とんでもない過程がもたらすものとは(エンカウンター編)

希与実

読切(脚本)

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〇街外れの荒地
  男性1.「は~い、ボランティアに来ていただいた方々はこちらで登録をお願いします」
  数日前に発生した地震の影響で方々に瓦礫が散乱した地で活動をする人々
  その中で被災を経験した人々は茫然とする者、何かを探す者、座り込む者、またボランティアの活動を手伝う者、
  それは人それぞれだが何故自分たちだけが被災にあったのか。その境遇を恨まずにはいられないだろう
  男性1.「はい、ここに住所と名前、その他必要な情報を記載してね」
瀬能正「・・はい」
  正は登録書に必要事項を記載する
  男性1.「今日は来てくれてありがとうね。はい、じゃこれ着けてあっちの所で指示をもらって。まあまずはトンでも」
瀬能正「トンでも?」
  男性1.「トン汁」
瀬能正「ああ、ありがとうございます。お腹減ってて、助かります」
  男性2.「登録を終わった方はこちらでトン汁をどうぞ」
  正はトン汁と手渡されたバッチを手にテントの下で腰を下ろした
  隣でトン汁を食べる若い女性を目にすると、その彼女、果歩の胸に正と同じ色のバッチがあった
瀬能正「あ、こんにちは」
天野果歩「・・・・」
  正が声をかけると不機嫌そうに正の方を向くが、またトン汁を食べる果歩
瀬能正「もしかしたら同じチームですね」
天野果歩「・・・・」
瀬能正「何をすれば良いのかな・・」
  果歩はトン汁を飲み干し、立ち上がって去ろうとする
天野果歩「お前、足ひっぱるんじゃねえぞ」
  正はその言葉に怯んだ
天野果歩「それとさ。ナンパするんならもっとマシな言葉をかけろよ。100年早えよ」
  果歩は正に見向きもしないでその場を後にする
瀬能正「・・・トンでもないな」

〇荒廃した市街地
  瓦礫の撤去作業をする果歩の所へ正が近寄る
瀬能正「こんにちは。また会いましたね」
天野果歩「・・・・」
瀬能正「ボランティア、よく来るの?」
  果歩は正に見向きもせずに瓦礫を片付け別の場所へ移動する
  正はそれを目で追うがその場に留まって作業を継続する
「また会ったよ彼女と」
  一人の初老が正に声をかける
羽賀洋介「天野果歩。京王大学法学部4年生」
瀬能正「えっ?裁判官を一番輩出するあの京王?それも法学部、トンでもないな。でもなんでこんな事を?4年じゃ卒論とか大変な時期なのに」
羽賀洋介「彼女とは何度かボランティア活動で一緒になってな。お前はどうなんだ」
瀬能正「ああ、俺は三流大学の4年だけど、卒論書くためにテーマをボランティアで」
羽賀洋介「なるほど、それでココに。彼女は既に単位を3年生で所得しているらしい」
羽賀洋介「その後は大学院に行って将来は裁判官。父親も裁判官だってさ」
瀬能正「は~、俺とは大違いだ。でもすごく気が強いよね」
羽賀洋介「まっ、あの容姿だから。強くないといっぱい虫がたかるだろ、お前みたいに」
瀬能正「いやいや。じゃおじさんは彼女の親衛隊?」
羽賀洋介「まあ、そんなとこだ。俺は羽賀洋介。気楽な独り身だ」
瀬能正「瀬能正です」
  二人は握手を交わした
瀬能正「なんで声を掛けてくれたのですか?」
羽賀洋介「なんか昔の俺に似てたからさ」
瀬能正(はあ~)
羽賀洋介「ナンパしないで手動かせよ」
  洋介は瓦礫を持って別の場所へ移動する
瀬能正「トンでもない、ナンパ野郎ってことですか・・」
  正は洋介を目で追うが、周りにいる人々と一緒に作業を続けた

〇病院の入口
  病院の玄関に停車してある車に荷物を入れる光里と義美
  数週間の入院を経て退院する義美を光里が手伝っていた
千堂光里「さ、行きましょうか」
増川義美「・・・・」
  荷物を入れ終えた二人は乗車し、光里はエンジンをスタートさせるとゆっくり車が病院から離れていった

