時空タクシー「味噌汁の作り方」

6Bえんぴつ

味噌汁の作り方(脚本)

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〇商店街
  満月の夜
  時間も空間も超えて
  あまたが望むその場所へ
  連れて行ってくれる
  タクシーがあるとしたら
  どうしますか?

〇アパートの台所
老年男性「さて、出来た」
  一口飲んでみた。
老年男性「やっぱり母さんの味には、ならんな」
老年男性「命日か・・・母さんが亡くなって2年」
老年男性「仏壇の花も買いに行かないとな」
老年男性(最近はずっと、家にこもってばかりだし・・・)
老年男性(久しぶりに墓参りに行くとしよう)

〇墓石
老年男性「母さん、来たよ」
老年男性「どうして、先に逝ってしまったんだ」
老年男性「母さんの居ない家にいまだ慣れんよ」
老年男性「一人だと毎日がつまらん」
老年男性「私が定年退職したら、二人でしたいことが沢山あったのに」
老年男性「そうだろう・・・」
  墓の前で、長いこと話しかけた。
老年男性「お化けでもいいから、何か言ってくれんか?」
老年男性「母さん・・・」
老年男性「それじゃあ、また来るよ」
老年男性(誰もいない家に帰ってもな・・・)
老年男性(久しぶりに一杯ひっかけて行くか)

〇大衆居酒屋
居酒屋の店員「お客さん、閉店なんで起きてください」
居酒屋の店員「飲みすぎですよ・・・」
老年男性「お、おう・・・」
居酒屋の店員「大丈夫ですか?」
老年男性「はい、はい!」
  おぼつかない足取りで立ち上がった。
老年男性「お勘定は、これで」
居酒屋の店員「ありがとうございます」
居酒屋の店員「お客さん、危ないですよ」
居酒屋の店員「タクシー呼びましょうか?」
老年男性「そうかい、お願いするよ」
  店員は、電話でタクシーを呼んだ。
タクシー運転手 「いつもありがとうございます お客さんはどなたですか?」
居酒屋の店員「早いですね!」
居酒屋の店員「こちらの方です 結構、飲んでまして」
タクシー運転手 「お客さん、行きましょうか」
老年男性「はい、はい」
  店員は、急いで店の戸を開けた。
  二人を見送ろうと一緒に外に出た。

〇商店街
居酒屋の店員「ありがとうございました」
居酒屋の店員「おっ、今日は満月か」
居酒屋の店員「あの運転手びっくりするほど、来るのが早かったな」
居酒屋の店員「・・・しかし綺麗だな・・・」
  しばらく月を眺めていた。

〇タクシーの後部座席
タクシー運転手 「お客さん、どこまでですか?」
老年男性「う~ん、桜ケ丘小学校の裏門までお願いします」
タクシー運転手 「かしこましました」
タクシー運転手 「大丈夫ですか?」
老年男性「家に帰りたくなくてつい、飲みすぎてしまいました」
老年男性「妻に先立たれてしまいましてね」
老年男性「何ですかな・・どうにもやる気がなくなってしまった」
老年男性「夢でもいいから会いたい・・・妻に」
タクシー運転手 「会いに行かれますか?」
老年男性「どういう事かな?会えるんですか?」
タクシー運転手 「お望みでしたら」
老年男性「もちろん!会いたい」
タクシー運転手 「着きましたよ」
  恐る恐るタクシーを降りた。

〇海辺
老年男性「海か・・・綺麗だな」
  しばらく歩くと、一軒の家が見えた。
  庭で、一人の女性が花を植えていた。

〇一戸建て
老年男性「こんにちは」
老年男性「道子?」
  出会った頃の若かりし妻にそっくりだった。
妻(道子)「あら、あなたどうしてここに?」
老年男性「道子に会いに来たよ」
妻(道子)「そうでしたの、とにかく入って」

〇綺麗なダイニング
妻(道子)「お腹が空いていませんか?」
妻(道子)「あなたの好きな物をたくさん作ってましたのよ」
妻(道子)「そこに座って、今持ってきます」
  道子は次々とテーブルに料理を並べた。
老年男性「この味噌汁が、ずっと飲みたかったよ」
  ゆっくりと味わうように飲んだ。
老年男性「そうそう、この味この味」
老年男性「何度作ってもこの味にならなくてね」
妻(道子)「あなたが、お料理をなさるの?」
老年男性「君がいないから仕方ないさ」
妻(道子)「ねぇあなた、昔から海の見える家に住んでみたいって言ってましたでしょ」
妻(道子)「だから、私はここであなたが来るのを待つことにしましたの」
老年男性「そうだったのか、こんな海の見える家に住んでみたかったよ」
老年男性「このまま、私も住めないのか?」
老年男性「一人は寂しい」
妻(道子)「あなた、退職したらしたい事があると言っていたのを覚えていますか?」
老年男性「したい事?いや覚えてないな」
妻(道子)「小説ですよ」
妻(道子)「小説を書きたいと言っていたではありませんか」
老年男性「あぁそうか、そうだったな」
老年男性「道子が推理小説が好きだから、私が書いてみようと思ったんだ」
妻(道子)「あなたの書いた小説が読みたいわ」
妻(道子)「私が、どうしてあなたと結婚したと思います?」
老年男性「いや、分からないよ」
  道子は、食器棚の引き出しから沢山の手紙を持ってきた。
妻(道子)「あなたから頂いたラブレターです」
妻(道子)「こんな素敵な文章を書く人はきっと素敵な人に違いないって思ったからですよ」
妻(道子)「あなたなら素敵な小説が書けますわ」
妻(道子)「楽しみにしていますから」
妻(道子)「あら、もうすぐ日が暮れますね」
妻(道子)「あなた、ここから見える夕日と海がとても綺麗なんですよ」
  二人はソファーに座って外の景色を眺めた。
老年男性「本当だ綺麗だね」
  ほっとしたのか、まぶたが重くなり眠りへと落ちていった。
妻(道子)「台所の引き出しに私が書いたレシピのノートがあります」
妻(道子)「お味噌汁の作り方も書いてありますから探してみてください」
  かすか遠くに道子の声が聞こえた。

〇タクシーの後部座席
タクシー運転手 「お客さん着きましたよ」
老年男性「おぉ、寝てしまった」
  慌てるように料金を払いタクシーを降りた。

〇アパートの台所
老年男性「やっぱり今日もうまく作れん」
老年男性(そう言えば、道子が書いたノートが台所に・・・)
老年男性「いやいやあれは夢・・・まさかな?」
老年男性「あった!」
老年男性「味噌汁の作り方も書いてある」
老年男性「そうか、夢ではなかったのか!」
老年男性「ならば、小説も書かなくてはいけないな」
老年男性「母さんが喜びそうな推理小説、それとも恋愛小説が良いかな」
老年男性「さっそく図書館に行って小説に必要な資料を探しに行こう」
老年男性「いや、その前に味噌汁の材料を買いに行くかな」
老年男性「なんだか急に忙しくなってきましたな」
  おわり

コメント

  • 道子さんは夫が過去にやりたがっていたことを思い出させることで、彼に新たな未来を授けてくれたんですね。過去は振り返るだけのものではなく、未来を作るものでもあることを教えてもらった気がします。

  • 他作品も読ませていただきました!過去に行って、今の自分に向き合う大切さが伝わってきました。男性が料理上手な推理小説家として大成しますように!

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