裏表の鏡

jloo(ジロー)

裏表の鏡(脚本)

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〇撮影スタジオ
  病室、そこで笑う彼女を見て居たたまれない気持ちになる。
  「これで、良い」反芻するように、私は同じ言葉を繰り返す。
  そんな私の嘘を暴くかのように、後輩が肩を叩き言葉を刺した。

〇配信部屋
後輩「一人、鏡に向かって話し続ける。あれが、正常だと思いますか?」
木崎愛乃「貴方は、以前の彼女のことを知らないでしょう。だから、それが言えるのよ」
後輩「話ぐらいには、聞いていますよ。暴れて、手が付けられなかったのだとか」
木崎愛乃「あの部屋を用意してから、彼女の容態は随分と安定したの」
後輩「鏡に、囲まれた部屋ですか。常人なら、むしろ発狂してもおかしくない状況だと思いますけど」
木崎愛乃「彼女は人間不信が強いから、他人に心を開かないの」
木崎愛乃「だけど、相手が自分自身なら別。それが鏡の向こうの存在でも、構わないわ」
後輩「鏡の中の自分と話して、孤独を紛らわせているというわけですか」
後輩「ですが、私にはあの部屋に居続けることが彼女にとっての幸せとは思えませんが」
木崎愛乃「分かっているわ。でも、どうしようも無いじゃない・・・・・・」

〇撮影スタジオ
  部屋の様子を映した、モニターを見る。
  私は、幼い頃の彼女を知っていた。親戚として、成長を見守ってきた経緯があるからだ。
  誰よりも明るかった彼女が、まさかここまで変わってしまうとは。
  それでも、邂逅を果たしたのは運命のようなものだと思っている。
  この病棟で、本当の意味で彼女を支えられるのは私しか居ない。

〇配信部屋
木崎愛乃「何・・・・・・!?」
後輩「地震です! モニターが、破損しました!」
木崎愛乃「何ですって、早く彼女の様子を確認しないと」
後輩「この揺れじゃ、無理です。落ち着いてください!」

〇黒背景
  私たちは、机の下に身を隠して地震をやり過ごす。
  一分にも足らない程の出来事だったはずだが、心配からかそれ以上に長く感じた。
  揺れが収まると同時に、私は彼女の部屋へと駆け出した。

〇撮影スタジオ
木崎愛乃「千早ちゃん!!」
  部屋に駆けつけた時、彼女は怯えた様子で小刻みに震えていた。
  地震で割れたのか、鏡が壁から剥がれ落ち辺りに散らばっている。
  ふと壁に残った鏡に違和感を感じて、背筋が凍る。
  そこには、笑顔を浮かべたままの千早ちゃんの姿があった。
  周囲を取り囲む彼女たちは、皆幸せそうで・・・・・・。
  その直後、大きな揺れを感じた。

〇黒背景
木崎愛乃「千早ちゃん!!」
  私は、咄嗟に彼女を抱きしめる。
  身体が、動かせない。落下してきた瓦礫の、下敷きにされてしまったようだ。
木崎愛乃「大丈夫、大丈夫だから安心して」
  私は、胸に抱きしめた彼女を安心させるように言葉を掛け続ける。
  やがて、彼女の震えが収まっていくのと合わせるように地震も収まっていった。

〇中庭
男の子「千早ちゃん、行くよ! そーれ!」
月野千早「あ、ちょっと・・・・・・強く、蹴りすぎ」
男の子「やっべー、ごめんごめん」
  千早ちゃんは、今日も元気に病院の子どもたちと遊んでいる。
  一段と明るい彼女は、病院のムードメーカーだ。
木崎愛乃「ちょっと、髪型が乱れているかも」
  窓ガラスに映った、自分の姿を見つめる。はねた毛を手で梳かし、千早ちゃんの方に向き直る。
木崎愛乃「千早ちゃーん、私も混ぜてよ!」

〇黒背景
  立ち去っていく、私を見つめる。
  鏡の向こうの世界は、今日も幸せに満ち溢れている。
  私は暗闇の中、徐々に意識が遠ざかる感覚を感じていた。

コメント

  • 千早の世界は合わせ鏡が作る無限鏡の中で増殖していったのかもしれませんね。地震があったせいで、今まで保たれていた無限の平行時空がバランスを失って千早の心の本体が迷子になってしまったのかもしれない。愛乃自身も病んでしまいそうな恐ろしいラストでしたね。

  • 鏡の不思議な魅力と、怖さが感じられる物語ですね。ただ写しているだけの鏡のはずなのに、「向こう側の世界」を感じることってありますよね。千早ちゃんは、どの世界の彼女が本来の姿だったのでしょうかね。

  • 地震のショックがきっかけで彼女が少し外の世界に触れていくことに成功したのでしょうか。みんなのいる世界に飛び込んでいくことは簡単ではないでしょうが、表も裏も笑顔になってほしいですね。

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