〇停車した車内
  車の中でしばらく会話がない二人
  けっして自家用車とは云えない古びた軽自動車から、けっして上品とは云えないエンジン音が、
  その時を刻むように一定のリズムを排出していた
増川義美「後悔してない?まだ戻れるわよ」
千堂光里「・・・・」
増川義美「貴方の気持ちは嬉しかった。この先どうして良いかも考えられなかったし」
千堂光里「義美さんに一つだけ嘘をつきました」
増川義美「えっ?」
千堂光里「ぼくには義美さんの記憶がある・・」
増川義美「えっ?どうゆうこと?」
千堂光里「断片的ですが、あれは義美さんだったと確信してます」
増川義美「私の、ジャーナリスト時代の記憶なの?」
千堂光里「ぼくは一時期、貴女を恨んでいた。両親を助けなかった貴女を」
  義美の顔が急変した。そして頭の中が混乱した
増川義美「・・・何言ってるのかわからない。停めて、車を停めて」
  光里は車を停めた
  義美は車を降りると、自分の荷物を抱えてその場から離れて行く

〇海岸線の道路
千堂光里「義美さん」
  光里は車を降りて義美を追いかける
  光里は義美を引き留めるように、義美が抱えている荷物を奪い取った
増川義美「何するのよ」
千堂光里「行ってほしくないから」
増川義美「何よ突然、私を恨んでたとか両親を助けなかったとか。そんなの判らない。覚えてないよ。だからもういいから」
千堂光里「違うんだ。あれはぼくの誤解だった。これを説明するには時間が必要。だから車に戻ってくれませんか?」
千堂光里「お願いです。ぼくを信じてください。過去は過去です。それは消えません。それを踏まえて義美さんとこの先を歩みたいんです」
増川義美「・・・口が上手いな。それで何人の女性を不幸にしたの?」
千堂光里「とんでもないことです。その記憶、僕にはありませんから」
  義美は笑みを浮かべる。二人はゆっくりと車へ戻って行った

〇荒廃した街
  数日後、被災地では今日も瓦礫の撤去作業をする正、果歩、洋介の姿があった
羽賀洋介「どうだ正。卒論は進んでるのか?」
天野果歩「えっ?何それ。卒論を書くために来たの?」
瀬能正「あ、まあ、そんな感じで」
  果歩は正を正面から睨みつける
瀬能正(正(心の声)「・・美しい。スッピン・・だよな」)
天野果歩「お前!あの人達を見ろ」
  果歩は被災にあった地元の人々を指さした。その姿はどれも希望を失いかけている
  どうしてこうなったのか、自分が悪いのか、何が悪かったのか
  そして今何をしたら良いのかさえも考えられない状況なのだろう
天野果歩「どうにか、どうにか希望を捨てないでほしい、こんな状況であっても未来はある」
天野果歩「こんな私たちでも何かできないか。そう思って集まった人達なんだ。自分の勝手な都合でくるな。ボランティアをなめるんじゃねえ!」
羽賀洋介「まあまあ、天野ちゃん。理由はどうあれ、ココに来てやってくれているじゃない。それに何かを見つけたみたいだし」
  洋介は正が手にする写真盾を指さした
瀬能正「天野さんの云う通りです。ココに来る前はそんな自分勝手な考えで。先輩にも頼るつもりで」
瀬能正「でも何日か作業するうちに、その人の生活や家族環境が垣間見える物をいっぱい見つけて」
瀬能正「またそれを届ける事で自分も勇気をもらったりして。ありがとうって、云われたりして」
瀬能正「逆に自分が希望をもらったりして」
羽賀洋介「そう。いいんじゃない瀬能ちゃん。な、天野ちゃん」
天野果歩「お前。早くそれを届けてやれよ」
瀬能正「ん」
  正は被災にあった人達の所へ行って、探し当てた写真盾を皆に見せた
  次々とその盾を見る内に、持ち主であろう人が正に握手をして何度も頭を下げていた
羽賀洋介「やるじゃない」
天野果歩「これが普通だろ」
  正は近くの小さな男の子に手を繋がれて、少し離れたところに
  男の子は自慢するかのように垂直飛びをして正に見せる
  男の子は両手で「おいでおいで」と正に訴えかけた
瀬能正「よーし」
  正は両足を踏ん張り、両手を振り子のように前後に振るとジャンプ
瀬能正「あっ」
  足が滑って転倒した正の顔は、どろんこまみれになっていた
  それを見ていた男の子は指をさして笑った
天野果歩「フッ、飛んでもない。バカか」

コメント

  • どんな理由であれボランティアに参加すること自体がすごいと思う。写真を見つけたり子供の相手をしたり、被災者の笑顔を取り戻すこともボランティアの大切な役割だと感じました。最初はつんけんしていた果歩も少しずつ正の良さを受け入れていきそうな、ほのかな予感のラストが良かったです。

  • ボランテイアの定義って色々あるだろうけど、正君のようなきっかけで始めても全然いいんじゃないかなあと思います。人の為のようで、結局は自分の心を豊かにするのがボランティア活動なんじゃないかと。

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