第1話 大切な野球ボール(脚本)
〇ゲームセンター
東条宏哉「ちきしょー、また負けた・・・。 アツシおまえ強すぎんだよ〜っ!」
アツシ「いんやー、宏哉氏が弱すぎるんでゲスよー? このアツシ様にスクリーモファイターで挑むだなんて100年早いって話でゲス!」
東条宏哉「確かになぁ。 でも、少しは手加減してくれてもいーじゃねーか。 手も足も出ねぇわ・・・」
アツシ「手加減はしない主義なんでゲス、ひょっひょっひょっ」
アツシ「さぁて宏哉氏、次は何のゲームをするでゲスか? レースゲーム、リズムゲーム、パズルゲーム・・・なんでも相手するでゲスよ!」
東条宏哉「そうだなー、それじゃあ・・・」
東条宏哉「あっ! オレ、バイトあるんだった! 早く行かねーと・・・!」
アツシ「ん? 逃げるんでゲスか?」
東条宏哉「違ぇよ! くぅッ・・・いつかスクリーモファイターでコテンパンにしてやっからな、覚えとけ!」
〇通学路
オレは東条宏哉、何の変哲もない大学生だ。
学費を支払う為に『とあるアルバイト』をしている。
そのバイトっつーのが・・・
“身寄りのいない子供の父親代わりをする”ってゆー特殊なもんなんだ。
ガキは苦手だけど時給がいいから仕方なくやってる。
だけどよ、愛着でも湧かれたら面倒だからドライな対応で接してんだ。
んで、今日もその“ガキ”を相手に仕事をこなすってワケ。
だりぃけど、金を稼がねぇといけねーからなっ!
〇古いアパートの部屋
武瑠「あ、パパだー!」
東条宏哉「パ・・・お、おう。 元気か?」
武瑠「うんーー! 野球みてたっ!」
東条宏哉(ふー、パパって呼ばれんのやっぱ慣れねぇわ)
東条宏哉「武瑠はほんと野球が大好きだよな。 テレビも野球の試合ばっか観てんじゃん」
武瑠「野球大好きっ! プロ野球選手になるんだ!絶対!」
東条宏哉「へいへい。 まぁ頑張れよ」
武瑠「なにそれ! パパやな感じ! なれるもん、プロ野球選手っ!」
西条優香「はい、ケンカしなーい。 武瑠はお洋服に着替えよっか。 パパはとりあえずタイムカード押してきてね」
東条宏哉「うぃーっす」
〇古いアパートの廊下
武瑠は物心がつく前に両親を交通事故で失った。
んで、このアパート型の施設に預けられたんだ。
この施設には武瑠の他にも様々な事情で家族のいない子供がたくさんいる。
みんな、仮の両親と暮らしてんだ。
だからオレはたまたま武瑠の父親代わりとして雇用されたってだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
あの西条優香だってそうだ。
たまたま武瑠の母親代わりとして雇用されただけ。
オレの妻とかではない。
そう、特別な感情を持つ必要なんてない。
ただのアルバイトなんだからな。
〇古いアパートの部屋
西条優香「それじゃ・・・私はこのあたりで。 武瑠の事よろしくね、パパ」
東条宏哉「はいよ。 お疲れさん」
西条優香「あの、東条さん。 アルバイトとはいえ武瑠くんの父親代わりなんですからしっかりして下さいね」
東条宏哉「あいあい。 お疲れさん」
西条優香「もう・・・」
武瑠「パパ、ママ、なに話してるのー?」
西条優香「ううん、なんでもないよ。 パパと仲良くねっ」
武瑠「はーい!」
〇古いアパートの部屋
武瑠「わー! ホームランだーっ!」
