#2 真っ黒に染まる(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
水瀬真一「・・・眩しい」
人々の色と、
ネオンの光が合わさった交差点は
昼間よりも、キラキラ輝いて見える。
〇高架下
僕はそれを、少し離れた場所で眺めながら
リップクリームのキャップをそっと外した。
女性の声「ちょっと、聞こえてる?」
水瀬真一「──!」
通行人「もしもし?」
通行人「電波悪いのかな・・・」
水瀬真一「・・・・・・」
道に背を向け、スマホのカメラを起動した。
画面を鏡代わりにして
ぎこちない手付きで、リップクリームを
ゆっくりと塗り広げていく。
水瀬真一「・・・ほんとに、ピンクだ」
嬉しいとか、楽しいとか
そういう感情じゃなくて
足りない何かがはまったような、
満たされた感覚だった。
〇渋谷のスクランブル交差点
──交差点の信号が青に変わる。
水瀬真一(大丈夫、大丈夫・・・)
水瀬真一(ただ、歩くだけなんだから・・・)
動き出す人混みと同時に、
足を踏み出したその瞬間──
女性「──なにしてるの」
僕の母親と、同じくらいの歳の
女性が目に入った。
水瀬真一「!」
僕の足はピタリと止まった。
女性「ほら、もう行くわよ。 早くおいで」
少年「うん・・・ あ、待ってよ、お母さん!」
「なにしてるの」
聞き慣れた声で、
その言葉が脳内再生される。
〇女の子の部屋(グッズ無し)
水瀬「わぁ・・・」
母親「──なにしてるの」
水瀬「お母さん、見て見て! きれいに塗れたよ!」
母親「・・・なにしてるのよ!」
水瀬「──うわっ」
水瀬「お、お母さん! そんなにごしごししたら、痛い・・・」
母親「黙ってて!」
水瀬「・・・・・・!」
母親「・・・あぁ、もうこんな物つけて! 全然落ちないじゃない!」
母親「あぁ・・・どうしたらいいのよ・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
父親「どうして、こんなことをしたんだ」
水瀬「・・・ごめんなさい」
父親「男が化粧をするなんて、おかしいと思わないのか?」
水瀬「・・・・・・」
父親「何とか言ったらどうなんだ!」
母親「どうしましょう・・・」
母親「もしかして、この子・・・ 病気なんじゃ・・・」
水瀬「・・・・・・!」
水瀬「うぅっ・・・ひっく・・・」
水瀬「ごめんなさい」
水瀬「もう・・・しないから・・・」
水瀬「ごめんなさい、ごめんなさい──」
〇渋谷のスクランブル交差点
今までずっと否定されてきたのに
一体、誰が受け入れてくれるの?
水瀬真一「──わっ」
俯き立ち止まる僕に、
誰かが後ろからぶつかった。
その勢いで、思わず一歩前に踏み出す。
水瀬真一「ご、ごめんなさい・・・」
通行人「・・・・・・」
水瀬真一(やばい、見られ──)
通行人「・・・ぼーっとしてんなよ」
何事もなかったかのように
様々な色の人たちは、
僕の横を過ぎ去って行く。
水瀬真一「・・・・・・」
また誰かにぶつかりそうで、
そのまま歩いて行くしかなかった。
水瀬真一(やっぱり・・・そうだ・・・)
いつのまにか僕は──
水瀬真一(──誰も、気付いてない)
スクランブル交差点の
真ん中に立っていた。
水瀬真一(あぁ、そっか・・・)
水瀬真一(僕が見えてないんだ)
人で溢れる交差点は、
沢山の色が混ざり合っているように見えた。
鮮やかな色も、全て混ざればそれは──
〇黒
──真っ黒になる。
だから、誰も『あたし』が見えない。
あたしも周りが気にならない。
それだけで、こんなに心が軽いなんて。
水瀬真一(ここでなら、僕は──)
〇渋谷のスクランブル交差点
〇アパレルショップ
店員「いつもご利用ありがとうございます」
店員「こちら、会員限定クーポンになりますので、次回以降ご使用ください!」
水瀬「・・・・・・」
〇街の宝石店
店員「ありがとうございましたー」
水瀬「・・・・・・」
〇カフェのレジ
店員「ご注文はお決まりですか?」
水瀬「・・・・・・」
店員「ホットのカフェラテですね。 少々お待ち下さい!」
水瀬「──」
〇渋谷の雑踏
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触れたら溶けてしまいそうな程繊細な描写に唸りました。シルエットに色が付いているので『温度』みたいなものを感じます。
何色でも良い筈なのに、無個性な黒に肯定的になっていくのは、ちょっと胸が痛みました。
眠っている間に学級委員にされてたんですかね・・・
あぁー!学校行事や人との関わり合いが今のところきっと真一は苦手意識(厳密に言えばその中で起きる無意識の傷ついてしまうような発言とか行動に対しての苦手意識)あるだろうに、これからどうなっていくか・・・気になります!!(>_<)
過去の思い出はつらいですね😣
水瀬の息苦しさと、渋谷にハマっていく心理が伝わります。
サブタイを見たときには、何かつらいことを暗示しているのかと思いましたが、夜の闇に紛れて安らぎを貪るような黒でした。モノクロになって眠っている心に色がついていくのが楽しみです。