暗い世界に、炎が一つ

jloo(ジロー)

暗い世界に、炎が一つ(脚本)

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〇荒野の城壁
  辺りは、黒い霧に包まれている。
  光は殆ど届かず、ただ目の前の焚き火の炎だけが周囲を照らしていた。
騎士「もうそろそろ、燃え尽きてしまいそうだな」
  ふっと出た溜息は、白く凍りつく。
  諦めに似た気持ちが身体を支配して、眠りについてしまいそうになる。
  だが、突然の物音に目を見開く。
騎士「誰か、居るのか!」
  炎の向こうに、影が見えた気がした。
  思わず立ち上がり、剣に手を掛ける。
  すると、霧の中からゆっくりと歩いてくる気配を感じた。
エリアス「驚かせてしまって、すみません。私は、エリアスと言うものです」
  この世界で、エリアスという名を名乗れる者は一人しか居ない。
  何故なら、それが神の名だからだ。
  地上の人間にその名が与えられることも無いし、万が一名を騙れば即日処刑は免れないだろう。
騎士「神の名を騙る、不届き者というわけか」
エリアス「信じて貰えないことも無理は無いかもしれませんが、私がその神です」
騎士「確か、エリアス様は光の神であったはず」
騎士「ならば、この暗闇を晴らして貰おうか。そうすれば、私の疑念も晴れるというもの」
エリアス「それは、出来ません」
エリアス「この暗闇をもたらしたのが、私だからです」
騎士「何のために?」
エリアス「闇が、人の心を救うこともあります」
エリアス「詳細は、話せません。この闇を晴らせば、貴方は絶望の淵に落とされてしまうでしょう」
騎士「リシアは・・・・・・私の婚約者は、どうしているのだ」
エリアス「それも、答えられません」
騎士「・・・・・・私が、絶望の淵に落とされることが心配だと言ったな。ならば、心配は無用だ」
騎士「直ちに、この黒い霧を払ってくれ。私は、リシアの安否を確かめる義務がある」
エリアス「分かりました。それならば、叶えましょう。ですが、決して後悔をなさらないように」
騎士「ああ、大丈夫だ」

〇赤い花のある草原
  私の言葉に合わせるように、黒い霧が晴れていく。
  見わたす限りの草原に立ち、足下の簡易な墓碑を見る。
騎士「リシア・・・・・・」
  そこに刻まれた文字を見て、思い出す。彼女が、既にこの世には居ないことを。
  葬儀の日から、焼かれる棺桶の炎が目に焼き付いて離れなかった。
  だがその心象も次第に収まり、灰は風に運ばれていく。
  私は、リシアとの婚約指輪を握りしめる。
  その熱が冷めない内に、私は墓碑を背に剣を握りしめた。

コメント

  • 奥行きのある世界観と細やかな設定、まるで長編のワンシーンを見ているようでした。闇を単に光の対義語して済まさず、その意味を神自ら示したところに深みを感じます

  • 「霧が晴れたように」という表現は本来は心が明るくなるときに使われるはずなのに、騎士にとっては愛する人の死を知ることを意味するとは、何とも切ない。それでも最後は心に区切りをつけて墓碑を背に新たな道を歩み出せそうでよかった。

  • かなり面白い作品だと思いました!世の中には知らない方が幸せなこともあり、そんな人たちのためにあえて闇を与える光の神。そんな光の神の祝福とも呼べる行いに対して、前にすすむため闇を払うことを願う騎士のその後の展開がすごく気になる作品だったので、機会があればその騎士の続編、あるいは、光の神がどうして闇を使い、人を助けるのか。というストーリーを描いてみるとすごく面白いと思います。これからも頑張ってください

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