東条宏哉「おーい、武瑠。 晩メシの買い物行くぞー」
武瑠「パパ!パパ! ホームランだよ! すごいねっ」
東条宏哉「あぁ・・・。 すごいな」
武瑠「・・・。 すごいって思ってないでしょ、パパ」
東条宏哉「んなこたねーよ。 ホームランはすごいもんだよ。 い・い・か・ら、買い物行くぞ」
武瑠「・・・」
武瑠「うんっ」
〇スーパーの店内
東条宏哉「んー・・・と。 野菜炒めにでもすっか」
東条宏哉「武瑠、野菜炒めでいーか?」
東条宏哉「・・・ん?」
東条宏哉「・・・・・・」
東条宏哉「やべ、見失っちまったぁぁ。 武瑠どこだ〜?」
〇ゲームセンター
武瑠「わー、野球ボールがいっぱいあるー!」
東条宏哉「武瑠、こんな所にいたのか。 焦ったじゃねーかよ・・・」
武瑠「パパ、野球ボール! たくさんっ!」
東条宏哉「UFOキャッチャーか。 でもこの野球ボール、ぶよぶよのゴムボールだぜ?」
武瑠「だいじょぶ! ほしいっ!」
東条宏哉「いや、大丈夫とかそんなんじゃなくて」
武瑠「すごくほしいっ!」
東条宏哉「だめだめ。 こーゆーのは取れねぇようにできてんだ」
武瑠「・・・」
東条宏哉「そんな悲しい顔しても、だめなもんはだーめ」
武瑠「・・・」
武瑠「・・・・・・」
武瑠「うわぁぁぁん! 野球ボールぅぅ!野球ボールぅぅぅ!」
東条宏哉「お、おい! 泣くなって〜!」
武瑠「うわぁぁぁぁぁん! うわぁぁぁぁぁん!」
東条宏哉「わ、わ、わかったから! UFOキャッチャーやるから! オレが取ってやるからっ! 泣くな〜!」
〇スーパーの店内
東条宏哉「お、おれの貴重な二千円が・・・」
武瑠「パパ、野球ボールうれしい!」
東条宏哉「そりゃ良かったな・・・。 取ったかいがあったってもんだよ・・・あはは・・・」
武瑠「・・・」
武瑠「パパ、ありがとっ!」
〇ゲームセンター
東条宏哉「くっそ、また負けた・・・」
アツシ「もういい加減に諦めるでゲスよ。 宏哉氏が僕にスクリーモファイターで勝てるワケがないんでゲス」
東条宏哉「いや、まだだ。 もう一戦させてくれ」
アツシ「ど、どうしたんでゲスか宏哉氏? 今日の宏哉氏は何かムキになってる感じがするでゲスよ・・・」
東条宏哉「ムキになってなんかねーよ・・・! とにかくもう一戦だ、くそ!」
アツシ「ほら、ムキになってるでゲス」
東条宏哉「だからオレはムキになってなんか・・・」
アツシ「ん、宏哉氏。 携帯が鳴ってるでゲス」
東条宏哉「くっ・・・誰だよこんな時にッ! アツシ、ちょっと待っててくれ」
〇郊外の道路
東条宏哉「げっ・・・西条からじゃねーか・・・。 勤務時間外に勘弁してくれよ」
東条宏哉「もしもしー。 勤務時間外なんすけど何か用っすか?」
あ、東条さん!?
武瑠くんが・・・武瑠くんが・・・!
東条宏哉「そうだよ、武瑠だよ。 昨日は武瑠のワガママで、スーパーのUFOキャッチャーで二千円も使っちま・・・」
武瑠くんが車に跳ねられたのッ!!
東条宏哉「えっ」
〇通学路
はぁ?
何やってんだオレ。
どうして自転車なんか走らせてんだ?
勤務時間外だぞ?
時給なんて出ねーんだぞ?
ガキじゃねーか。
他人じゃねーか。
でも、何でだ?
心臓がバクバクする。
冷や汗が止まらない。
わけわかんねーよ。
恐れてんのか?
ビビってんのか?
あー、もう知らねぇ。
武瑠・・・!
