小学生ってそんなの食べるんだ いいわねぇ」
七彦「ただいま おみやげ買ってきたぞ クレープシュゼットって知ってるか?」
ナミ「お父さん、ナイスタイミング!」
尚子「ステキ!」
尚子「じゃ買い物いってくるね」
優斗「僕も行くー クレープじゅじぇっと買って!」
ナミ「いま噛むんだ」
尚子「夕飯なにがいい?」
七彦「ん、まぁ、適当で」
尚子「・・・はーい、行ってきます」
ナミ「お父さん、適当とか言っちゃダメだよ」
七彦「・・・・・・」
ナミ「台本にご不満でも?」
七彦「ナミの台本はしゃべらせすぎだ セリフは本音を語るものではない」
ナミ「そうかな さすが元役者」
七彦「からかうな」
ナミ「いいじゃん、しゃべりすぎでも 家族の前くらい、何でも言おうよ」
七彦「・・・・・・」
ナミ「あのさ、何でそんなに無口なの? 昔からそうだよね 黙られるの、本当、苦手なんだけど」
七彦「こういう性分なんだ、仕方ないだろ」
ナミ「お父さんが何を考えてるのか 気持ちを探るのって本当、疲れるんだよ お母さんに愛想つかされるよ?」
七彦「ん?」
ナミ((やば・・・))
七彦「今さら愛想も何もないだろ 俺には俺にできる範囲で気持ちを伝えてる」
ナミ「そんなの良くない 足りないし、聞こえない 気持ちはセリフにしなきゃダメだよ」
七彦「そんなこと、今さらできると思うか? 無口だった男が、急に多弁になるか? おかしいだろ」
ナミ「無駄なおしゃべりでもいいから、 たくさんしゃべってよ」
七彦「・・・苦手なんだ」
ナミ「え?」
七彦「雑談ができない 無駄なおしゃべりがわからない 何をしゃべればいいのかわからないんだ」
ナミ「大丈夫、私が台本にする はじめは台本通りでいい でもそのうち、それが普通になるから」
七彦「ナミ・・・」
ナミ「ごめん、電話だ・・・もしもし?」
弓絵「ナミ! 配信切れてないよ!」
ナミ「ええっ!? お父さん、そこのスマホ見て! 停止のボタン押して! 早く!」
〇明るいリビング
後日・・・
七彦「ただいま おみやげ買ってきたぞ」
優斗「やったー! ナニナニ!?」
七彦「コンビニのケーキが新発売だったから 思わず買ってきた」
優斗「なーんだ、コンビニかー クレープシュゼットがよかったのに」
尚子「まぁいいじゃないの、どれどれ・・・ あらおいしそう」
ナミ「じゃあそれ食べてから 今日の配信始めるよ」
「はーい!」
優斗は明るくて可愛いムードメーカーだなあ。ナミの台本を文句も言わず演じてくれてるだけで今でも十分に仲の良い家族だと思うけど・・・。母親の気持ちは夫婦の問題だからこればかりは難しいですね。
最初はみんなを騙そうとしてるちょっとサイコ系かと思ったけど、ただただ娘の優しさだった。笑
最後は台本がなくても、仲睦まじい家族になれてよかった!