〇病室
東条宏哉「ハァッ!ハァッ! 武瑠・・・!」
西条優香「東条さん・・・」
東条宏哉「た、武瑠の様態は・・・?」
西条優香「全治二週間。 命に別条はないって」
東条宏哉「そうか、よかった・・・」
東条宏哉「でも、どうして車に跳ねられたんすか?」
西条優香「野球ボールが道路に転がっていっちゃって。 取りに行こうとして、その時に・・・」
東条宏哉「・・・・・・」
西条優香「東条さんからもらったボールだって。 とーっても大事にしてたのよ」
武瑠(・・・かきーん・・・ホームラン・・・むにゃむにゃ・・・)
東条宏哉「武瑠、お前・・・」
東条宏哉「うっ・・・うぅぅ・・・」
西条優香(東条さん、ちゃんとお父さんしてるじゃない)
西条優香「ふふっ」
〇古いアパートの部屋
東条宏哉「おーい、武瑠いるかー?」
武瑠「パパ!」
西条優香「あら、パパ。 ちょっと出勤早くない?」
東条宏哉「今日は武瑠と行きたい所があってな。 武瑠、服着替えてこい」
武瑠「わかったー!」
西条優香「うーん?」
〇野球場の観客席
武瑠「パ・・・パパ・・・パパパパパパパパ・・・」
東条宏哉「武瑠、興奮しすぎだっつーの。 今日はパパと楽しく野球観戦だ」
武瑠「プ・・・ププ・・・プププププロ野球・・・」
東条宏哉「おもしれーやつだな武瑠は。 いつも良い子にしているご褒美だよ」
武瑠「・・・・・・」
武瑠「ふんっ!ふんっ!」
東条宏哉「お、試合始まったぞっ!」
〇空
ってな感じで、オレは不器用ながらも武瑠と楽しく過ごし始めている。
パパって呼ばれるのにも少しは慣れてきた。
まぁでも、これはバイトだ。
あくまで仕事。
あくまで仮の家族。
結局は父親代わり。
余計な感情は持たない。
出来るだけドライな関係を保つように心掛ける。
そう。
ドライな関係・・・ドライな関係・・・
〇古いアパートの部屋
東条宏哉「おーーい、武瑠ーー! キャッチボールしようぜーーッ!」
武瑠「あ、パパ! キャッチボールするーーッ!」
西条優香「パパ、ま~た勤務時間外に来たのね・・・ふふっ」
東条宏哉「そりゃオレは武瑠が大好きなんだから当たり前だろ! 毎日会いたい! 24時間会いたい!」
西条優香(東条さん、完全に親バカ化してる・・・)
東条宏哉「よぅし、それじゃあ公園まで競走だーーッ!」
武瑠「おーーッ!」
〇広い公園
東条宏哉「武瑠はコントロールがいいな。 ボールもちゃんと伸びてる」
武瑠「毎日練習してるもん!」
東条宏哉「武瑠は努力家なんだな。 えらいよ」
武瑠「パパー」
東条宏哉「ん、なんだ?」
武瑠「プロ野球選手、なれるかなぁ・・・?」
東条宏哉「・・・・・・」
東条宏哉「頑張ればなれるかもなっ!」
武瑠「う、うん・・・! が・・・がが・・・がんばるっ!」
東条宏哉「おう、ファイトだ!」
バイトだと言いながら本気になっていく展開が胸熱でした
母親の子との仲の進展とか本当の親との比較とか、色々と話が膨らませられそうですね
わー!!✨(´;ω;`)凄く良いお話です!!✨
まさにヒューマンのど真ん中なお話でした!!✨(*´꒳`*)
最初はバイトだからやってるという感じだったのに、1話が終わる頃にはもうメロメロに・・・愛を感じましたね✨
凄く素敵なお話でした!!ありがとうございました✨😊
レンタル彼氏の父親版みたいなのを想定して読んでいたのですが、子供が大きくなるまで育てる家族代わりなんですね! 仕事だって割り切ってても、情が湧いちゃいますね。家族になるってこういうことだよなぁ、と。
なんかね、このお話はこれから父親になる全男性に読んでほしいと思ってしまいました(目的違いますね😅)
優しいお話に胸が温かくなりました!ありがとうございました😊